気候変動は紛争を招く?

気候変動が紛争を起こすのか?その答えは人それぞれだ。
米国科学アカデミー紀要(PNAS)には温暖化がアフリカの内戦の危険性を増大させると言う新しい論文が発表されている。この論文ではアフリカの気温が上昇するにつれて戦争の可能性が著しく高まっていると言う。
しかし誰もが気候変動と紛争の増加の関連性に合意しているわけではない。この問題は国連のトップまでを巻き込んだ学問的論議となっている。

内戦の危険性の増加

2007年、潘基文(パン・ギムン)国連事務総長はスーダンのダルフール地方で起こっている紛争を世界で初めての気候変動による紛争と呼んだ。これは気候変動が起こした降雨パターンの変化による水不足が紛争の一因となったという仮説に基づく。今日までに集められてきたデータでは、降水量の低い年は紛争の発生率が上がる傾向が見られる。バン氏の考えはこれを反映したものだ。

今週、研究者のマーシャル・B・バーク氏はアメリカのいくつかの大学の研究者たちと共に、彼ら曰く「初の世界的気候変動がアフリカのサブサハラの紛争に影響をもたらす可能性を総合的に診断した」というものを出版した。

歴史的データの回帰分析を通し、同研究者たちは過去のサハラ以南のアフリカの紛争と気温の変動(降水量ではない)に関連性を見いだし「気温の高い年には紛争が著しく増加する」と言う。
数値化すると、気温が1%上昇することで同年の内戦が4.5%増加し、翌年は0.9%増加することになる。ここで使われた18の気候モデルを平均したものを使うと、2030年にはこの地域の紛争の数は約54%増になると予測される。

研究者たちが言うに、農業のみに頼る社会では気温による収穫量の変化が経済の不安定性を招き紛争が起きるのだ。なぜなら今までの研究では「経済的福祉こそが一貫して紛争の発生率と関連している要素である」ことを見出しているからだ。

討論が白熱化

気候変動と紛争の関連性に対する疑念は、そもそも戦争と平和がもつ複雑性から生じている。あまりにも多くの政治的、社会的、経済的、そして環境的な要素が絡み合うことで紛争を防いだり発生させたりしているなか、数量的な分析を行って将来の紛争の確率を予測しようとするのは問題があるのだ。

学術研究官と国連大学サステイナビリティと平和研究所の平和と安全保障部門の所長であるベセリン・ポポフスキー博士(Dr. Vesselin Popovski)は気候変動と紛争には直接的な関連は無いと言う。

「対策が行われない限り、貧困や不安が気候変動によって生まれるかもれないことは確かです。しかし、地球温暖化を直接に紛争の増加につなげる証拠はまだ足りないのです」

ポポフスキー博士のこの発言はオスロー国際平和研究機関の学者たちが行った研究を指す。学者たちが言うに「研究論文内で取り上げられている因果関係には未だ信頼性のある証拠によって証明されているものはない」

「紛争が起きるのは主に政治的そして経済的なものであり気候的なものではない。紛争を駆り立てる軍族の指導者たちは、ソマリアやダルフールでのように干ばつ、洪水、食糧難、農業や自然災害を戦略に利用することはある。しかし紛争をもたらすのは雨でも気温でも海面でもない。彼らはいつだって権威、領土、金銭、復讐等の理由で戦うのだ」

資源の減少が必ず紛争につながるという考えをポポフスキー博士は疑問視する。チャド湖やナイル川流域のように水などの最重要資源が減ることで逆に協力を促すのではないかと彼は提案する。

「人々が気候変動や食糧難に直面したとき争うことを選ぶかもしれないが同様に協力を選ぶことだってありえるのです。例えば、2007年に東南アジアを襲った津波が引き起こしたのはより良い各国間のより良い協力やアチェ州の平和協定でした」

では、乾燥していない、干ばつの起こりにくい土地へと、既に人が住んでいる土地なのに気候変動により更に人々が移住せざる得なくなってしまう、と言う考えはどうなのだろう。例えばそれがすでに予想されているアフリカの角(ソマリア付近)などでは?

「人々は昔から更に良い生活を求めて移住してきました。それが人間なり自然な理由であっても。私たちは、内戦であろうが気候変動であろうが人々の集団移住や転移などの課題に立ち向うことができなくてはいけないのです。運用的にはそんなに違いはないのです。国連の人道的援助機関は移動中の人々に生存と安全を確保するために提供すべきものは同じなのです:食糧、住居、薬、カウンセリング、他」

慎重に進むことの重要さ

気候変動はますますアメリカ国家の安全を脅すものとされてきている。私たちは近代メディアから「弱い地域」で起こっている「食糧難、水危機、そして壊滅的洪水」が「アメリカの人道的援助や軍の派遣」を必要としていると聞かされる。ペンタゴンの軍事戦略者たちは確実に気候戦争の考えを深刻に受け止めているようだ。

新共和国でブラッドフォード・プラマー氏が忠告するように、人々に気候変動のことを説得するために確かな分析や証拠もないままこの「安全保障議論」は頻繁に使用されている。

気候変動の懐疑者たちにそそのかされ非行動性が増加している今、気候変動がもたらす紛争への影響を研究する者たちが慎重になることは非常に重要なのだ。

この最新の論文の執筆者たちは気候変動と紛争の関係性を理解するには更なる研究が必要であると言う。そしてその証拠をまとめるのには恐らく何年もかかり、幅広い分野のエキスパートたちの協力が必要となるだろう。それは人類が気候変動を起こしたことを証明するためにまとめられたもののように。

「私が見たいのは、最も優良な自然学者5人と政治学者5人を同じ部屋に集めて一つの質問を投げかけることです:どうすれば私たちは紛争と気候災害の両方を減らす良い政策を作ることができるか?」とポポフスキー博士は言う。

「ただ、人類の苦痛の根本的な理由は暴力的紛争と気候変動を混乱させない方が良いのです。暴力的紛争が起きる理由は気候変動が起きる理由とは違い、それぞれに合った対策が必要なのです。結果としては『難民』という同じものを生みだします。そして戦争の難民と気候の難民を助けるためには同じ管理方法が使えますし使うべきなのです」

「今日では事前に気温の変化を予測できるという大きな強みがあり、それによって世界は将来の紛争を予期する時間ができ、予防外交を行い、良い国家を築くための政策を開拓することができるのです」

翻訳:越智さき

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著者

マーク・ノタラスは2009年~2012年まで国連大学メディアセンターのOur World 2.0 のライター兼編集者であり、また国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)の研究員であった。オーストラリア国立大学とオスロのPeace Research Institute (PRIO) にて国際関係学(平和紛争分野を専攻)の修士号を取得し、2013年にはバンコクのChulalpngkorn 大学にてロータリーの平和フェローシップを修了している。現在彼は東ティモールのNGOでコミュニティーで行う農業や紛争解決のプロジェクトのアドバイザーとして活躍している。