近頃ファーマーズマーケットが、思いがけない場所に出現する。
東京の青山・表参道の高級ファッション街の真っ只中に現れたFarmer’s Market@UNUは、週末恒例の催しとして定着した。40以上のブースが立ち並び、新鮮な果物、野菜、植物、花以外にも、米やその他様々な食品が売られている。そのほとんどが関東地方に拠点を置く農家で作られたものだ。このマーケットのモットーは「水、太陽、そして大地」であり、文化(culture)とその語源であった耕作すること(cultivate)との結びつきを目指している。
日本の都市部で産地直送の食材が手に入る場所は、このFarmer’s Market@UNUに限らない。現在、福岡、大阪、名古屋、横浜、東京、新潟、その他多くの場所でファーマーズマーケットが開催されている。北アメリカなどでは地元の食材を利用する傾向が強まっているが、日本においても同様の全国的なムーブメントが存在する。彼らはマルシェ・ジャポンの旗印のもとに結束し、「食材を作る人」と「それを料理して食べる人」とが出会う場所の提供を目指している。
この運動はFood Action Nipponと呼ばれるイニシアティブを通じて政府の支援を受けている。イニシアティブの最終的な目標は、2015年までに日本の食料自給率(カロリーベース)を現在の41%から45%にまで引き上げることである。
Food Action Nipponの掲げるこのダイナミックなキャンペーンでは、有名セレブの力も活用し、単に教育的なイベントを開催するにとどまらず、YouTubeチャンネルやテレビ番組も利用する。彼らが消費者に呼びかけるのは次の5つのアクションである。(1)旬の農産物を食べる(2)地元の食材を食べる(3)米を食べる(4)食べ残しを減らす(5)自給率向上・地産地消を図る様々な取組みを知り、試し、応援する。
Food Action Nipponの公式パートナーではないものの、国連大学はFarmer’s Market@UNUに開催場所を提供して直接支援を行っている。マーケットは国連大学の文化アドバイザーであるロズウィータ・ラッサー氏と黒崎輝男氏の発案で始まった。彼らは有数のオーガニック農園経営者たちと力を合わせ、人々が農家から農産物を直接購入できる場の設立に尽力した。
ラッサー氏は、持続可能な食料システムに関して並々ならぬ情熱を持ち、街頭での活動やウェブを通じて人々に発信を続けている。
彼女は、我々の現在のライフスタイルと食料システムは「とにかく持続不可能である」と述べる。「農場から直接やってきた食材を食べることは何も特別なことではありません。私たちが今後送っていくべきライフスタイルの形なのです。何千年もの間、人類が続けてきたのと同じように」
ラッサー氏のひとつの大きな懸念は、近年見られる食べ物と人との関係の変化である。
「私たちは消費社会を賛美するようになり、人々は稼いだ金を貯めずに消費するようになりました」と彼女は言う。
「これによって、人々の行動様式が崩されてしまいました。特に食べ物との関係においてそれは顕著です。この状況を変えていく必要があります。ファストフードは最も高くつく食べ物だということを、人々は知る必要があります。今は安く思えるかもしれませんが、それによって健康が損なわれることで、のちのち多大な代償を払うことになるのです。また環境悪化により、社会にも高いコストが強いられます」
Farmer’s Market@UNUは100%オーガニックなわけではないが、ラッサー氏はこれを、食べ物について人々を教育するという、正しい方向への第一歩だと考えている。それはもっともなことであり、大学のキャンパスで行うのにふさわしいことと思われる。
「一般の人々に訴えかけ、メッセージを広めていく必要があります。そうしなければ、この問題にもともと関心を持っているごく少数の人々――おそらく人口の1%の人々――を相手に同じ教えを説き続けるだけになってしまいます」
「食べ物がどこからやってきて、それを私たちのために作ってくれたのが誰なのかを知ることが大事です。自分の職に誇りを持っている本物の農家から食べ物を買うという経験を、人々にしてもらいたいと思うのです」とラッサー氏は説明する。以前なら東京の中心でそう簡単にはできなかったことだ。
「それから私は、若い世代に食べ物の大切さを認識してもらい、食べ物がどこから来たのかを知ってもらう手段として、インターネットがもっと活用されればいいと思っています」
ラッサー氏と黒崎氏の両者によると、Farmer’s Market@UNUの盛況ぶりからして、その未来は間違いなく明るいそうだ。
