エネルギーへの投資:先住民族の権利バブル

とめどなく増加し続ける世界のエネルギー使用に関するすべての詳細とその意味について、最新情報を追い続けることができない読者の方のために言っておこう。金融リスクはますます多様化している。最近は炭素排出に関する報道の数が無視できないほどであるため、化石燃料を燃焼している現状やその結果として予測される影響について、国際エネルギー機関、Carbon Tracker(カーボン・トラッカー)、国連、その他の定評のある調査団体、さらには投資銀行も懸念しているということに、あなたは気づいているかもしれない。ますます多くの研究が次の見解に同意している。地球温暖化の極めて破壊的なレベル(一般的には推定2℃)を回避するには、大幅な汚染削減を早急に行う必要があり、それは世界の化石燃料埋蔵量のほとんどを地中に残したままにすることを意味する。

その結果、排出量の制限規制によって化石燃料埋蔵量は座礁資産となるため、「炭素バブル」を生み出しかねないという金融上の懸念が生じる。この懸念に今、投資家が検討を迫られている他のリスクが加わった。その1つが「需要破壊」あるいは「ピーク需要」のリスクである。専門家らは、自動車や太陽電池の燃料効率性の飛躍的向上といった大きな技術的進歩が需要に影響を及ぼす可能性があると警告している。

ピーク需要を引き起こすもうひとつの要因は、恐らく倫理的進歩と見なされるものが刺激する要因、すなわち負の投資という運動だ。世論の圧力によって、大学、教会、年金基金、金融機関は、温室効果ガス排出や資源開発が環境や社会にもたらす影響を抑制するために、化石燃料への投資資産を売却し始めている。

「たとえ負の投資の流出量が小規模あるいは短期的で、将来のキャッシュフローに直接的影響を及ぼさないとしても、市場規範に変化を起こし、それまでは利用可能だった資金ルートを閉じてしまうとしたら、対象となった企業の株価に下降圧力が掛かる可能性はある」と、オックスフォード大学スミス・スクールの座礁資産に関する研究者らによる報告書が記している。

「個人の場合と同様に、組織にとっても、悪評は負の結果を生む可能性がある。例えば、マスコミに大々的に批判された企業は、供給業者や下請け業者や求職者や顧客を遠ざける悪いイメージに苦しむ。政府や政治家は、自身の評判を傷つけたり再選を危うくしたりしかねない不利な余波を避けるために、『クリーンな』企業との関係を好む。株主は、悪評を受けた企業の経営者や取締役員の変更を要求するかもしれない。悪評を受けた企業は、一般競争入札への参加、業務拡大のための認可や所有権の取得を禁じられるかもしれないし、供給業者との交渉で弱い立場に立たされるかもしれない。悪評がもたらす負の影響は、数十億ドルの契約や合併吸収の取り消しも含む。大企業の中のほんの小さな1部署につけられた悪評が、企業全体の売り上げを脅かすかもしれない」と報告書は解説する。

先住民族の権利を侵害する

一方、バブルがはじけないうちに、考え得るあらゆる可能性から利益を絞り出そうとしているかのように、化石燃料資源の開発は引き続き速やかである。そして、先ほどの悪評の件と同じく、こうした開発計画は世界の多くの地域でますます市民の厳しい目にさらされ、特に先住民族の権利に関連して抗議活動を引き起こしている。インターネットとソーシャルメディアを通してつながり合う知識は急速に広まり、世界の「ネット市民たち」は世界各地の人々のために熱心に正義を求めている。

時として民族の闘いは基本的人権と暮らしにとって極めて重要である。しかし、その闘いを闘う人々は開発業者に打ち勝つための力や支援を持っておらず、気づいた時には遅すぎて、先祖代々の土地が政府によって企業に与えられ、住居はブルドーザーに更地にされてしまう。Forest Peoples programme(森林に住む民族のためのプログラム)やIntercontinetal Cry(インターコンチネンタル・クライ)のような団体のウェブサイトを見れば、自由で事前の情報に基づいた同意(FPIC)という重要な原則が(先住民族の権利に関する国連宣言(UNDRIP)に正式に記されているにもかかわらず)ほとんど順守されていない状況が容易に見て取れる。

「先住民族は、自らの土地または領域から強制的に移動させられない。関係する先住民族の自由で事前の情報に基づく合意なしに、また正当で公正な補償に関する合意、そして可能な場合は、帰還の選択肢のある合意の後でなければ、いかなる転住も行われない」とUNDRIP第10条に記されている。

先進諸国では、被害に遭った人々は意見を表明しやすく、また往々にして企業に汚名を着せる手助けをしたがる有力支援者もいる。今月カナダでは、象徴的なミュージシャンのニール・ヤング氏が、オイルサンド開発とそれが環境やファースト・ネーション(カナダの先住民族の呼称)に与える影響について発言し、首相官邸との公開コメント合戦に突入した。

Photo: Larissa Sayer. CC BY-NC 2.0.

