気候会議COP26の1年延期が正しい決定である理由

気候変動枠組条約(UNFCCC)締約国会議事務局と、英国およびイタリアは、第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)の新たな開催日に合意した。2021年11月1日から12日にかけ、スコットランドのグラスゴーで開催される予定だ。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響によるCOP 26の1年の延期は、やむを得ない決定と言える。包摂的な政策決定を他のかたちに置き換えることはできず、また、それを省くべきでもないからだ。

COVID-19によって、グローバル・ガバナンスの機能は混乱に陥っている。多くの組織や企業は、オンライン形式やバーチャルなやり取りを新たに試験的に導入し成果を上げているが、これを国際的な政策立案に簡単に適応させることはできない。正当な国際法や規範を形成するためには、包摂的な政策決定が前提条件となる。

渡航規制が続くと予測されるため、必要な準備会合やプロセスを実施できないことは間違いない。外交的なやり取りや説得もまた、廊下で非公式に行われることが多いため、インターネットでは不可能だ。

現状では、テクノロジーも不公正さを含んでいる。通信へのアクセスは、特に後発開発途上国からの出席者にとって問題になるからだ。UNFCCCの強みとして、最も大きな影響を受ける国や人々をはじめ、あらゆる声が交渉プロセスに反映されることが挙げられる。この原則は守られなければいけない。COP 26の延期が正しい決定だと言える理由は、そこにある。

気候変動対策は待ったなし

COP 26の議長国は、気候サミットを延期するからといって気候変動対策の延期を意味するわけではないと表明した。それどころか、COVID-19によってもたらされるグローバルな混乱は、地球規模の変革を後押ししている。当然のことながら、危機対応は現在多くの政府の最優先課題となっており、当面の人的な困窮や苦痛を和らげ、COVID-19による経済的・社会的影響の波及を抑えることに注力しなければならない。

各国が経済活動を再開する際、長期の持続可能な開発を強化する措置に重点を置く必要がある。投資によってエネルギー転換や新しい持続可能な食料システム、持続可能な輸送システムとインフラを前進させるとともに、持続可能なビジネスモデルと生活を可能にする状況を作り出すことが必要だ。

一番重要なのは、政策決定者が具体的に「レジリエンス(回復力)」の配当」を目指すことだ。つまり、リスクの削減と管理を後押しするために、投資の組織的なリスク審査を行うとともに、最も開発ポテンシャルが高く、最大のコベネフィット(相乗的な便益)を生み出せる措置を、優先的に採用しなければならない。COVID-19は、地球規模の劇的な災害体験だ。しかしこのような経験からは、優先課題を絞り直し、将来の災害に対するレジリエンスの向上を促進する機会も生まれる。

関連する政策を推進

今後数カ月の間、政治的討論が停滞することはないだろう。今こそ、従来のものに代わる予想と目標を定め、野心を新たにするとともに、各国の気候変動対策を長期的な気候安定化により一層つなげていくことを最優先課題としなければならない。

各国は、COVID-19からの復興への投資を、気候関連の野心に見合ったものにする必要がある。そのいい例としては、2050年までに欧州の気候中立(温室効果ガスの実質排出ゼロ)を達成するための政策「欧州グリーンディール」が挙げられる。欧州連合(EU)諸国はその詳細を今後数カ月で詰め、COVID-19対策に取り組もうとする中で「グリーン復興」につなげなければならない。

もう一つの指針は、気候ファイナンス(気候変動対策の資金調達)に関するものだ。COP 26では、2020年までに年間1,000億米ドルの気候ファイナンスを達成するため、全世界の資金拠出公約の現状を把握するとともに、次の世界的目標を策定するプロセスを立ち上げ、さらなる前進を示すことになっていた。このプロセスは、主要7か国(G7)や主要20カ国・地域(G20)の会合のほか、国際通貨基金(IMF)・世界銀行会合など、代替的なフォーラムに統合できる。また、先進国は、これまでの金額を上回る気候ファイナンスを個別に誓約することにより、決意を表明することもできる。

気候サミットのもう一つの重要な機能として、国際社会を結集させ、得られた教訓を交換し、現状のトレンドや進捗状況について議論するとともに、グローバルな政策決定の様子を一般市民に可視化することが挙げられる。このようなやり取りを可能にする空間やプラットフォームを設けることが、今求められている。

オンラインで交渉自体を行えなくても、気候変動対策関係者のつながりを作ることはできる。例えば、2018年に「気候脆弱性フォーラム」の議長国を務めたマーシャル諸島共和国は、完全オンラインの気候サミットを24時間体制で開催した。テーマ別のパネルディスカッションやソーシャルメディア、録音によるリーダーの声明をうまく組み合わせながら、サミットは世論の圧力や議論を作り出すことに成功した。

このようなイベントは今後数カ月間、この重要な時期にも気候変動対策が滞ることなく、その勢いを保てるようにするという意味で、重要な役割を果たすことになるだろう。

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この記事は最初にThomson Reuters Foundation News掲載されました。

著者

ゾンケ・クレフトはボン(ドイツ)の国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)研究員であり、ミュンヘン気候保険イニシアティブにおける取り組みを指揮している。保険関連の知識を国際的な政策立案に活かすとともに、気候変動のリスクにさらされている貧困・弱者層に資する気候リスク保険を確保するための革新的なアイデアの実現に努めている。