「世界は深刻な水の危機に直面している」と、元政府要人や専門家らが、食料、健康、エネルギー、株の問題を含む、安全保障、開発、社会的リスクについて多岐に渡って論じた報告書の中でこのように警告している。
「水の安全保障には長期にわたる政治的責任感や関与、開発と人類の安全における水の重要性の認識、そして、水という必要不可欠なものを全ての生き物に供給できる予算配分が必要だ」と、国連大学水・環境・保健研究所 のザファル・アディール所長は9月に発表された報告書で述べている。
「多くの人々はいまだに気候変動の影響は地域単位のことにすぎず、深刻でなく漸増的なものだと考えている」。同じくこの研究に参加したインターアクション・カウンシルの上級水政策顧問ボブ・サンフォード氏が補足する。「しかし実際は気候変動が全ての地域の経済的、社会的、政治的格差をひとまとめにし、あらゆる人々にあらゆる場所で同時に影響を及ぼすようになるのも、もう間もなくのことだろう」
確かに2013年食料安全リスク指数マップを見ると、黄色、オレンジ、赤が地図の大部分を占めており、食料不安が世界のあらゆる場所で問題となっていることが明らかだ。
気候ストレス要因が人々に与えている影響や、問題に対処し生き残るためにどのような行動をとるべきかをより詳しく理解することは非常に重要である。
また世界の気温は2100年までに3.5℃から6℃程度上昇することが予測されている。季節の予測ができず、雨が不定期に降り、季節外れの事態が起こり、季節の変わり目がなくなるなど、状況が不安定になれば、既に脆弱な世帯には深刻な影響が及ぶ。彼らはこれまでに経験したことがないような喪失や損失に苦しみ、生活環境の悪化と食料不足という悪循環に陥る可能性がある。
よって、現在そのような人々に気候ストレス要因が与えている影響や、問題に対処し生き残るための行動の改善方法をより詳しく理解することは非常に重要である。国連大学環境・人間安全保障研究所(UNU-EHS) の専門家ココ・ワーナー博士が率いる新たなリサーチプロジェクトが、グローバル・サウスにおける降雨パターンの変化の複雑さを解明し、それがいかに安全保障と人間の移住に影響を及ぼすかについて焦点を絞っているのも、まさにそれが理由だ。
「Where the Rain Falls: Climate Change, Food and Livelihood Security, and Migration(雨の降るところ:気候変動、食と生活の安全、移住)」のリサーチプロジェクトは、ケア·インターナショナルとUNU-EHSが提携(金融アクサグループとマッカーサー基金からの支援を受ける)して行うもので、貧しい世帯が気候に関するリスク管理戦略として移住する過程を調査する実験主義的な活動の1つだ。
「Where the Rain Falls」は環境移住に関する単なる報告書の1つではない。多様な場所で調査を行っているだけでなく、このプロジェクトのユニークで包括的な実地調査は研究対象のコミュニティにおける参加型研究アプローチと対面世帯調査などを取り入れ、さらに地方、地域、国家レベルでの専門家とのインタビューや、各ケースの文献レビュー、および地域気象データのレビューと解析をも盛り込んでいる。
それぞれ非常に異なる調査地域から取り出された証拠に一貫性をもたせるため、分析の枠組みは国、調査地域、世帯の各レベルでの重要な考慮事項を強調している。イニシアティブによると、このテーマのもと多国での実地調査ベースのプロジェクトで、このようにメソッドが組み合わせて行われるのは初めてだという。
さらにこのプロジェクトは、実地調査を通して集めたデータを使用し「降雨に基づいた移住モデル(RABMM)」を開発した。今後、世帯が移住を決める状況についての洞察を与えてくれるだろう(報告書ではRABMMの結果はタンザニアの調査地域での例が示されている)。
それに加えて降雨パターン、農業、食料安全保障に関する主要なデータや研究対象の村からの移住のパターンが一目で見られるようオリジナルの地図が(コロンビア大学地球研究所の地球科学情報ネットワーク国際センターによって)開発された。
8つの調査地域の農村の人々は、降雨の変化という形で起きている気候の変化をしっかりと観察しており、その観察認識によって、彼らが危機管理上の意思決定を行っていることが研究によりわかった(多くの場合、彼らが認識している変化は過去数十年の地元の気象データの分析と相関する)。
