ビッキー・ポープ氏は、Met Office Hadley Centre(メット・オフィス・ハドリー・センター)の主任研究員を務めている。先日、ガーディアン紙主宰のガーディアン・オープン・ウィーケンドでスピーチを行った。
気候学者が妙なことを聞くと思われるかもしれないが、これは、このところいつも私が聞かれている質問なのだ。その後には決まってこう続く。「気候が変動しているのは分かっていますが、そもそも自然のサイクルのなかで気候はつねに変化してきたんじゃないんですか?」それから、たいていの人は、中世温暖期などの例をあげ、自分の主張を証明しようとする。
このような質問をしてくるのは、私がパブで出会うさまざまな分野の人たち、それに友人や政治家たちだ。さらに、持続可能な開発や再生可能エネルギーに関わるビジネスの分野で活発に活動している人々までが、同じことを聞くようになってきた。おもしろいのは、付き合いの長い人が少なくないにも関わらず、これまでは誰もこんなことを聞いてきたりはしなかったということだ。
最近の研究によれば、人間の活動が原因で気候変動が起きていることを証明する科学的事実を認める人の割合は、減ってきている。と言っても、その変化はそこまで大きなものではない。私が人々と話をするなかで感じた以前との違いは、彼らが自分の疑念を表に出しやすくなったと思っているということだ。
これは、科学者にとっては理解に苦しむ事態と言わざるをえない。人間が気候に影響を与えているということを示す科学的根拠は非常にはっきりとしたもので、しかもそれは年を追うごとにより明らかになっている。それにもかかわらず、一般の人々の認識は支離滅裂だ。カーディフ大学とイギリスの調査会社Ipsos Mori(イプソス・モリ)は、気候変動に関する人々の意識調査を共同で実施し、2010年に公表した。これによって、人々の意識に影響を与える可能性のあるさまざまな要因が明らかになった。まず、問題が科学の領域から政治の領域へと移行したことで、人々の不信感が高まっていると考えられる。愉快とは言えない真実について考えを修正してしまう「認識の不一致」も原因の1つと言えるかもしれない。気候変動の話ばかり耳にすることに、皆うんざりしてしまったのだろう。ほかにも、金融危機などの外的な要因が一役買っている可能性もある。さらに、気候変動に懐疑的なグループが、世論を左右するために科学的事実を隠ぺいしようと、その活動を活発化させている。
3年ほど前、私は科学が誤って利用される可能性について問題を提起した。当時、気候変動を誇張して書きたて、恐怖を煽るような記事にしていたメディアもあったが、その反動が生じている今、私たちは過去のつけを払っているのかもしれない。私は、気候変動のような重要な分野で、メディアや利害関係者(ときには科学者自身ということさえある)が、しばしば科学を客観的に取り上げていないことに懸念を抱いていた。しかし、科学的なプロセスと世の人々の意識のあいだにこのような大きな隔たりがあるとは、当時、誰にも分かっていなかったのではないだろうか。
とは言え、このような隔たりがあるからこそ、「気候変動を信じるべきか?」などと問われることになったのだ。第一に重要なのは、これは信じるべきか否かというような問題ではないということだ。これは科学の問題であり、従って事実に関する問題なのだ。そして、すでに多くの事実がそこにある。このような重要な問題を扱うときには、事実を見つめ、その上で自分の考えを決めるべきではないだろうか。また、私たちは、個人的な経験に大きく影響されることが多い。イギリスで寒い冬が数年続いた後には、「気候変動は止まってしまったのか?」と誰もが言っていた。しかし、同じ時期に、世界のほかの地域では記録的な猛暑を経験していたのだ。2010年は、記録に残るなかでもっとも暑い年の1つとなった。気候変動の現実を捉えようと思うならば、私たちは全体的な視点から物事を見る必要がある。
Met Office(メット・オフィス)の調査によると、人間の活動が気候変動を生み出したという証拠は、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の最新の報告書が出されたときよりも、さらにはっきりと現れている。あらゆる分野でとられたデータも、さまざまな独立機関によって行われた分析も、世界が温暖化していることを示しているのだ。この半世紀のあいだに温暖化は急速に進んでおり、人間の活動により放出された温室効果ガスがその原因と考えられるということで、幅広い同意が得られている。
降水量のパターンの変化から北極の氷の減少にいたるまで、気候システムにおける長期的な変化は世界中いたるところに現れている。実際の気候変動は予想されたパターンを辿っており、そこには明らかに人間の影響が見られる。人間の活動によって地球の気候に大きな変化が生じているというはっきりした証拠が示されているのだ。温暖化の速度や氷が解ける速さは地域によって異なり、ある地域では急速な温暖化が進む一方で、当面は温暖化が見られない地域もある。繰り返すが、重要なのは全体を見ることだ。
人間の活動が気候変動を生み出しているという紛れもない事実がある今、改めてそれを証明するために同じ話を繰り返す必要はない、と言うこともできるのではないだろうか。これから先、気候変動が人類に数々の難問を突き付けてくることを考えれば、将来に目を転じ、今後の問題に焦点を当てることがきわめて重要なのだ。
結局、地球温暖化が続くにつれ、気候変動を信じるか信じないかという問題は、ますます見当違いなものになってくるだろう。私たちはみな、今後、何からかの形で気候変動の影響を経験することになる。従って、気候変動が起こっているという事実も、自ずと明らかになるだろう。
今日(こんにち)問いかけるべきことは、気候は今後どのように変わっていくのか、そして私たちはそれに対してどのように備えればいいのかということだ。だからこそ、気候学者が研究を続けることが重要であり、彼らがさまざまな事実や研究の成果を世に知らしめることが重要だ。それによって、人々はつねに最新の情報を手に入れ、それを基に自分の考えを決めることができるのだ。
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この記事は2012年3月23日金曜日にguardian.co.ukで公表したものです。
翻訳:山根麻子
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