討論会2.0:グリーンテクノロジーの移転

知的財産(IP)に関する議論は、先進国と開発途上国の間で最も意見が分かれているものの1つだ。順調に経済成長を進めたい開発途上国は、多国籍企業が開発し特許を取得している先進技術を、先進国から手に入れたいと考える。しかし多国籍企業側が研究開発に要した投資額を反映するものとして設定している価格は、貧しい国々の政府が支払える額ではない。

南北問題のうち、最も顕著な分野はHIV・AIDSに関するものだ。抗レトロウィルス薬が極めて高価なため、この病気を恐れるタイなどの途上国は、国民に必要な薬が手ごろな価格で手に入るように、特許ではなく強制使用許諾を行使することとした。

しかし最近になって、世界的に温室効果ガス削減の動きが加速する中、グリーンテクノロジー(環境技術)の分野における技術移転メカニズムを進展させる必要性に注目が集まっている。コペンハーゲンとカンクンでの気候変動会議(それぞれCOP15、COP16)で、途上国は、進化型太陽光パネルなど環境技術を手ごろな値段で提供してほしいと訴えた。

だが世界知的所有権機関(WIPO)(「公共の利益を守る一方で、創造に対して報い、イノベーションを促進し、そしてすべての国の経済、社会、文化の発展に貢献するバランスの取れた利用しやすい国際的なIP制度の発展に取り組んでいる」)は未だに国際的合意をもたらすことができずにいる。

日本知的財産協会(JIPA)はGreen Technology Package Program(GTPP環境技術パッケージ)を提案した。これは途上国のグリーンテクノロジーの需要に見合う技術(ほとんどは先進国からのもの)を提供するためのデータベースである。2010年4月にGTPPは試験的にこれを開始し、今年12月の南アフリカダーバンでのCOP17で正式に成立する予定となっている。

似たようなイニシアティブはこれまでにもあったが、GTPPの特徴は、ユーザーに特許を使用するライセンスだけではなく、技術的ノウハウも提供する点が異なる。

「GTPPは公共の利益と民間の利益の中間点に位置するものです」本田技研工業株式会社 知的財産部企画室長、川村裕一郎氏は話す。GTPP推進プロジェクトリーダーも務める川村氏は、先月末に国連大学高等研究所で行われたセミナーで講演し、GTPPはビジネスの機会を増やすだけではなく、世界全体におけるグリーンテクノロジーを世界的に広めるためにも役立つものだと、その概要を説明した。

「私たちの技術は気候問題を改善する助けとなり得ます」と川村氏は話した。「ただし、そのためには特許を守る法的システムが欠かせません」

だが、川村氏が提案するように参加国が制限されれば、グリーンテクノロジーを最も必要としている途上国を除外することにならないだろうか。

GTPPは、COP17開催後は川村氏が「中立的な機関」と呼ぶWIPOによって運営される。だが多くの人々は、WIPOの競争原理や特許システムへの忠誠心を疑っており、現在多数を占める国連加盟国寄りなのではないかと批判している。

HIV・AIDSに関する経緯を考えると、世界の新技術開発を促進すると同時に、必要とする国々に適正な価格で提供できるようなグリーンテクノロジーの移転は可能なのだろうか。GTPPもまた、多国籍企業が市場支配力を維持し、途上国のグリーンテクノロジー競争への参入を阻むための企みに過ぎないのだろうか。

この件に関連して、そもそもWIPOのような特別国連機関が、グリーンテクノロジー開発に対し真に中立的な立場を取ることなど可能なのだろうか。WIPOでは無理ならば、どのような国際機関の下でなら、持続可能な未来に不可欠なグリーンテクノロジー開発に世界が共同して取り組むことができるだろうか。

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著者

マーク・ノタラスは2009年~2012年まで国連大学メディアセンターのOur World 2.0 のライター兼編集者であり、また国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)の研究員であった。オーストラリア国立大学とオスロのPeace Research Institute (PRIO) にて国際関係学(平和紛争分野を専攻)の修士号を取得し、2013年にはバンコクのChulalpngkorn 大学にてロータリーの平和フェローシップを修了している。現在彼は東ティモールのNGOでコミュニティーで行う農業や紛争解決のプロジェクトのアドバイザーとして活躍している。