ゴミがおしゃれに変身

3Rとは、いずれも頭文字Rを持つ、「廃棄物処理のヒエラルキー」の中の3項目である。この3つのRは一見どれがどれだかわかりにくいが、実はReduce・Reuse・Recycle(発生抑制・再使用・再生利用)の優先順位で並んでいる。トップはゴミの「発生抑制(リデュース)」。エネルギー消費がゼロだからである。小差で続くのが「再使用(リユース)」。エネルギーを全くあるいはほとんど使用せずに廃棄物を減らせる。よりエネルギーを使う「再生利用(リサイクル)」が最後にくる(とはいっても、新しい資源を使った製造よりは少ないエネルギー消費だ)。

そうすると、ゴミは減らしてもおしゃれ心は減らしたくないあなたにとって、ゴミから作られたファッション小物はこの上なく「グリーン」な魅力を持つに違いない。ボンバスティック・プラスティックス(Bombastic PlastixTM )(※ bombasticは「大げさな」の意)の製品は、再利用されたプラスチックから作られている。バリ島に拠点を置くこの小さな会社は、ゴミだった低密度ポリエチレン製レジ袋を熱で溶かして接着し、「布」を作りだす。そしてその布から、ハンドバックやトートバッグや財布をデザイン・縫製しているのだ。

「…リサイクルするには、プラスチックは産業の流れの中に戻され、分別、粉砕、再加工、再融解、再着色、再製造され、新しい製品に作り替える必要があります」とボンバスティックの共同経営者サム・ミラー氏とニルー・インドラワティ氏は自社のウェブサイトに書いている。「誤解のないように言っておきたいのですが、私たちはもちろんリサイクル活動を支持しています。このすべての工程を行っている人たちはすばらしいと思います。私たちは、そのうちのいくつかの「再」の工程を省いて行っているだけなのです。」

The-Girls

ニルー・インドラウァティ氏とボンバスティックのチームメイト2人が色つきの袋からつくるパターンを思案している。

ボンバスティックは、洗濯機、プレス機、アイロン、ミシン、そしてあとは人力をふんだんに使って作業を行う。その結果、化石燃料エネルギーの消費は、リサイクルするよりもはるかに少なくて済む。さらに、ミラー氏が「スーパーサイクル」と呼ぶこのシステムでは、ボンバスティックは近所から集めてきたレジ袋を使用することによって、原料輸送の工程を省き、より多くの地元の人々を雇用している。

とはいえ、彼らは会社がグリーンであることを特に強調するつもりはないそうだ。先日スカイプを使ったインタヴューで、ミラー氏はOur World 2.0にそう語った。もっとも、彼らは、持続可能な企業を目指することについてボンバスティックも「他のすべての企業と同じようにその責任を果たすべき」と考えている。それならいっそのこと、自分たちが絶えず気にかけている環境問題に少しでも貢献できることを、ビジネスの中心に据えるのはどうだろうか。

「バリには、いたるところにプラスチックが溢れています。水源地、川、海、そしてサンゴ礁にまで。これは10年前には解決されているべき問題だった、と私たちは思うのです。

記憶の中で風に吹かれる袋

一見突拍子もなく思えるこのアイディアをミラー氏が思いついた経緯に関しては、ボンバスティックの冗談たっぷりのブログ「プラスティック・プラネット」に、もっと詳しく紹介されている。もともとは、ボリビアのアルティプラーノ(高原地帯)で見た、強風に吹かれてプラスチック袋がフェンスにまとわりつく光景が、インスピレーションの元だったという。

「あれを使って何かできるはずだ」と彼は思った。

そのイメージが何年もの間、彼の脳裏に焼き付いていた。そして、MakeというDIYのウェブサイトで見たひとつのビデオにピンと来たそうだ。そのビデオでは、レジ袋を何枚もアイロンで接着して工作用の素材を作る方法が紹介されていた。バリのデンパサールにほど近い自宅で食器棚の中から数枚のプラスチック袋を見つけ出したミラー氏は、その晩それを使って実験を試みた。

現在53歳のミラー氏は、フロリダ州で育ち、のちにカリフォルニア州周辺に移り住んだ。最初はサーフィンが目的でバリ島を訪れた。これまで数々の事業を起こしていた彼は、数年前にサーファー専用のバックパックを開発し、インドネシアのこの牧歌的な地域で商売を始めた。

バリ女性の共同経営者であり会計士の資格を持つインドラウァティ氏は、レジ袋を再使用するという計画に最初は懐疑的だった。その当時2人は、日本の帯を素材にした高級バッグを作るという別のプロジェクトに共に取り組んでいた。

インドラウァティ氏の厳しい基準をパスする域にまで達しようと、ミラー氏はプラスチックの熱接着実験を粘り強く続けた。彼の「ハマりぶり」を面白がって見ているうちに、インドラウァティ氏もすっかりこのプロジェクトにのめり込むようになり、2008年7月、とうとう彼らは最初の販売を実現した。

