強制退去ではなくエコビレッジという選択

これはインドネシア各地の国立公園に広がる問題へのユニークな解決策だ。すなわち、保護区の領域内に長年暮らしてきた地域住民を強制退去させる代わりに、一部の土地を「エコビレッジ」として区分する方法だ。そこでは住民は引き続き、熱帯林から採取される木の実、ベリー類、薬用植物など、木材以外の生産物を利用できる。

東カリマンタン州のクタイ国立公園では、さまざまな地域団体が歴史的な利用権を根拠に主張を行っている。その結果、複雑な法的問題やガバナンス上の問題が生じ、すでに森林伐採や石炭採掘や石油の探査活動にさらされている地域の保護活動を妨げている。

この状況は特殊な課題を提起しているとはいえ、残念ながら珍しい状況ではない。インドネシアでは、50の国立公園の多くは事実上、「紙の上でのみ存在する国立公園」なのだ。

インドネシアの中央カリマンタン。写真:Achmad Ibrahim/CIFOR

インドネシアの中央カリマンタン。写真:Achmad Ibrahim/CIFOR

ほとんどの国立公園は中央政府による法令で制定されたが、その法令は長年地域に居住してきたさまざまなコミュニティについて説明していない。さらに国立公園は保護地区として指定されているにもかかわらず、地方自治体は使用許可証を発行する権限を持っている。

クタイ国立公園内の土地に関する主張を行うさまざまな地域住民グループの要求を調整するために、新たなCIFOR(国際森林研究センター)の報告書は、研究者、非政府組織、企業代表者からなる組織による提案を紹介している。

彼らは「特別利用」ゾーンの制定を可能にする政策を強化する必要性を訴えている。特別利用ゾーンでは、地域住民が国立公園の保護地域の状態を維持する規制を遵守しながら、同時に森林資源を利用する権利を持つ。

現行の規制下でも国立公園内に特別ゾーンを制定することは可能だ。しかし、さまざまなコミュニティによる森林資源の利用と保護活動を両立できるほど現行の規制は強力ではない上に、国立公園の管理におけるコミュニティの権利が法的に認められていないと、『The challenges of developing a rights-based approach to conservation in Indonesia(インドネシアでの権利に基づく保護活動の発展に関する課題)』の共著者であるモイラ・モエリオーノ氏は語る。

「明確に定義された権利と責任事項を念頭に置いて、一連の『特別規定』を考案する必要があります。その後、特別規定を国立公園の管理機関に提出し、承認を受けなければなりません」と彼女は語った。

「例えば地域住民には、環境保護を可能にする一定の制限下で国立公園内に住み、生計を立てる権利を与えます。そのためには、住民は課せられた制限に対する補償を受ける権利を与えられます。同時に、彼らは中核となる地域を不法侵入から守り、監視活動に参加し、絶滅危惧種の保護に努める責任を負います」

エコツーリストのために魚を準備するダヤック族の人々。写真:キット・ウィリアムズ/国連大学

エコツーリストのために魚を準備するダヤック族の人々。写真:キット・ウィリアムズ/国連大学


1995年、クタイ国立公園がインドネシア初の国立公園に制定された時、南スラウェシ州から移住したブギス族が同地域に定住しており、土地の所有権を主張した。その4年後、州政府は(クタイ国立公園の保護状況を無視して)公園内の2万3000ヘクタールの土地をブギス族の居住区として分割した。

この決定は国立公園への地域住民の移住を助長し、その後、道路、ガソリンスタンド、バスターミナル、電波塔が建設された。2007年、ダヤック族とクタイ族はカリマンタンの先住民族としての歴史的な土地利用権を根拠に、さらに国立公園内の土地100ヘクタールの「所有権」を主張した。

「土地に関する主張をどの民族に認めるべきかという問題は、非常に微妙であるということが判明した」と、報告書は記している。

「主張を認められるべきなのは、国立公園の制定以前から同地域に定住していたブギス族か? それとも、国立公園であることを認識していたにもかかわらず、慣習的に森林開拓を行ったダヤック族とクタイ族か?」

インドネシアの法律では国立公園内の土地の売買は違法である。しかし報告書によると、多くの住民は近隣の町に住む人々に区画を販売しており、そのことが保護地域における土地権の問題を複雑にし、区画の購入者は現時点で土地に対してどのような権利を有するのかという問題も生じている。

さらに、地方行政機関は土地所有権の証明書を発行したと伝えられている。そのため、区画は土地所有者の手中にある恐れがあり、彼らは石炭採掘や森林伐採を行う企業に喜んで区画を売ろうとするかもしれない。

特別利用ゾーンの制定は、地域住民の権利を認めて守ればよいというだけではなく、権利が否定された場合の救済策を講じるメカニズムも提供しなくてはならないと、モエリオーノ氏は語った。

しかし住民の苦情に対処するために、特別利用ゾーンを管理する法的基盤を作るには、取り組むべき課題が数多く残っていると、彼女は主張した。

「CIFORは森林省と協力し、共同的管理とゾーン制定に関する既存の規制をうまく統合するために何をすべきかを模索しています」

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本稿はCIFORのForests Newsブログのご厚意で掲載されました。

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強制退去ではなくエコビレッジという選択 by レイチェル・リベラ is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.
Based on a work at blog.cifor.org/13693/eco-villages-instead-of-eviction-a-new-approach-to-the-people-in-parks-problem-in-indonesia.

著者

レイチェル・リベラ氏は特に環境問題に関心を持つフリーランスのライター兼編集者である。彼女は編集者としてAP通信社のニューヨーク本社とタイ支局で勤務したほか、アメリカの自然資源防衛評議会1が発行する雑誌での経験を持つ。カリフォルニア大学バークレー校でジャーナリズムの修士号を修得。現在はジャカルタに拠点を置いている。