減少する水の供給が排水利用を促す

シリアでの内乱や、中東地域の広い範囲における情勢不安を引き起こす上で、干ばつと慢性的な水不足が重要な役割を担ったと、水の専門家たちは考えている。

世界人口の40パーセント以上が暮らす世界各地の地域で、すでに水の需要は供給を超えている。さらに同地域に暮らす人々の割合は今後10年間で60パーセントに達する可能性があると、新しい研究が明らかにした。

「水資源が乏しい地域では、そこに暮らす人々に十分な食料を生産することができません」と、同研究の共同執筆者で、カナダに拠点を置く国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)のマンズール・カディール氏は語った。

世界の淡水資源のうち、およそ70パーセント(一部の国では最高95パーセント)が灌漑(かんがい)に利用されている。淡水の利用をめぐって、行政と産業と農業の間で激しい競争が起こっている。次第に農業は競争に敗れつつあり、特に水不足の地域でその傾向が顕著であると、カディール氏はIPSに語った。

2006年から2011年の間に、シリアは国土の60パーセントで、史上最悪の干ばつと度重なる不作に見舞われた。2009年、国連の報告によると、80万人を超えるシリア国民が干ばつによって生計を失い、都市に逃れた。

最近のアメリカの研究によると、地中海地域の全域が、気候変動に関連した長引く干ばつに見舞われている。気候を変容させる炭素排出量が現在のスピードで増加し続ければ、地中海地域での干ばつは悪化し、長期化するだろう。

膨大な水資源を処理する

水の供給量が減少する中、多くの地域で都市の排水が利用されている。都市の排水は適切に処理すれば非常に貴重な資源となることが、「Global, regional, and country level need for data on wastewater generation, treatment, and use(排水の発生、処理、利用に関するデータの世界、地域、国レベルでの必要性)」と題された研究で明らかになった。この研究は9月5日発行の『Agricultural Water Management(農業用水の管理)』誌に掲載された。

この研究は、181カ国での排水の利用状況を調査した初の試みである。主要な研究結果の1つが、わずか55カ国しか有効なデータを有していないという点だ。数少ないデータを総合した結果、高所得国は排水の70パーセントを処理しているのに対し、中所得国は28~38パーセントの排水を処理していることが分かった。低所得国で発生する排水のうち、何らかの処理を施される排水はわずか8パーセントである。

「大昔から、ほとんどの排水はまったく利用されていませんでした。しかし、適切に再利用されれば、排水は膨大な資源となります。再利用の方法には、都市の排水と産業廃水を区別することも含まれます」と、UNU-INWEH所長のザファール・アディール氏は語った。

利用可能だと考えられる世界の年間排水量は、14カ月間にミシシッピ川からメキシコ湾に流れ込む水量に相当すると、アディール氏はIPSに語った。

水資源に乏しい貧困国では、排水は農地の灌漑に広く利用されている。研究によると、そのような農地の面積は3億ヘクタールにも上り、世界の食料の10パーセントが生産されていると推測する研究者もいる。

しかし、上記の数字を裏付けるデータはほとんどない。都市部で消費される食料のほとんどが未処理の排水を使って生産されていることは、多くの場合、国の「知られたくない秘密」なのだ。

一般的に、人々は排水利用で生産された食料を食べたがりません。  しかし適切な処理を施された排水は完全に安全なのです。

排水は、カリウム、窒素、リンなどの栄養素を多く含む。そのため肥料が不要になり、経費も削減できるので有益である。しかし未処理の排水はコレラのような病気を伝染させる可能性がある。チリはコレラの発生を受けて、1992年に未処理の排水の利用を禁止した。

「排水利用を原因とする病気の発生は確かに起こるのですが、排水利用が原因であると例証されることは、まれです」とカディール氏は語った。

その理由の1つは、調査がほとんど行われていないためだ。数年前、カディール氏らは、地中海地域で未処理の排水を利用して生産された食料を食べた子供は、胃腸炎のような水媒介の病気の罹患率が高いことを発見した。

1990年代、同様の理由によって、ヨルダン産のフルーツや野菜の輸出が禁止された。それ以来、ヨルダンは排水処理施設の再建や改善を進める積極的なキャンペーンを行い、法的強制力を持つ基準を導入した。

「イスラエルは水質に応じて用途を限定し、排水をほぼ1滴残らず利用しています」とカディール氏は語った。

カリフォルニア州の多くの世帯には、家庭雑排水と汚水を分けて回収するシステムが導入されている。研究によると、シャワーや食器洗浄機から出る家庭雑排水は、芝生や庭の水まきに再利用されている。

一般的に、人々は排水を利用して生産された食料を食べたがらない。しかし適切な処理を施された排水fは完全に安全であると、カディール氏は強調する。

「残念ながら、多くの国で水処理は優先事項として見られていないのです」

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本稿は、開発、環境、人権、市民社会といった問題を扱う独立系報道機関、インター・プレス・サービスの許可を得て掲載されました。

翻訳:髙﨑文子

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著者

スティーブン・リーヒー氏は、カナダ人のフリーランスジャーナリストとして、インタープレス・サービス(IPS)通信社での記者として寄稿した5年間を含め、通算12年にわたり活動してきた。リーヒー氏は、科学、環境、農業分野を専門としていて、数カ国で主要な雑誌・新聞で執筆している。カナダのトロント均衡のブルックリンに拠点を置き、Society of Environmental Journalistsのプロフェッショナルメンバーでもある。