再認識されるココナッツの素晴らしさ

ココナッツには、農業からエネルギー、建設、医療まで、さまざまな用途がある。ココナッツの研究はまだ緒についたばかりだが、多様な用途があるココヤシは数千年もの間、コミュニティを支えてきた。

1970年代、硬い毛に覆われたこの果物を賞賛したハリー・ウィルソンの歌「ココナッツ」が米国の音楽チャートを駆け上った。その歌詞には「ココナッツ入りのライムジュースが少しあれば気分が良くなる」とある。今日、米国の飲料業界は、繊維質の殻に包まれたこの果物の良さを再発見している。米国ではココナッツウォーターが幅広い人気で、自然食品の世界でも引っ張りだこだ。業界で最大の企業は米国のビタ・ココである。同社は過去数年で売上を5倍以上に伸ばした。ココナッツ信仰は売上と同様に高まっている。ココナッツミルクは血圧とコレステロールを下げるのに効果があると考えられている。

ココナッツオイルの抗がん作用

ココナッツの多面的な用途に対する期待と希望も膨らみ続けている。自然療法医でココナッツの専門家であるブルース・ファイフ氏は、丸くて茶色いこの果物は彼のがん研究にもおおいに役立ったと述べている。

ファイフ氏は、米国コロラド州にある彼のココナッツ・リサーチ・センターで、動物を用いて実験を行い、ココナッツオイルの抗がん作用を研究している。彼は次のように語る。「がん細胞を持つ動物すべてに与える食べ物は、オイルを加えるかどうかを除いては、まったく同じです。オリーブオイル、ヒマワリ油、菜種油、ココナッツオイル、その他を試しました。ココナッツオイルを与えた動物以外では、いずれもがんが進行したのです」

米国がん研究協会(AICR)は、ココナッツオイルががんの治療に有効だという誇大な宣伝には警鐘を鳴らしている。セレンを多く含んでいるため、ココナッツには人間の細胞の老化を遅らせる抗酸化物質が豊富だ。しかし、AICRは、ココナッツの抗がん作用について、現時点で明確になっていることはほとんどないと報告している。

それでも、ココナッツミルクはカリウム、ビタミンC、マグネシウムを多く含むため、代用にするなら極めて健康的だ。実際、少量でもココナッツウォーターはどんなスポーツドリンクよりもはるかに優れている。ココナッツウォーターのpHレベルは人間の血液と同レベルで、塩分濃度も人間の細胞に類似しているため、非常時には点滴にも用いられる。

エネルギー源および気候保護

世界中の離島で、飲料水を入手できない住民は、のどの渇きを癒すのにしばしばココナッツウォーターを頼みの綱にする。ココヤシは北緯26度から南緯26度の熱帯域で生育する。そして、約90ヵ国で1100万人以上の農業従事者がココナッツを生活の糧にしている。

フィリピンでは、ココナッツオイルの用途は最近まで炙ったり、焼いたりすることに限られていた。だが今では、大量のバイオディーゼルを生み出すのに用いられている。

アジア太平洋ココナッツ委員会のエグゼクティブ・ディレクター、ロムロ・アランコン氏によると、燃料の生産にココナッツを用いると、化石燃料の輸入にかかる高いコストを削減できる。彼は次のように話した。「ディーゼルの代わりにココナッツオイルを使用することにより、国家の自立度が高まります。私たちは現在、環境を破壊することなく、ココナッツの生産高を増やそうとしています。重要なのは、バイオディーゼルの生産と食用植物の確保が両立できることです」

環境に優しい燃料は安価なだけでなく、二酸化炭素の排出量も最小限に抑えられる。それに加えて、ココナッツを用いたディーゼルオイルは、従来品より臭いもはるかに少ないと言われている。

このページのトップに掲載しているドイチェ・ヴェレのビデオ(ケルスティン・シュヴァイツァー氏による)では、植物廃棄物を気候保護に役立てているプロジェクト事例を取り上げている。