アジア(バングラデシュ、インド、タイ、ベトナム)、アフリカ(ガーナ、タンザニア)、ラテンアメリカ(グアテマラ、ペルー)の8カ国の調査地域となった農業世帯の大半が、降雨の変化が既に生産に悪影響を与えており、食料と生活への不安を強めていると報告している。
「場所によって食料不足のレベルは異なりますが、雨を必要とする農業への依存が高く、他の生活手段の選択肢が少ないところでは移住の決定は降雨と密接に関わっています」とワーナー博士は説明する。
「Where the Rain Fallsの研究に参加したコミュニティは生活基盤が弱く、洪水、かんばつ、季節や雨の時期のずれなど気候変動の影響が増すにつれ、危機へと追い込まれていきます」ケア・USAの上級政策提唱者トーニャ・ラウェ氏が話す。「あらゆるレベルで本物の政策と実践的な解決策が今必要なのです。影響が深刻になればなるほど、世帯はより脆弱になり適応する能力も落ちます。そして空腹の末、最後の手段として移住を決定し、さらに脆弱性を増すことになってしまうのです」
研究と同等に重要なのが、利害関係者(市民社会団体を含む)にプラットフォームを提供するために、このイニシアティブを「研究から行動へつなげるプロジェクト」にすることである。
研究によると、移住は季節的、一時的、永久的のいずれの場合も、降雨の変化と食料と生活の不安に対応しようともがく家族にとって重要なことである。多様な資産や様々な適応方法や危機管理の選択肢を持つ世帯は移住によりレジリエンスを強化することができる。一方、その対極にある、選択肢を持たない世帯は、食料不足の時期だけ消極的な生き残り戦略として国内で移住し、それにより「ギリギリの生活」に自らを追い込むことになってしまう。
その他に判明した事実
降雨の変化や食と生活の不安に起因する人間の流動性が地方だけの危機ではなく世界的な現状だとみなされない限り、適切な対応がなされることはないだろうと報告書は述べている。脆弱な人々を援助、保護するという重荷は、影響を受けている地域や国だけでは背負いきれない。より細やかな理解があれば、適応のための投資や政策決定の助けになり、各世帯が行う移住も含めた対策の支援ができ、気候変動に対するレジリエンスを高めることができるだろう。
そこで、研究と同等に重要なのがこのイニシアティブを「研究から行動へつなげるプロジェクト」にすることだ。利害関係者(市民社会団体を含む)にプラットフォームを提供し、政策計画や国家、地域および地方のレベルで実践的な介入に貢献しなければならない(気候変動への適応、レジリエンス、食料安全保障など、世界的政策議論にも参加すべきなのは言うまでもない)。
調査報告書は、世帯が「気候変動による衝撃に耐え、耐性のある生活を築き、レジリエンスを強化する手段として移住することができるよう」政策立案者や実務家が行える支援方法を挙げている。
それには極めて広い範囲の活動が含まれる。「透明性、参加型アプローチ、説明責任を促進する適切で、持続可能、予測可能、新規かつ追加的な適応資金」をもたらすための活動強化の努力から、インドでのプロジェクト、ペルー、タンザニア、タイでの地域密着型ベースの適応活動(CBA)プロジェクトの開発など弱者を優先し、救う活動まで様々である。
「国内および世界の政策立案者や実務家が、地球温暖化を緩和し農村のコミュニティが今住んでいる場所で適応できるよう支援するため迅速に行動しなければ、人道的、政治·安全保障上の影響として、食料不足や、気候変動により最も大きな打撃を受けた地域からの移住者は、今後数十年の間に増加するだろう」とケア・フランスのWhere the Rain Fallプロジェクト·コーディネーター、ケビン·ヘンリー氏は訴えている。
***
この研究の詳細についてはダウンロードセンターで概況報告書、要約、および「グローバルポリシーレポート」全文が、またはWhere the Rain Fallsのウェブサイトで各国のケーススタディと地図がご覧いただけます。
翻訳:石原明子
降雨の変化・食の安全・移住の相関性 by キャロル・スミス is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.