討論会2.0:エネルギー政策への警告

2011年03月25日 ブレンダン・バレット ロイヤルメルボルン工科大学

地震と津波が東北・関東地方を襲ってから、ちょうど1週間が経過した。天候が悪化したため、救出活動や支援活動に支障を来している。悲しいことに、福島の原子力発電所での悲惨な事故が世間の関心を支援活動から遠ざけ、事故現場の近くにいる人々はひどく不安な状況に置かれ多大な危険にさらされている。彼らの多くは避難所で見放されたような気持ちを感じているほどである。

避難者たちは力を合わせ、非常に困難な状況を乗り越えようとしている。幸いにも新たな供給ルートが開かれ、物資が行き届き始めている。

一方、報道機関やインターネットは福島で何が起こっているのかについて専門家たちの意見を一斉に流し始めた。福島の事故は史上最も深刻な原発事故の1つであり、専門家たちは想定される最悪のシナリオについて言及している。彼らの多様な見解が日本に住む多くの人々を混乱と恐怖に陥れており、東京周辺やその他の地域に住む外国人、そして編集部の私たちも同じ状況にある。

今は細かい分析や原因究明を行う時ではない。今回の災害をめぐる出来事を検証し、そこから学ぶための時間は、今後たっぷりあるだろう。

しかし、被災地から遠く離れた場所にいて災害を免れた人々には今回の出来事についてご一考いただき、意見をお寄せいただきたい。原子力発電所の事故をめぐる日本での出来事は、エネルギーに関するあなたの考え方やエネルギーと生活の関係、未来への展望を変えただろうか?

未来は今

Our World 2.0の読者ならご記憶にあると思うが、私たちは偶然にも1カ月ほど前、原子力エネルギーに関する記事を掲載した。コメントを寄せてくれたのは5人だけで、その反応の少なさに私たちは正直なところがっかりしたのだが、コメントを寄せてくれた読者の1人、Globalciti氏は次のような興味深い意見を寄せてくれた。

「今どれほど切実にエネルギーを必要だとしても、私たちは将来になって原子力エネルギーへ投資したことを悔やむ気がする。ウランが土壌から発掘された瞬間から、それが廃棄物となって再び地中深くに埋めざるを得なくなるまで、その過程のすべてが危険を及ぼす可能性をはらんでいるように思えるのだ」

Globalciti氏は、自身が語った将来がこれほど早くやって来るとは思ってもいなかったはずだ。その一方、私たちは多くの国々で原子力ルネサンス(原子力発電の見直し)が起こりつつあることも報告した。原子力発電は気候変動の要因にはならないため、温暖化ガスの排出量を抑えるエネルギー源の1つとして(良くも悪くも)考えられているのだ。

津波が日本を襲い、その結果、原発事故が起こってからちょうど1週間後の今日の印象としては、以前よりも多くの人々が原子力発電のメリットについて明確な意見を持つようになったようだ。しかし特定のエネルギー源について論じる場合、ある電力源に対抗する別の電力源の利権が絡み、バイアスのかかった議論になることが多い。あなたが原子力産業に従事していたり、関係があったりすれば、原子力以外の選択肢に対して心を閉じる傾向がある。同様に、あなたが再生可能エネルギーの熱心な推進派なら、他の選択肢をよりよい解決法だとは考えにくいものだ。

恐らく今こそ、こうした議論に心を開いて再び参加するチャンスなのだ。化石燃料への依存はもちろんのこと、原子力発電への依存から私たちは脱却すべきだろうか。そしてそれは可能だろうか。エネルギー不足を原子力以外の方法でどの程度埋められるのか。選択肢として他に何があるのか。例えば私たちは将来的にエネルギー生産量を減らし、今より少ない電力消費でやっていけるのだろうか。東京のように、とてつもない電力量を消費するメトロポリスが今日の危機的状況で電気を節約できるなら、通常の状況下でも電力やその他の限りある資源を節約することを習慣にできるのではないか。

本記事の狙いは、エネルギーが世界でどのように扱われるべきかについて、あなたの意見を読者の皆さんと共有する機会を持つことだ。あなたがエネルギー問題の専門家でなくても気にすることはない。私たちは現時点でのあなたの気持ちと、エネルギーを消費する世界の未来について意見を聞かせていただきたい。

自然は意見を表明した。今度はあなたの番だ。

翻訳:髙碕文子

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著者

ブレンダン・バレット

ロイヤルメルボルン工科大学

ブレンダン・バレットは、東京にある国連大学サステイナビリティ高等研究所の客員研究員であり、ロイヤルメルボルン工科大学 (RMIT) の特別研究員である。民間部門、大学・研究機関、国際機関での職歴がある。ウェブと情報テクノロジーを駆使し、環境と人間安全保障の問題に関する情報伝達や講義、また研究をおこなっている。RMITに加わる前は、国連機関である国連環境計画と国連大学で、約20年にわたり勤務した。