自然は私たちにさまざまな自然資源をもたらして、イノベーションへと駆り立てる。私たち次第でいくらでも工夫はできるのだ。ゴミの山の中から回収されたサトウキビの残余物は環境に優しいプラスティックに姿を変え、竹は伐採してもどんな樹木より早く再び成長するため、理想的な建材となり、ココナッツは薬からグリーンな燃料まで、あらゆるものに使える花形選手だ。必要なのは少々の想像力とインスピレーションである。世界中で人々は、賢明かつ環境に優しい方法で資源を利用することにより、環境を保護している。

カンボジアでは、ココナッツの殻で作った環境に優しい豆炭を、従来の木炭の代わりにするプロジェクトが進行中だ。

ありふれたココナッツの外側の殻には、カンボジアの森林を救う力がある。カンボジアでは、現在でも木材が主要なエネルギー源で、その結果、カンボジアの未開拓の森林地は急速に姿を消しつつある。過去40年間で、森林は国土の70%からわずか3%に縮小した。豆炭を作る材料はココナッツの殻で、それらを得るのに木を伐採する必要はない。加えて、安価でもあり、木炭より燃焼時間も長い。

ココナッツ殻の豆炭はまだ開発の初期段階であり、製品としてはまだほとんど知られていない。そこで、学生は人力車で首都プノンペンの街中を走り回り、宣伝に努めている。一般家庭やレストランなどの事業所に、ココナッツ殻から作った豆炭を紹介して回るのだ。そして、同製品に対する関心は非常に高く、豆炭の使用量は販売開始以来、5倍になった。

余すところなく使う

ココナッツで使えるのは中身だけではない。ココヤシは、ほとんどの部分に何らかの用途がある。茎と葉は家屋、船舶、家具などの建材になる。硬い殻は燃料を作る貴重な材料になり、外皮の繊維は環境に優しい家屋の断熱材として役に立つ。

ココナッツを収穫した後の廃棄物も大きな可能性を秘めている。「コイアー・プロジェクト」(「コイアー」とはココヤシ皮の繊維のこと)というドイツ企業は、残余物からココナッツシートを作っている。これは、土がなくても果物や野菜が育てられる園芸資材になる。

これまでは、土を使わずに果物や野菜を育てようとすると、ミネラルウールやグラスファイバーのマットを使う必要があった、しかし、コイアー・プロジェクトを率いるカルステン・クリンゲ氏によると、ミネラルウールを生産するには大量のエネルギーが必要で、使用後の処分も難しい。その点、ココナッツシートは完全にグリーンな代替品である。

クリンゲ氏は次のように語る。「スリランカでは、ココヤシは主にココナッツミルクとパルプを生産するのに使われていました。しかし、外側の殻をさらにシートに加工すれば、すべてを使い切ることになります」

ココヤシは3000年以上もの間、重要な栄養源で必要な建材だった。この驚異的な植物の重要性は、今後も変わることはないと思われる。

人とココナッツの間には通常、調和した関係が保たれているが、1つだけ良くない側面がある。フロリダ大学の調査によると、落ちてきたココナッツが当たって死亡する人が毎年約150人いることだ。これは、サメに襲われて死亡する人数の15倍にもなるのである。

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本稿およびビデオはOur World 2.0の提携パートナーであるDeutsche Welle Global Ideasのご厚意で掲載されています。ドイツの国際放送局であるDW-TVは100以上の魅力的な特集番組を持ち、タイからホンジュラス、ヨルダン、インド、ラオスに至る途上国および新興国において、革新的なアイデアで地球温暖化に立ち向かう人やプロジェクトを取り上げています。作家、研究者、TVレポーター、オンラインレポーターなどの多国籍チームが、国際気候イニシアチブの一環としてドイツ環境省が支援するプロジェクトをマルチメディアで紹介しています。

翻訳:ユニカルインターナショナル

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著者

ヴィブケ・フォイヤーゼンガー氏はドイツ文学とアフリカ学を学んだ。劇場のアシスタント・プロデューサーを務め、「ヤング・アーティスト・フェスティバル・バイロイト」にクリエイティブ・ライティングの研究者として参加した経験を持つ。2010年から、ドイツの国際放送局、ドイチェ・ヴェレがグローバリゼーションの問題を取り上げるテレビ番組「グローバル3000」にプロデューサー兼レポーターとして関わっている。