太平洋の島々で蔓延する眼疾患

ソロモン諸島で初めて実施された全国規模調査から、トラコーマの深刻な蔓延状況が明らかになった。トラコーマは、放置すれば成人期の早い段階で失明する恐れのある眼疾患である。

何世代にもわたって、太平洋の島々で暮らす人々はさまざまな眼疾患に苦しめられてきた。そしてこの度、成人早期までに失明の恐れのあるトラコーマについて、ソロモン諸島初の全国規模調査が実施された。その結果、この眼疾患が広範囲に点在するメラネシア人離島コミュニティを静かに浸食していることが明らかになった。

「私は医療従事者の一人ですが、トラコーマが我が国で深刻な問題になっている状況を把握できていませんでした。人々は自らにトラコーマの症状が出ていても、多くの場合、この疾病に関する知識がないために、医療センターでそのことを伝えないのです」と、保健省で国のトラコーマ対策責任者を務めるオリバー・ソカナ氏は首都ホニアラでインター・プレス・サービス(IPS)に対して語った。

トラコーマは、ハエによって媒介されることが知られているクラミジア・トラコマチスという微生物を原因とする伝染性眼疾患であり、子供や過密な生活環境で暮らす人々が最も感染しやすい。感染が長引くと瞼裏の瘢痕が慢性化し、やがて内部に浸潤してまつ毛がつねに角膜を傷つける状態になり、最悪の結果として視力を失うに至る。

トラコーマは世界保健機関(WHO)から、特に途上国において人や社会経済を脅かし続けている「17の顧みられない熱帯病」の1つに挙げられている。

パプアニューギニアの南東およびオーストラリアの北東に位置するソロモン諸島で過去4年間に実施された調査によれば、55万人の人口の約40パーセントがトラコーマに感染している恐れがある。

そうした状況を受け、同国政府はパプアニューギニアで初となる全国規模のトラコーマ実態調査を開始しており、11月末には完了の予定である。ホニアラ、ガダルカナル、中央、イサベル、マキラ、マライタの各州における予備調査の結果からみた当初の有病率は最悪でも24パーセントと見られる。

「トラコーマ患者は至るところに見られます。この島のすべてのコミュニティに患者が存在するのです」と西部州最大の島であるニュージョージア島のムンダ中心部にあるヘレナ・ゴルディ病院で眼科の看護婦をしているヘザー・パナ氏は、IPSに対して語った。この島では最近調査データが収集された。

パナ氏によれば、トラコーマ患者はあらゆる年代に見られるが、5歳から14歳までの子供にとくに多いという。その他に彼女が多く遭遇する眼疾患としては、結膜炎、角膜潰瘍、緑内障があるが、これらも放置すれば失明に至る可能性がある。

ムンダからモーター付きカヌーで30分程の距離にあるエレロという小さな海岸沿いの村では、覚えている限りいつも眼の不調に悩まされてきたと住民達は話している。エレロ・スクールでは300人の生徒にトラコーマの初期症状が見られた。

プレパラトリー・クラスで教鞭を執るオリビー・マスピタ氏と3年生を受け持つフランシナ・バジ氏によれば、クラスの四分の一の生徒に症状が見られる。「トラコーマの症状がある子供達のほとんどの家庭が子供の多い大家族で、母親達は多くの場合、幼い兄弟の面倒で手一杯なのです。トラコーマは子供達に深刻な影響を及ぼしています。他の生徒と比べて読むことが不自由で学習に大きな遅れが生じています。また、他の子供達との接触や遊びに消極的です」とバジ氏は述べている。

トラコーマは世界保健機関(WHO)から、特に途上国において人や社会経済を脅かし続けている「17の顧みられない熱帯病」の1つに挙げられている。WHO の推計によれば、トラコーマによって視力を失った人は世界全体で600万人に達し、1億5000万人を超える人々が治療を必要としている。世界的に見て、予防可能な失明の最大原因なのである。

トラコーマに感染していると診断されたソロモン諸島の児童のうち、73パーセントが下水設備のないコミュニティで暮らしており、63パーセントにおいては顔の衛生状態が不十分であった。そして、徒歩30分圏以内に清潔な水源のある子供は半分ほどに過ぎない。

太平洋の島々では、フィージー、キリバス、ナウル、パプアニューギニア、バヌアツそしてソロモン諸島においてトラコーマが風土病となっている。国際失明予防協会(IAPB)の本年度レポートによれば、フィージーでは9歳未満の子供の15パーセントがトラコーマに感染しており、キリバスではその数値は21.3パーセントに達する。7月にサモアで開催された太平洋保健相会議では、同地域におけるトラコーマ感染の実際の規模は不明であると結論づけている。

IAPBによれば、トラコーマに感染していると診断されたソロモン諸島の児童のうち、73パーセントが下水設備のないコミュニティで暮らしており、63パーセントにおいては顔の衛生状態が不十分であった。そして、徒歩30分圏以内に清潔な水源のある子供は半分ほどに過ぎない。

「エレロでは、各家庭に十分な下水設備がなく、安全で清潔な水へのアクセスもありません」とバジ氏は述べている。

46パーセントという周辺地域の平均下水普及率と比べて、ソロモン諸島の下水普及率は32パーセントに留まっている。そのため、人口の41パーセントを構成する15歳未満の子供達が、最も眼疾患の犠牲になりやすい。

学校に通っている子供達については、46パーセントの学校で清潔な水が、また59パーセントで下水設備が整備されているが、その一方でエレロ小学校には校舎の外に2つの水栓はあるものの公共トイレは整備されていない。

2020年までにトラコーマ患者を5パーセント未満に減らすことを目指し、2014年から開始予定となっている保健省の5カ年行動計画は、その策定作業が最終段階に入っている。

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著者

キャサリン・ウィルソンは、パプアニューギニア出身のフリーのジャーナリスト兼ライターであり、開発、政治、グローバル問題や社会経済問題、およびメラネシアや太平洋諸島の文化にする記事を、インター・プレス・サービス、トムソン・ロイター財団のほか、インドネシアのジャカルタ・ポスト、オーストラリアのCrikeyニュース、ニュージーランドのニュージーランド・ヘラルドといったアジア太平洋地域の各紙に提供している。また、アジア太平洋地域に関するニュースや特集記事を、ブルネイ・ダルサラームのブルネイ・タイムズ、ソロモン諸島のソロモン・スター、香港のアジア・センティネル・ニュースやアート・アジア・パシフィックに寄稿している。