リビアで拷問されるエリトリア移民:国際社会にできること

東西アフリカからの移民がリビアを経由して地中海に向かう中、何万人もが暴力や虐待、拷問を受け、命を落としている。

こうした移民は、密入国あっせんの被害者なのか?人身売買の被害者なのか?あるいはそのどちらでもないのか?不安定なリビア情勢が続く中で、移民の死亡や拷問を防ぐために欧州諸国に何ができるだろうか?

リビアで起きていることは人道に対する罪であり、国連の「保護する責任」というコミットメントのもと、国際社会はリビア内の移民を保護する義務を負っている。つまり、世界の国々は一丸となって、そのような危険にさらされている移民を保護する行動を起こさなければならないのだ。

私たちは数年にわたり、アジアやアフリカからヨーロッパへの非正規移住移民の密入国、および人身売買について調査してきた。この調査によって、移民を取り巻く実態の複雑さが浮き彫りとなった。私たちはこれらの実態を、移民救済を目的とした国際条約や政策と比較してみた。

他国を経由してきた移民は、拷問や恐喝に遭遇する可能性があるにもかかわらず、ヨーロッパ到着後直ちに何らかの保護を受けることができない。その理由は、自分が置かれている状況を反映する法的な身分がないからである。

密入国か人身売買か?あるいはそのどちらでもないのか?

移民の密入国の場合、少なくとも理論上は、移民になろうとしている人と密入国あっせん業者との間で任意の契約が結ばれる。密入国あっせん業者は非正規の移動や入国を手助けし、移民はそのサービスの代金を支払う。両者の関係は、合意された旅が終わった時点で終了する。

これに対して人身売買では、詐欺や強制、さらに密入国では見られない、到着地での搾取が行われる。これもやはり理論上の話である。また、人身売買は必ずしも国境を越えるとは限らない。

国連の定義によると、人身売買は人の獲得、輸送、引き渡し、蔵匿、受け取りといった行為を含む。これらはどれも、移民の密入国においても行われる。

一方、こうした行為の目的は単に利益を上げるというだけではない場合もある。性的搾取、強制労働、奴隷化、または臓器摘出などの搾取も行われる。

このような定義とそこから生じる違いは、明確な国家当局が存在しないサハラ砂漠地域の国々を経由するルートのような状況では無意味であることが多い。

多くの移民がリビアを経由しイタリアに渡るが、私たちの最新の調査ではとくに、エリトリア移民の体験に着目した。そのためこの調査はリビア内にいるすべての移民を代表するものではない。

エリトリア移民は南東部からリビアに入る。ここはタブ族の領土である。2011年にムアンマル・アル=カッザーフィー(カダフィ大佐)が死去し、42年間に及ぶ残忍な政権が崩壊してから、リビアは複数の部族政権によって統治されており、タブ族は自らの領土を強力に支配している。

移民の管理は、部族などの準国家主体や、国連が承認するリビア政府とこれら準国家主体との間に結ばれた準公式協定、またそれ以外の国内部族などによって執行されている。

誘拐と恐喝

スーダンを通ってリビアに向かうエリトリア人たちは、自分たちがリビアで誘拐され恐喝されることを知っており、予想している。騙されたわけではない。彼らはハルツームの密入国あっせん業者によってリビアとスーダンの国境に連れてこられ、そこで待つように言われる。

やがてリビア人がやってきて、彼らを収容所に連れていく。そこで彼らは家族や知人に電話をして、身代金を送るよう頼む。家族が身代金を支払うまでは解放されない。支払いを待っている間に、多くの人が虐待される。

支払いが行われると、ほとんどの場合、エリトリア人は北部に連れていかれ、地中海へと送り出される。イタリアに到着すると苦難は終わり、リビアで彼らを拘束していた組織との関係も終了する。

移民と密入国あっせん業者の間で最初に契約が交わされていないので、これは密入国あっせんにはあたらない。また、詐欺も強制もなく、リビアを発つと関係が終了するので、人身売買にもあたらない。これは誘拐と恐喝であり、人道に対する罪として対処するのが最もふさわしい。

国際社会に何ができるのか?

人道に対する罪の被害者となった移民や庇護申請者がたどり着く国には、道義的または国際法的にどのような義務があるのだろうか?

密入国や人身売買の定義から離れ、欧州連合の領土に到着する移民や庇護申請者のために、国際的な保護体制を用意することができるだろうか?

現在リビアでは、国家に代わって部族政権が台頭し、独自の非公式ルールのもと支配を行っている。リビアの歴史は部族統治に基づいており、これらの部族は1951年の独立を期に統一され、カダフィ大佐のもとで慎重に管理と融和が図られてきた。カダフィ大佐亡き後、政治において部族が再び存在感を増しつつある。

逆説的だが、現在国際移住機関(IOM)や欧州連合(EU)などの組織は、人々の移動が規制されない恐れからリビアとニジェールで運営支援を行っており、基本的な法の支配再構築され国境が管理されることを期待している。

しかし、これは事実上、部族支配の合法性を間接的に認めることになり、結果的には、部族政権の強化に寄与することになっている。

EUが地中海を経由した移民の流入に対する永続的な解決策を模索している中、移民や庇護申請者が到着する国々は、彼らに国際的な保護体制を用意し、人道に対する罪の被害者となっている人々を守ることができるのではないか。

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この記事は、クリエイティブコモンズのライセンスの下、The Conversationから改めて発表されたものです。元の記事はこちら

著者

カナダ・トロントのライアソン大学で移民と移民統合政策に関するカナダエクセレンスリサーチチェアを保有。

ケイティ・クシュミンダー博士は国連大学マーストリヒト技術革新・経済社会研究所(UNU-MERIT)・マーストリヒト大学院ガバナンス研究科研究員。現在は欧州大学院(EUI)ロベール・シューマン高等研究センター研究員として、NOWルビコン奨学金による研究の完了を控えている。EUIでのプロジェクトとして、イタリアにおけるエリトリアおよびナイジェリア移民の意思決定に関する比較分析を実施中。