複合災害後の意思決定と住民参加: 被災地・福島からの教訓

2015年02月20日 モシニャガ・アンナ 国連大学, 十時 義明 地球環境戦略研究機関

被災地の持続可能な復興のための出発点として、政策策定者は地域の事情に留意しながら、被災者のニーズに応えなければならない。そのためには地域社会の既存の問題を考慮するとともに、災害後に顕在化しうるひずみなどの敏感な問題にも注意を払うことが必要である。しかし、そうして被災地域で住民の積極的な参加と関与を促すことは、さまざまな難題を浮き彫りにする複雑な状況では容易なことではない。災害後に至るところから同時に来る要望とプレッシャーは、事態に対応すべき自治体職員の能力を容易に越えてしまい、さまざまな関係者の優先順位が対立したり、当初から限られている資源のやりくりが困難を極めたりする。

2011年3月の東日本大震災で地震・津波、そして福島第一原発事故の三重の被害を受けた福島の被災地では、複合災害がもたらした地域社会の分断によってこうした問題はより深刻化している。避難民が帰還できるのかどうか、また、いつ帰還できるのか、どのように生活を再建すればいいのか不透明であることが、原発事故の特徴である。つまり、被災した地域社会の社会構造を断ち切ってしまうのだ。本記事では、複合災害に見舞われた地域社会における参加型意思決定の課題に焦点を当て、国連大学の「FUKUSHIMAグローバルコミュニケーション事業(FGC)」と地球環境戦略研究機関の「汚染地域の実情を反映した効果的な除染に関する福島アクション・リサーチ(FAIRDO)」の研究結果を元に、除染作業と復興計画の策定プロセスからの教訓を引き出す。

誰のための除染なのか?

2011年3月の福島第一原発事故直後、レベルの異なる行政機関(国・県・市町村)の間でコミュニケーションの途絶があった。緊急事態が次々と明らかになっていく中で、原発周辺の自治体の多くは、いつ、どこへ、どのように避難すべきかについての重要な判断を、完全に孤立した状態で下さざるをえなかった。その結果、避難は混乱を極め、大多数の避難者は数日で帰宅できるものと考えていた。ほとんどの場合、中央政府からの指示と支援がなかったため、行政機関に対する被災者の信頼が損なわれた。

除染作業で出た土壌の仮置場。福島県田村市。Photo: Ana Mosneaga

除染作業で出た土壌の仮置場。福島県田村市。Photo: Ana Mosneaga

こうした不信感は、行政が2011年4月に一部の市町村で着手した除染によってさらに悪化した。除染は原発事故後に広がりつつあるパニックを収め、福島県からの住民の流出を抑えるための策として打ち出された。FAIDOチームが開催した、汚染状況重点調査地域(国が設定した避難区域外にありながらも原発事故の影響を受けたある地域)との地域車座会議では、1人の参加者が次のように語った。

「2011年当時、避難の問題と除染の問題が一緒くたに考えられ、除染することが、目的化していた(つまり、除染が行われれば避難する必要がなくなると考えていた)。除染の実施そのものが目的になってしまい、除染が避難の妨げになった側面もあった。除染作業の限界が明らかになりつつある現在、空間線量率が安全なレベルになるまで不安を持つ人々の移住を支援する、包括的な措置が欲しいとの声がでている」

除染は、その制度的・法的枠組みが形成される中で、避難区域の再編や賠償制度などの重要な課題と密接に結びつけられるようになった。しかし実際には、他の課題との適切な調整が行われないまま、除染の迅速な実施が過剰に注目された。

市町村が責任を持つ多くの除染実施計画は、地域の関係者と十分に協議することなく、福島県が発行したマニュアルに従って考案された。情報の共有と意思決定プロセスへの住民参加が不十分であったことから、除染作業には地域の実情が反映されておらず、関連する復旧・復興計画との調和も取れていなかった。

実のところ、放射線の空間線量率は、被災者の生活と地域社会が再建するために解決しなければならない多くの要素の中の1つでしかない。福島県での除染作業は、ほとんどの場合、住民の帰還や移住の意向、地域復興計画の立案と実施のプロセス、賠償制度など既存の支援制度の有効性などの課題との関連を考慮することなく実施された。地域の実情を十分に明らかにするためには、本来なら除染作業は、対話と情報共有を行う十分な機会を設け、被災者との広範囲にわたる協議に基づいて実施すべきである。しかし行政は、除染に関して「決定後、公表して正当化する(decide-announce-defend、DAD)」アプローチを採用し、内輪で決定した事項を人々に説明会などで通知することで、時間を節約しようとしてきた。こうしたやり方を転換し、地域との協議会という形態で、多様な関係者が参加する対話を支援すべきである。

住民との対話の機会を提供するだけでは、有意義な議論への関係者の参加は確保できない。まずは、行政側が、率直かつ適時の情報提供を進んで約束しなければならない。同時に、地域車座会議は、行政機関、関係する研究機関、市民団体などが提供する情報がすべて1カ所で入手できるような情報共有の仕組みによって補完されなければならない。

復興計画策定の課題に直面して

放射能汚染がもたらした課題に向き合うには、市町村・県・国レベルの行政機関が、住民の懸念を理解しそれらに対応することで、住民の信頼を取り戻し、復興について前向きな議論を促すことが必要となる。現場では、福島の被災した自治体が、復興計画の策定プロセスに住民参加を促すために試行錯誤を続けている。

