国連安全保障理事会の内外で多国間主義の擁護を

2019年1月1日、ドイツが他の9カ国とともに非常任理事国として加わった国連安全保障理事会は、多国間主義の深刻な危機と新たな大国間の競争を色濃く反映している。これを機会にドイツは、ルールに基づく国際秩序を支える基盤として、貢献するべきだ。

国連にとって最も差し迫った課題は、トランプ政権の「アメリカ・ファースト」主義である。多国間主義を米国の主権への脅威とみなしているためだ。その結果、米国は国連の各種計画への拠出金を大幅に削減しただけでなく、パリ気候協定やイランとの核合意、人権理事会をはじめとする国連の主要な条約や機構にも背を向けた。

しかし、多国間主義の根本的な原因は、ホワイトハウスの外交政策だけにあるのではない。トランプ政権は、多国間の条約や規範に極めて懐疑的な国粋主義の強い政権の増大を最も明確に示している例にすぎない。最近になって締結された「移住に関するグローバル・コンパクト」への加入をヨーロッパの10カ国が拒んでいる事実も、この傾向を如実に示している。

米国、ロシア、中国という、拒否権を有する大国間で緊張状態が高まっている状況も、同じく不安な兆候だ。実際、これによってシリア、ウクライナ、イエメンの危機に関する安保理の審議は空回りしている。これまでは、米国とロシアの敵対関係が目立っていたが、米政権が中国に対する封じ込め政策を進める中で、さらに混迷が深まり、国連の対応能力に劇的な影響が及ぶのではないかという懸念も生まれている。

この行き詰まりを助長しているのが、時代遅れとなった安全保障理事会の構造と手続きだ。常任理事が5カ国という構造は、1945年に機能した構造であって、今日は現実的ではない。しかも、常任理事国は安保理の手順を仕切り、非常任理事国による影響力の行使を難しくしている。事態の打開には包括的な改革が必要だが、国際政治の緊張が高まっている今、その見通しはまったく立っていない。

ドイツは、ルールに基づく秩序の維持に大きな関心を寄せている。なぜなら、外交において主導権を握るための政治的、経済的な力になりえるからだ。

この複雑な課題を前に、国連はドイツに大きな関心を寄せている。ルールに基づく秩序の維持は、外交において主導権を握るための政治的、経済的な力になりえるからだ。しかもニューヨークには、メルケル首相の元外交政策顧問クリストフ・ホイスゲン氏が率いる有能な代表部もある。では、ドイツは国連の強化にどう寄与できるのだろうか。

第1に、鞭(むち)を手にすることだ。米国のセオドア・ルーズベルト元大統領が、外交を「大きな鞭を持って穏やかに話すこと」と形容したのはよく知られている。これに対し、ドイツは通常、外交で自制を働かせて「ソフト・パワー」を使う傾向にある。だが、安全保障理事会で票を得て、立場を強めるためには、強硬な姿勢も欠かせない。この点でドイツは、ヨーロッパのパートナーとの密接な協力により、力を発揮する必要がある。ヨーロッパはその援助を基に、一部常任理事国からの圧力にさらされている開発途上理事国を支援できるという事情もあるからだ。イランとの合意を維持する取り組みの一環として早期に設置した、イランと取引する企業を米国による制裁から守るための特別な目的媒体は、場合によって、EUが多国間主義の擁護を意図した対応も辞さないという姿勢を示しているとも言える。また中期的に、ヨーロッパの防衛力整備への投資を行えば、安全保障理事会におけるEUの地位強化にも役立つだろう。

第2は、立ち位置の巧みな変更だ。ドイツがリベラルな価値観を共有する国々の結束を強化する必要性は、言うまでもない。しかし、ドイツはその一方で、必ずしも志を同じくしないパートナーとも、テーマ別の協力関係を構築するべきだ。ハイコ・マース外相が最近になって立ち上げた「多国間主義のための同盟」は、有用な枠組みとして活用できる可能性もある。気候変動に関するEUと中国の協力についても、同じようなアプローチの要素が見られる。また、このような連携関係にグローバル・サウスの主要メンバーを取り込めば、国連で指導力を発揮できるだろう。そして実際に、その必要もある。インドネシアと南アフリカの安保理への参加は、特に大きなチャンスだ。

第3は、常任理事国間の協力の促進だ。安保理が難しい状況にあるのは確かだが、それでも冷戦時の麻痺状態程ではない。2017年だけでも、執行決議の採択数は設立当初の50年間を超えている。利害が一致する場合、常任理事国が安保理の機能を維持したいと望んでいる証拠だ。核不拡散やアフリカの紛争管理、テロ対策など、これらがドイツの利益に合致する場合もある。ドイツは間違いなく、このような協力を支援し、強化する機会を模索してゆくだろう。

国粋主義政党の全世界的な台頭は、これまで多くの政府が多国間連携と国連の価値を国民にしっかり伝えてこなかったことを明らかにした。

第4に、5大国による安保理の支配に対する挑戦だ。ドイツは、常任理事国による安保理の締め付けを緩められる絶好の立場にいる。非常任理事国間の協調関係を育成し、圧力を加えることもできる。そのうちの7カ国が反対票を投じれば、決議の採択を阻止できるからだ。常任理事国が「ペンホルダー」として、ほとんどの決議案を作るという安保理の不健全な習慣にも、ドイツは異議を唱えられるだろう。例えばウクライナ問題に対し、ドイツが主導的な役割を担える可能性は十分にある。

そして第5に、国連への関与強化に対する世論の支持を盛り上げることが挙げられる。国粋主義政党の全世界的な台頭で明らかになったのは、多くの政府がこれまで、多国間連携と国連の価値を国民にしっかりと伝えてこなかったということだ。「移住に関するグローバル・コンパクト」に反対するキャンペーンの台頭に対しては、ドイツもさらに積極的な対策を取る必要がある。ドイツが安保理議長国を務める4月に、首相がニューヨークを訪問すれば、その強い意思表示となるだろう。フランスのマクロン大統領が最近立ち上げた、全世界からステークホルダーを募り、グローバルな課題への対処方法について話し合う年次「公開平和フォーラム」も、参考になるだろう。

ドイツで政治を語る時、国連には高い地位が与えられている。ドイツ政府は重要な時期である今こそ、この世界的組織の強化に対する具体的な貢献を果たせる。これは決して、遠く離れたニューヨークでの官僚の仕事ではなく、ドイツの根本的な国益に関係しているのだ。

•••

この記事は初めにドイツ語で、Sueddeutsche Zeitung (2018年12月27日)に掲載されました。

著者

セバスティアン・フォン・アインジーデルは、ドイツのボンを本拠とする国連大学欧州事務所(UNU-ViE)副学長。それ以前は、国連大学政策研究センター(UNU-CPR)の初代所長を、2014年の発足当初から、2018年初めに東京からニューヨークの国連大学事務所に併合されるまで務めた。国連での10年を超えるキャリアを含め、およそ17年にわたり国際問題の分野で専門的な職務経験を積んでいる。