Photo: Larissa Sayer. CC BY-NC 2.0.

さらに一部の国では法的制裁も可能である。カナダのブリティッシュコロンビア(BC)州では先週、エンブリッジ社による数十億ドル規模のノーザンゲートウェイ・パイプライン計画を政府が承認した連邦審査パネルの勧告に対して、10回目となる訴訟が提起された。大きな議論を呼んでいるこの1200キロのパイプラインは、BC州に隣接するアルバータ州中部のエドモントン付近からBC州キティマットのタンカー港まで延びる予定だ。

この訴えを起こしたのは、ギットガット族ファースト・ネーションだ。彼らはBC州北部沿岸の小さなコミュニティーであり、飛行機か海路でしかアクセスできない場所である。ギットガット族は、ビチューメン(アルバータ州のオイルサンドから抽出された高粘性の石油)を輸送するタンカーが彼らの隔絶された村落のすぐ近くのダグラス海峡を通るため、暮らしに深刻な脅威をもたらすと語る。

しかしカナダで訴訟を起こされているのは、この事業だけではない。アサバスカ・チペワイアン族ファースト・ネーションは今月初め、アルバータ州北部に所在するシェル社のジャックパイン・オイルサンド採掘場の拡大に対して訴訟を起こした。採掘場拡大の承認プロセスが、カナダが調印した幾つかの国際協定だけではなく、カナダ環境影響評価法、絶滅危惧種法、渡り鳥保護法という少なくとも3つの連邦法規に違反したと彼らは訴えている。さらにファースト・ネーションが協議に参加するという憲法上の権利にも違反していると主張した。

報告書は重大なリスクを警告

明らかに、こうした事例はカナダに数多くある事例のほんの数例でしかない。2012年、先住民族と政府と企業に関わる分野の戦略家に転身した元顧問弁護士が『Resource Rulers: Fortune and Folly on Canada’s Road to Resources(資源の支配者:カナダがたどる資源への道における富と愚行)』を執筆した。同書は現在のカナダにおける先住民の権利に関する著作だ。筆者のビル・ギャラガー氏は今日までに、ファースト・ネーションの190件の勝訴を記録している。

「カナダの資源セクターで先住民族の権利向上が頂点に達するのを目撃するのは間近だと思います」と、先住民族の土地にあるオイルサンドに関連してギャラガー氏は語った

タイミングよく発表された最近の報告書によると、こうした政治的・司法的風潮は、不注意な企業(そして株主)にとって危険な経済的影響を及ぼす可能性がある。「なぜ投資家と株主は先住民族に配慮すべきなのか?」という問いかけに答えて、『Indigenous Rights Risk Report(先住民族の権利リスクに関する報告書)』は次のように記している。

「倫理だけが、企業、政府、非政府組織を先住民族の人権および集団的権利を尊重する行動に突き動かすのではない。経済的インセンティブと制裁がそうするのである。先住民族の権利を尊重せず、先住民社会との積極的で信頼に基づいた関係を築かない企業は、抗議活動、否定的な報道、労働ストライキ、操業停止、訴訟といったリスクを高める。そうしたリスクはすべて、利益と株価にマイナスかつ実際的な影響をもたらす。このことは過去10年に起こった出来事によって証明されている」

この画期的な報告書はFirst Peoples Worldwide(ファースト・ピープルズ・ワールドワイド)によって編集された。同組織は先住民族が率いる団体で、世界各地の先住民社会での文化的に適切な地域開発プロジェクトに資金援助を行うほか、先住民社会と、彼らの地域の企業、政府、学者、NGO、投資家をつなげる役割を果たしている。

「先住民族の権利を尊重せず、先住民社会との積極的で信頼に基づいた関係を築かない企業は、抗議活動、否定的な報道、労働ストライキ、操業停止、訴訟といったリスクを高める。そうしたリスクはすべて、利益と株価にマイナスかつ実際的な影響をもたらす。このことは過去10年に起こった出来事によって証明されている」-『先住民族の権利リスクに関する報告書』より