避難民のための仮設住宅。福島県二本松市。Photo: Ana Mosneaga

避難民のための仮設住宅。福島県二本松市。Photo: Ana Mosneaga

しかし、復興計画の策定プロセスへの住民参加の推進にどの程度積極的かは、自治体によって温度差がある。原発事故直後に経験した放射能汚染と避難・移住の度合いにより、この問題に取り組む市町村の緊迫感が左右される。一部の地域のみが避難区域に指定された市町村では、住民の参加は時々行われる意向調査などに限られていることが多い。しかもこうした意向調査は、放射能に対する感覚の違いや賠償の格差によって分断されている被災地の現状に明るくない県や国の職員が計画していることが多い。このような事例では、前述のDADアプローチが一般的な傾向にある。

原発事故によって住民全員が避難し、その存続そのものが危ぶまれている自治体にとって、復興計画に地域社会の視点を取り入れることは、優先順位がより高い課題であることが多い。そうした状況にある自治体では、住民参加を促そうと、意向調査や説明会のほかに、ワークショップ、フォーカス・グループ・ディスカッション、アイディア日記など、さまざまな手段を試している。それでも、住民の声を拾い上げることは依然として難しい。双葉町の職員はFGCプロジェクト内でのインタビューで、次のように話している。

「我々行政が一番困るのが、町民の声を拾い上げる、意見は欲しいんですけれども、なかなかあがってこないというのが課題なんです。工夫はしているつもりですが、いろいろ苦肉の策です。アンケートで○×をつけても、なかなかその人の考えって伝わってこないんですよね。見えないところがあるでしょう、行間というか。そこで、日記形式で書いてもらいましょうと、住民にノートを配布しました。日々状況も変わりますから、住民の考えがどう変わるのかわかればと思って。でも手書きだから、面倒くさいという人もいるわけです。それに、日記みたいに続けて書いた人はごく少数でした。世代別ワークショップというやつもやったんです。でもなかなか集まりが悪くて、来るのは70歳代とかで、30~40歳代は、ほとんどいない。若い世代に働きかけるのは難しいです」

このようにさまざまな参加型の施策を試行してきたが、限られた成果しか得られていないことも多い。自治体には、成果があったものとなかったものを評価するための資源と時間が不足している。そのうえ、地域社会を分裂させている対立意見の間で妥協案を見いだすことも課題である。浪江町の場合、中学生以下を対象にしたアンケート調査が、復興計画の優先事項を巡って対立する意見を束ねるのに役立った。

「復興計画では、まずは一人一人の暮らしの再建、これを一番に考えて、そのうえでふるさとの再生をしていきましょうと、今もそれでやっているところです。それを検討していったときには、町民もぶつかるんですよね。中には、もう再生しなくていいだろう、そこで除染とかそういった費用を生活再建のためにやって、あそこはもう捨ててもいいのではないかという人もいました。でも、どうしても中で暮らさなければ、ふるさとはあそこしかないのだという思いもあります。転機となったのが、『子どもアンケート』です。小・中学生に、浪江町にどういう町になってもらいたいか、書いてもらいました。発展したすごい町を望んでいるわけでもなく、あそこはあきらめたとかいうのでもなく、元の浪江町でいいから、元通りにしてもらいたいのだということを、切実な思いでアンケートに書いた子どもたちがかなりいたんですね。そこで、復興計画をつくっている大人たちも、やっぱりあの浪江はふるさととしてちゃんと再生しなくてはいけないという話で方向性が1つになって議論が進んでいったんです」

これらの町の経験から、さまざまな層の住民と話し合い、時間と資源を投じて住民に働きかける最良の方法を見つける必要があることがわかる。対話のための活動に勤労世代の参加を促すのは難しいことかもしれないが、そうした機会は一回限りのイベントとしてではなく、継続的に提供することが望ましい。同時に、将来の世代に対する地域社会の責任に注目することが、復興計画の策定プロセスで意見の対立を打開する1つの方法になると考えられる。

バランスを見いだすための近道はない

福島では除染作業や復興計画の策定に関しても、プロセスのスピードアップと被災住民との協議に時間を確保することの間にバランスを見いだす必要がある。そのバランスを見いだすための近道もなければ、普遍的な青写真もない。どの地域社会にとってもそれは難題であり、導き出すには時間がかかるだろう。突き詰めれば、複合災害の被災地域での住民参加の確保には、十分な資源と能力、透明性のあるリーダーシップだけでなく、関係者全員の関与を促そうとするコミットメントも必要なのである。住民参加型の意思決定は、短期的には、最も効率的な方法ではないのかもしれない。しかし、住民参加と対話の手段を提供するための投資は、持続可能な復興を確実に実現するためのまさに第一歩なのである。

著者

国連大学サステイナビリティ高等研究所のリサーチ・アソシエイトで、FUKUSHIMAグローバルコミュニケーション事業の主任研究員として、避難地域の復興に関する課題に重点的に取り組んでいる。移民政策の専門家であり、なかでも労働移住を専門とする。コペンハーゲン大学大学院人文地理学の博士号を取得。現職着任前は、欧州委員会本部で移民政策の提案を担う部署に勤務していた。

十時 義明

地球環境戦略研究機関

地球環境戦略研究機関(IGES)の研究員で、2011年から2013年にかけて「効果的な除染に関する福島アクション・リサーチ」プロジェクトのタスクマネージャーを務めた。専門分野は化学物質管理と都市環境管理である。タイのアジア工科大学院大学で都市環境管理の理学修士号を取得し、環境コンサルティング企業とバイオ燃料ベンチャー企業に数年間勤務したのち、IGESに入所した。