深海の重要性、研究によって明らかに

深海は広大で暗く、遠く離れた場所であり、そのほとんどは人間が近づきがたい場所だ。しかし深海は、地球上で動物に好適な環境の体積の98.5%を占め、大気からの炭素隔離を含む世界的な規模の重要な機能を持つ。

しかし、200本を超える科学論文に関する新たなレビューで説明されているように、深海は気候変動の影響に直面しており、深海以外の場所での資源の枯渇に伴って、人類は食料、エネルギー、金や銀といった金属を深海からますます抽出しつつある。

欧州地球科学連合(EGU)の定期刊行物である『Biogeosciences(生命地球科学)』誌に本日発表された研究によると、深海は魚種資源を育て、炭素シンクとして機能し、石油、ガス、貴金属、現代の電子技術やバッテリーに用いられる希少鉱物を大量に埋蔵していることが明らかに示された。

さらに、同研究の国際的な研究者チームは、熱水噴出孔やその他の深海環境は、新しい抗生物質や抗がん剤の供給源であるバクテリアや海綿動物といった生命体が生育する場所であると説明する。さらに深海には文化的価値もある。深海の神秘的な種や手つかずの環境は、神話や文学や大衆映画の題材となってきた。

「私たちは深海の価値を認識すべきです。そうすれば今後、深海をさらにどう活用するかを考えたときに、深海がすでに供給しているサービスを妨げたり失ったりせずに済みます」と、同研究の主要筆者であるアンドリュー・サーバー氏は語る。同氏はアメリカのオレゴン州立大学、College of Earth, Ocean and Atmospheric Sciences(地球・海洋・大気科学学部)の研究者だ。

「開発がこれ以上に進む前の今こそ、深海の管理について議論すべきです」

広大な海、絶大な価値

「深海は非常に遠い世界ですが、きわめて多くの面で私たちに影響を及ぼします。だからこそ情熱を傾けるべき研究分野なのです。すなわち、深海には何があるのか、また、私たちには探究すべきことがまだ多くあるということを人々に知らせるべきです」と、同研究の共同執筆者で英国のプリマス海洋研究所のイエルーン・インゲルス氏は語る。同研究はノルウェーにあるInternational Research Institute of Stavanger(スタバンゲル国際リサーチ研究所)でのワークショップの成果であり、INDEEP(深海生態系科学調査の国際ネットワーク)の後援のもと、Total Foundation(トータル・ファウンデーション)の助成金を得て行われた。

「何かしなくてはならないと感じました」とインゲルス氏は語る。「私たちの誰もが、深海を今日的な文脈の中で捉えることに情熱を傾けていました。そして、深海が私たちにどんな影響を与えるのかを、科学者、非専門家、最終的には政策決定者を含む幅広い大衆に対して説明しようとする活動がほとんどないということが分かったのです。埋めるべき隔たりがありました。そこで私たちは『隔たりを埋めよう』と宣言したのです」

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深海は何世紀もの間、芸術の題材となってきた。この絵画の写真は芸術家のリリー・サイモンソン氏 による作品だ。サイモンソン氏は自身の作品のミューズとして深海の動物を扱う。Photo: Lily Simonson. Creative Commons BY-SA.

執筆者らは、深海の機能に関する科学者の理解はいまだに限られていると記している。しかし、深海と海底は、補助、供給、調整、文化に関連した多様なサービスを通じて、私たちの暮らしにきわめて重大な存在であるという。

「私たちの誰もが、深海を今日的な文脈の中で捉えることに情熱を傾けていました。そして、深海が私たちにどんな影響を与えるのかを、科学者、非専門家、最終的には政策決定者を含む幅広い大衆に対して説明しようとする活動がほとんどないということが分かったのです」

深海の重要性の一端は、海洋の「生物学的ポンプ」機能、つまり生物学的な原動力によって炭素を大気から深海に隔離する働きに起因する。本研究によると、このポンプは炭素を大気から、長期間にわたって分離された深海の水塊に移動させ、人間の活動に起因する炭素放出の影響を削減する。微生物によるメタンの酸化も、炭素を自生炭酸塩に封じ込め、強力な温室効果ガスを大気から閉め出す働きがある。

次に主要なサービスが、深海に生息する大小のあらゆる動物によって供給される栄養再生機能だ。このサービスは、海面付近での生産性や漁場を活性化するために必要な成分を生む。さらに微生物の活動は多様な化合物を解毒する。

研究者らは、こうした各プロセスは非常に小さな規模で起こると解説する。しかし、プロセスが生じる範囲が非常に広いことを考慮した場合、そうしたプロセスは海洋の全地球的機能にとって重要なものとなる。

「多くの機能は、ミクロン単位からメートル単位で、数年をかけて働きますが、その結果として派生するサービスが有効になるのは、組織的な活動が数世紀にわたって行われた後なのです」

サーバー氏は次のような例もあげた。深海のマンガン団塊にはニッケル、銅、コバルト、希土類鉱物が含まれているが、その形成は数世紀あるいはそれよりも長い時間がかかり、再生可能ではない。同様に、成長が遅く、寿命が長い、深海に生息する魚やサンゴの種は、乱獲の影響を受けやすい。「つまり、深海で資源を採取し始める際には異なる手法をとる必要があるということです」

「本研究は、深海の資源を規制しようとしている人々や規制し始めている人々に深海の恩恵を理解してもらうための第一歩です」とサーバー氏は語る。深海の重要性を浮き彫りにし、他の環境と異なる特性を確認することで、研究者たちは効果的で持続可能な深海の管理のための道具を提供したいと考えている。

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研究論文「Ecosystem function and services provided by the deep sea(深海より提供される生態系の機能とサービス)」が
オンライン
でご覧いただけます(無料)。

翻訳:髙﨑文子

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深海の重要性、研究によって明らかに by キャロル・スミス is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 4.0 International License.

著者

キャロル・スミスは環境保護に強い関心を寄せるジャーナリスト。グローバル規模の問題に公平かつ持続可能なソリューションを探るうえでより多くの人たちに参加してもらうには、入手しやすい方法で前向きに情報を示すことがカギになると考えている。カナダ、モントリオール出身のキャロルは東京在住中の2008年に国連大学メディアセンターの一員となり、現在はカナダのバンクーバーから引き続き同センターの業務に協力している。