報告書の指摘によれば、企業が先住民族の土地あるいはその近辺で事業を行っている場合に直面する集合的リスクは、唯一の企業、唯一の部門、あるいは唯一の地理に限定されるわけではない。調査チームは、企業が事業を管理している場所や方法、また企業が先住民族と生産的に連携しているかどうかに基づいて、投資家や株主がさらされているリスクを評価した。

同チームは52のアメリカ企業が操業する、先住民族の土地あるいはその近辺に所在する370カ所の石油、ガス、採鉱の現場を分析した。報告書は得られた結果を「警戒すべき」と表現しながら、分析対象となった石油、ガス、採鉱の現場の92%が、株主に対して中程度から高度のリスクを呈していることを明らかにした。同調査のほぼすべての企業が、各社の少なくとも1つの現場で中程度から高度のリスク特性を有していた。にもかかわらず、90%の企業は、先住民族を積極的に関わらせて連携するためのガイドラインを持たなかった。

総リスク評価が最も高かった現場に含まれたのは、ナイジェリアのニジェール・デルタに所在するシェブロン社およびエクソンモービル社の現場である(ページ下部の関連記事をご覧ください)。これらの現場は数年前から世界中で大きく報道されている。また、アルゼンチンにおける数社のプロジェクトもマプチェ族の抗議活動の広まりによって最高リスクの評価を下された。

ファースト・ピープルズ・ワールドワイドは引き続き、現場のリスク評価の変化や、変化を引き起こした要因を追跡調査する予定だ。

用心すべき?

先住民族の土地で行われるすべての活動に対してFPICを与える権利を要求することは、先住民族の権利運動の鍵であると、ファースト・ピープルズ・ワールドワイドは断言する。FPICによって先住民族の社会は、自分たちの土地の成り行きを決めることができ、従って自然資源や伝統的な生活を含む自分たちの資産を管理し続けることができる。つまり先住民族の現在および未来の繁栄を管理し続けられるのだ。

また、企業自身の未来の繁栄を保護するために、企業がファースト・ピープルズ・ワールドワイドのような組織から学び始めることは有益だ。最も簡易な方法での石油の抽出が衰退している現在、石油産業は「非在来型」の資源に転向しつつある。オイルシェール、オイルサンド由来の合成石油、沖合堆積物といった非在来型資源の探査や開発は費用が高い。つまり開発業者は、それまでと同じように多額の利益を得られるという保証はないのだ。その証拠に、シェル社とシェブロン社は予測していた収益を上げられず、減益予想を最近発表した。

ギャラガー氏は先住民族の権利に関する問題を「カナダにおける過去10年間で最大の、マスコミに取り上げられなかったビジネス関連の話題」と呼ぶ。

先住民族の訴訟が起こる恐れは、BC州での数々のプロジェクト計画を危うくする可能性があるとギャラガー氏は考えている。そうした計画に含まれるのは、エンブリッジ社およびキンダー・モーガン社のパイプライン計画、ニュー・プロスペリティ鉱山、ジャンボ・グレーシャー・スキーリゾート、サイト・C・ダム、マウント・クラッパン露天掘り炭鉱などである。

一方で、企業や投資家は、発刊から1周年を迎えたファースト・ピープルズ・ワールドワイドの月刊ニュースレター『(コーポレート・モニター)』誌を購読するといいかもしれない。同誌は、先住民族との連携を図る企業に影響を及ぼす重要な動向を取り上げるニュースレターだ。

「2013年、私たちは朗報も凶報も厄介な情報もお届けしてきた」と『コーポレート・モニター』誌のスタッフは先月、記している。

「私たちは企業が地域社会と協力的関係を築き、自由で事前の情報に基づいた同意(FPIC)を尊重する方法を学び、先住民族の協定を順守するのを目撃した」

「また、私たちは企業がFPICを無視あるいは誤解し、地域社会での暴力を直接的あるいは間接的に誘発し、協定を軽んじて環境に害を及ぼすのも目撃した」

「そして私たちはこうした行動が導く結果を目撃した。抗議活動や訴訟がますます増えて、FPICを無視した企業を罰して先住民族の権利を守る新たな法律が増えたのだ」

翻訳:髙﨑文子

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エネルギーへの投資:先住民族の権利バブル by キャロル・スミス is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 4.0 International License.

著者

キャロル・スミスは環境保護に強い関心を寄せるジャーナリスト。グローバル規模の問題に公平かつ持続可能なソリューションを探るうえでより多くの人たちに参加してもらうには、入手しやすい方法で前向きに情報を示すことがカギになると考えている。カナダ、モントリオール出身のキャロルは東京在住中の2008年に国連大学メディアセンターの一員となり、現在はカナダのバンクーバーから引き続き同センターの業務に協力している。