チリツィ・マルワラ教授は国連大学の第7代学長であり、国連事務次長を務めている。人工知能(AI)の専門家であり、前職はヨハネスブルグ大学(南ア)の副学長である。マルワラ教授はケンブリッジ大学(英国)で博士号を、プレトリア大学(南アフリカ)で機械工学の修士号を、ケース・ウェスタン・リザーブ大学(米国)で機械工学の理学士号(優等位)を取得。
人工知能(AI)はアフリカにとって変革の可能性を秘めているが、AIは責任を持って活用することが極めて重要である。AIがさまざまな分野にますます取り込まれていく中、その利活用がアフリカに住む全ての人にとって倫理的かつ有益となるよう、強固なガバナンス枠組みのための基準づくりが不可欠だ。国連大学は、AIの可能性と危険性の両方を認識し、AIがアフリカ大陸全体のための力となる未来を築くべく、積極的に貢献している。
AIは農業、医療、教育などの分野に革命をもたらす可能性を秘めているが、デジタル格差から多様な文化的背景に至るまでのアフリカ特有の課題には、それぞれに合ったガバナンスが必要である。こうした課題に対処するためには、普遍的な原則を根幹としつつ現地の状況に適応したアフリカ中心のAI基準の策定が不可欠である。このアプローチは、南アフリカ共和国標準局(SABS)によるアプローチとも一致している。SABSは、世界基準との関係での重要性を維持しながら地域のニーズに対応するような、各状況に応じた基準づくりが大切であると強調している。
倫理的なAIエコシステムのための基準策定では、いくつかの基本原則に従う必要である。
第一の原則として、AIシステムは人権と人間の尊厳を基盤として設計されなければならない。この原則は、公平性や説明責任、透明性を重視したAI倫理の世界基準を策定した米国電気電子学会(Institute of Electrical and Electronics Engineers)などの活動に反映されている。さらに、AIシステムはアフリカの豊かな文化的および言語的多様性を尊重し、全ての人のための包摂(インクルージョン)とアクセシビリティ(アクセス可能性)を確保すべきである。
第二に、説明可能なAIは信頼構築のために極めて重要であり、AIの決定が広範囲に影響を及ぼす分野では特にそうである。
アフリカは、国際標準化機構(ISO)が策定してきたようなグローバルスタンダードに沿った透明性を重視すべきである。ISOは、AIシステムとその意思決定プロセスを明瞭に文書化し、アクセス可能な形で情報開示していくことを提唱している。さらに、米国立標準技術研究所での経験からは、専門家でなくても理解できる説明可能なAIモデルを開発し、社会のあらゆるレベルで透明性を確保することの重要性が見えてくる。
第三に、AIがもたらす結果に対する明確な責任を確立することが不可欠である。国際電気通信連合(ITU)は、AIガバナンスにおける説明責任の重要性を強調するガイドラインを提供し、この分野で重要な役割を果たしている。AIガバナンスの枠組みに関する国連大学の取り組みは、明確な説明責任の線引きと、AI導入によるあらゆる悪影響に対処する仕組みの必要性を強調している。
国際電気標準会議もまた、AIシステムが正確に作動し、その結果について説明責任を果たせるよう、安全基準とリスク管理について貴重な見識を提供している。
第四に、AIの恩恵は広く共有され、デジタル格差を解消し、テクノロジーが既存の不平等を悪化させることを防がなければならない。この原則は、AI技術への公平なアクセスを提唱するSABSのような標準化団体の掲げる目標とまさに一致している。欧州連合のAI規制法は、AIの導入が包摂的であることを保証し、社会正義を促進し、社会的に脆弱な立場に置かれた人々を保護している。
第五に、AIのポジティブな影響を最大化するためには、アフリカ諸国が協力して規制を調和させ、ベスト・プラクティスを共有しなければならない。こうした協力を促進する上で、AIに関する地域協力を促進する国連大学のイニシアチブは極めて重要な役割を果たしており、AIの恩恵が広く共有され、アフリカ大陸におけるAIの状況が共通の価値観と目標によって形成されるようにしている。AIガバナンスに対する欧州連合の協調的アプローチから教訓を得ることで、アフリカは、グローバルなベスト・プラクティスとの整合性を確保しつつ、地域の強みを活かした統一戦略による恩恵を受けることができる。
アフリカのAIガバナンスは、大陸とグローバルな視点の両方を考慮した強固な枠組みによって導かれなければならない。アフリカ連合が最近採択したアフリカン・デジタル・コンパクト(ADC)とアフリカ大陸人工知能戦略(CAIS)は極めて重要である。これらのイニシアチブは、アフリカ全域にまとまりのある包摂的なデジタル環境を構築し、AIの開発と導入がアフリカ大陸独自のニーズと野望に合致することを目的としている。これらの枠組みは、明確な基準とガイドラインを設定することにより、アフリカ諸国間のAI政策の調和を図り、地域協力とイノベーションの促進に貢献する。ADCとCAISは、グローバル・デジタル・コンパクト(GDC)およびAIに関するハイレベル諮問機関と連携しなければならない。GDCは、デジタル・トランスフォーメーションにおける人間中心のアプローチの重要性を強調し、公平性、包摂性、持続可能性を優先する政策を提唱している。
AIに関する国連ハイレベル諮問機関は、AI関連の課題と機会に関する戦略的な指針を提供し、世界的なAI基準がアフリカを含む多様な視点からの情報に基づくものであることを保証している。これらの枠組みは、アフリカ特有の状況に合致し、グローバルな原則と共鳴するAIガバナンス基準の策定も総合的に支援している。ADCやGDCのようなイニシアチブからの知見を取り入れることで、アフリカ諸国は、地域にとって適切であり、なおかつ世界にも共通したAI政策を自国で展開することができるだろう。
結論として、アフリカはAI革命の入り口に立っている。強固で倫理的なガバナンスを優先し、国連大学のような機関の専門知識を活用することで、アフリカ大陸はこのテクノロジーを活用し、持続可能な開発を推進し、不平等を是正し、すべての人に明るい未来をもたらすことができる。AIが進化し続ける中、この強力なツールがアフリカのすべての人にとって真に恩恵をもたらすためには、継続的な研究、協力、基準の遵守が不可欠となる。
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この記事は最初に Forbes Africa のウェブサイトに掲載されたものです。Forbes Africaウェブサイトに掲載された記事はこちらからご覧ください。