「まず私たちは、このファーマーズマーケットを平日にまで拡大したいと考えています」と黒崎氏は言う。「次に私たちは、ここを学びの場としてのスペースにすることを考えています。活動をさらに広げてデザインや文化的なアクティビティも行うのです。私たちが行うことはすべて食べ物とつながっており、逆もまた然りなのです」
新年が始まった今は、人々が、食料について、そしてそれぞれの買い物の習慣について考え直す良い機会である。ラッサー氏は彼らに明快なメッセージを送る。
「ここに来る買い物客たちに私はこう説明します。彼らが普通のリンゴだと思っているのは、実は普通のリンゴではないのだと。リンゴを完璧なものに見せるために、今日ではあらゆる農薬や化学肥料が使われているのです」
「元来は、普通のリンゴというのは自然に実ったリンゴ、農場からそのままやってくる不完全で斑点のあるリンゴなのです。だから私は彼らに斑点のついたリンゴを買って自然とのつながりを保つことを勧めます。つまり買い物客への私のメッセージはこうです:マーケティングに踊らされてはいけない」
世界規模でファーマーズマーケットの復活が起きている。昨年アメリカで、ファーマーズマーケットのトレンドに関する大規模な調査の結果が発表された。
この調査によると、ファーマーズマーケットの多くは1年中開催されているのではなく、その88%が季節限定のもので、平均して年に4~5ヶ月間開かれている。
中でも経済的に最も成功しているマーケットは、どれも都市部に位置しており、また年間で開催されている期間が長ければ長いほど、売主数・売り上げ・来客数の上で、より成功している。例えばアメリカでは、一年中開催しているマーケットの場合、平均売主数は58、月間売り上げは70,000ドル近く、そして週間の来客数は約3580人である。
このようなファーマーズマーケットの復活は、少なくともアメリカでは、レスター・ブラウン氏のようなローカリゼーションの支持者や、マイケル・ポーラン氏のような作家の影響がひとつにはある。『雑食動物のジレンマ――ある4つの食事の自然史』や、「ヘルシーな加工食品はかなりヤバい――本当に安全なのは『自然のままの食品だ』」といったポーラン氏の画期的な著書は、何百万人もの人々に現在のグローバルな産業食料システムの欠点と危険性を認識させた。
「本物の食べ物――あなたの曾祖母が食べ物と認めるもの――が、一方では科学によって、もう一方では食品産業によって損なわれてしまっている。両者はいずれも食品の栄養素、良い栄養素と悪い栄養素への注視を促す。実際の植物や動物やキノコ類そのものではなく」とポーラン氏は主張する。
ポーラン氏の最新刊、『Food Rules: An Eater’s Manual』(食べ物を選ぶルール:食べる人のためのマニュアル)は、我々が摂取する食べ物を賢く選ぶ手引きとなっている。彼はファーマーズマーケットの強力な支持者だ。
「現行と異なる形の食料システムを望み、それを意識して食品を選択しつつ購買している人々は少なくない。これは一種の投票活動に擬えられる行動であり、このような『食品購買による投票行動』を行う人々の数はますます増えている」とポーラン氏は言う。「確かに食料消費者の力は強い。何しろ、150億ドルのオーガニックフード産業を築き上げ、ここ数年でファーマーズマーケットの数を2倍以上に増やしたのは消費者自身だったのだから。しかし、我々消費者が購買の選択を通じて実現可能な改革は、これが限度である」
「例えば、現行のシステムでは、市場に並ぶ食品のうち貧しい層の手が届くのは、最も不健康で高カロリーの食品のみであるようにできている。この事実は消費者の購買行動だけでは動かすことができない。農業政策をとりまく政治的泥沼に敢然と踏み込む必要がある」
よかったら今週末、「食品購買による投票行動」を行うために近所のファーマーズマーケットに出かけ、ロズウィータ・ラッサー氏と黒崎輝男氏とマイケル・ポーラン氏が我々に提示する諸課題にどう答えたらよいか、考えを巡らせてみるのはどうだろう。
Farmer’s Market@UNUは、東京の国連大学本部前にて、ほぼ毎週末および祭日の午前10時から午後4時まで開催されている。
本記事の右上にある小さな黒いカメラのアイコンをクリックしていただくと、このファーマーズマーケットの様子がフォトエッセイでご覧いただけます。
翻訳:金関いな
水、太陽、そして大地 by ショーン・ウッド and マーク・ノタラス is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.