コンクリート ジャングルでの農業

コンクリートジャングルという言葉に当てはまる場所といえば、東京とその周辺の都市部だろう。

現在およそ1300万人が住む日本の首都は、住宅やビル、電車や道路のインフラストラクチャーがその周辺まで途切れずに広がっている。また産業も存在するため、平日の人口は3600万人にまで膨れ上がる。

しかし東京の農地は8000ヘクタールにも満たない。政府の統計によれば、そのほとんどは野菜やフルーツ、花の農地であり、日本全体のわずか0.2%だという。

さらに日本には、米国の耕作可能な土地のわずか2.5%しかなく、食糧自給率は、ほんの40%にすぎない。

したがって、栄養価が高く、安全で、環境に負担の少ない食料を都市生活者に提供することはかなり難しい。しかし、正しい情報があれば、東京で自分の食べ物を育てるのは可能なのではないか?コンクリートジャングルでの有機農業は実行可能ではないだろうか?そして、もしそうなら、どういった支出と収益が想定できるか?これらの疑問に対する答えを見つけるために、私は非公式な研究をスタートし、非常に小さな農地を借りた。

栽培方法のメニュー

1990年代以降、東京都は都民が小さな土地で農業を行えるように、公有地や私有地を開放してきた。それ以来、特に第2次世界大戦以後に生まれた日本のベビーブーム世代が引退し始めたこともあり、農業に対する関心は高まり続けている。さらに、主に農業を支援するロールモデルたちの影響を受け、若者たちも趣味として農業にますます魅了されている。

東京に住む人の大部分はアパート住まいで、何かを育てるようなスペースはあまり持っていない。それでも、キッチンガーデンやその他の工夫がまだまだ可能である。驚くべきことに、都会での農業の選択肢はいくつかある。例えば屋上を利用したガーデニングや、パソナグループのように地下を利用した農園だ。

Farming in the concrete jungle Photo by Alva Lim.

友達や家族と一緒に大空のもとで質のよい野菜を育て、さらに栽培技術を向上させる情報も得られるという機会に人々は魅了されていた。

もちろん屋内での栽培施設には、より高価な生産コストが伴う。例えば温度や湿度を維持するための空調設備や、二酸化炭素や照明や水といった諸条件を最適な状態に保つためのコンピューター制御にかかる経費だ。さらに、人工的に排出される熱といった自然ではない条件を制御するためにエネルギーが必要なので、屋内の栽培システムではカーボンフットプリントが高くなる。

都会での農業研究

本研究のために、私は2010年の夏(5月~9月)の間、私有農地の一画を借りて、旬の有機野菜を低炭素排出型の方法で栽培し、その収益と支出を検証した。私は東京西部の市街地にある私有農地で6平方メートルの一画を借り、トマトおよびミニトマト、キュウリ、ゴーヤー、ナス、ピーマンという5種の夏野菜を育てた。

私はすべての農作物に伴う経費と収益を見積もってみた。経費に含まれるのは、種(1袋で5~6ドル)、苗(3ドル50セント)、農地の賃料(302ドル)だ。農地の賃料には、くわ、すき、支柱、ネットといった農具と、水道や有機コンポストの利用料が含まれており、さらに農作業の技術などについての農園スタッフのアドバイスも含まれる。また、農地から自宅や職場までの往復の交通費も経費に計上した。交通費は距離によって5~10ドルとばらつきがあった(もちろん場合によっては、スーパーマーケットへ行くのにかかる経費も計上すべきかもしれない)。

この農地で1シーズン、野菜を育てたところ、支出総額は686ドルで、その44%は農地の賃料が占めた。

総収益は、東京の市場価格をベースに収穫量から計算した。スーパーマーケット3店舗と週末に開催されるオープンマーケット1カ所での有機野菜の平均価格は、トマトは1個60セント~1ドル40セント、ミニトマトは1パック3ドル~4ドル40セント、キュウリは1本80セント~1ドル40セント、ゴーヤーは1本1ドル20セント~3ドル30セント、ナスは1本60セント~1ドル、ピーマンは1個20セント~1ドル10セントだった。

1区画あたりの1シーズンの平均収穫量は、トマト45個、ミニトマト3.5キロ、キュウリ45本、ゴーヤー20本、ナス25本、ピーマン35個だった。平均市場価格をベースに計算すると、総収益は316ドルで、費用便益比は0.46となり、結果的に350ドルの赤字だった(しかし重要なのは、従来のスーパーマーケットで売られている食品の「隠れた環境経費」、つまり商品の輸送や保存に使われるエネルギーや、化学合成肥料や殺虫剤による被害を考慮に入れることだ)。

金銭を超えて

借りた農地での都会の農業にかかる経費は、収穫物から得られる収益を上回ったという事実にもかかわらず、東京の住民たちは金銭とは無関係の数々の動機から野菜を育てていた。303区画が貸し出されているこの農園で出会った人々とのカジュアルな会話や観察から考察したところ、動機として最も共通していたのは、地元で採れた旬の有機野菜によって健康な食生活を送りたいということだった。

都会で野菜作りをする人達の多くは、農業の経験を持たないということは明らかだった。それでもなお、友達や家族と一緒に大空のもとで質のよい野菜を育て、さらに栽培技術を向上させる情報も得られるという機会に人々は魅了されていた。また、自分で育てた野菜の方が新鮮でおいしいと信じていることも、野菜作りの動機だった。

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都会で野菜作りをする人達の多くは、農業の経験を持たないということは明らかだった。
農園で特に目立っていたのは、年配者のグループや、子供に与える食べ物の品質に関心を持つ若い母親のグループだ。それに比べると、会社勤めの男女(フルタイムのオフィスワーカー)はあまり見られなかった。彼らの勤務時間は長いので、農作業に適した時間帯に、仕事帰りに農園へ立ち寄るのは難しいのだ。

個人的に農地を借りて野菜を育てることは、お金の節約にはならない。にもかかわらず人々は、あえてお金と時間を投資し、野菜の育て方を学んでいた。いずれは自宅で、より手軽に野菜作りをするためかもしれない。全体的な印象として、人々は都会での農業に携わり、その恩恵を家族や近隣の人々と共有するという機会、つまり生産コストを超えた価値を持つ体験を心から楽しんでいるようだった。

翻訳:髙﨑文子

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コンクリート ジャングルでの農業 by ジンタナ・ カワサキ is licensed under a Creative Commons Attribution-NoDerivs 3.0 Unported License.

著者

ジンタナ・カワサキ博士はタイと日本両国で教育を受けた。東京農業大学において国際バイオビジネスの博士号を取得。他の生産システムと比較した有機野菜農業の持続可能性について研究した。カセサート大学(タイのバンコク)経済学部では農業経済の理学修士号を取得。2009年国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)に加わる以前はカセサート大学とコンケン大学農業経済学部にて講師を勤めた。UNU-ISPではタイでの気候変動による米の収穫高への影響と、経済予測に焦点を絞って研究を行っている。