レジ袋の山

それ以後、彼らの顧客リストはゆっくりと増え続けており、製品ラインも拡張されてきた。事業拡大の過程で遭遇した様々な出来事については、彼らのブログで詳しい記録を読むことができる。

ミラー氏によるとボンバスティックは1カ月に約1トンのプラスチック袋を使用するが、これはゴミ収集者のネットワークによって集められる。彼らは高い報酬に誘われてレジ袋を拾ってくる。レジ袋は市場価格が低いため、ゴミ収集者たちは普段は見向きもしないのだが、ボンバスティックは1kg当たりおよそ60セントという通常の5倍の報酬を支払う。

試行錯誤ののち、2人は厳しい品質管理基準を設定し(比較的きれいで、破れていないプラスチック袋が必要)、一流のチームを確保した今では、手順が確立している。

少人数のこのチームは、経営者である2人と数人の従業員から成る。収集された袋はボンバスティックの作業場で点検・仕分けされ、基準を満たすものが業務用のクリーニング屋に送られる。そして、衣類と全く同じように巨大洗濯機で洗濯される。

プラスチック袋がきれいになると、チームは熱接着のプロセスに取りかかる。こうして模様のついたプラスチック「布」と、バッグの内側などに使われるもっと堅いプラスチックが作られ、これが縫製と組立のために仕立屋に外注される。(ボンバスティックの作業場にもミシンが数台あり、試作品を作るのに使われるが、社内の仕立屋は1人しかいない)。

何種類かの接着剤、そしてファスナーなどその他の材料が使われ、高級なバッグが作られる。しかしボンバスティックは部品選びを慎重に行って、可能な限り中古の材料を仕入れるようにしている。

「現段階では、新品の素材もまだ少し使っていますが、80%以上を再利用またはリサイクルの素材でまかなうことを目指しており、常にその目標値を上回っています。」とミラー氏は言う。彼の見積もりによると、ボンバスティックの製品の素材に新品が使われる率は、平均して5~10%だそうだ。特に彼らの「ザ・スタンダード」の札入れに関しては、「ほんのちょっぴり」しか使われていない。

バリ人の美的センス

製品は、ミラー氏とインドラワティ氏の両者によってデザインされているが、ミラー氏によると、インドラワティ氏は極めてクリエイティブな女性であり、「みなさんが目にしているもののうち90%」は彼女の手によるそうだ。

ボンバスティックは、自社の布のデザインに誇りを持っている。ローテクな作業のおかげで製造工程が短期間に抑えられ、その結果「最新流行のデザインを作り上げる創作的自由」が生み出される、と彼らはウェブサイトで自信をもって語っている。

デザインされた模様は、手動とコンピューターの両方でパーツごとに切り抜かれる。各パーツは別々の色のレジ袋から切り取られ、それらが熱によって接着される。ミラー氏によると、彼らの製品の美しさにはバリ人たちの美的センスが影響しているという。

「美しい模様を愛でる心は、ここバリ島の人々の魂に根付くものです。もしもあなたが運良く、バリで儀礼が準備されている様子を目にすることがあったら、我々がこの土地に拠点を置いていることがどれだけラッキーかお分かりいただけると思います。この国の儀礼では、すべてのお供え物が、花々や、着色された稲や、シュロの葉を手で切り抜いて作られた絵柄で飾られます。我々のお針子たちは皆、そのような素晴らしい美的センスを備えた子たちなのです。」

これまで以上にボンバスティック(大げさ)に

ミラー氏によると、ボンバスティックは彼らの作業工程の全貌を現段階ではまだ秘密にしておきたいそうだが、いつか「オープンソース」にしたいと言う。

「お金は大事です。けれども他にも大事なものはたくさんあります」と彼は言う。

現段階でボンバスティックが「レシピ」を秘密にするのは、金もうけ主義で質を重視しない連中がそれを利用して「ゴミをさらなるゴミに変える」可能性を危惧するからだ。同時にボンバスティックは営利目的の若手企業であり、競争の激しいファッション市場に入り込もうと必死に努力している最中なのである。

「私たちは真剣です。本気でプラスチック袋を一掃したいのです」とミラー氏は我々に語った。「しかし誰だってお金も必要ですからね。」

将来の可能性としては、彼らは他にもこの布を使った重要な応用方法のアイディアを複数持っている。例えば地下水面の汚染を防ぐための埋立地用ライナーへの応用である。これまでは、多くの貧困国にとって、ライナーは高額すぎて手が出ないものだった。

「廃棄物から作った素材で、この問題を解決することができるでしょう」と彼は言う。

DIYの詳細

廃棄物の山を掘り起こすボンバスティックに触発されて、あなたもDIYでレジ袋を変身させてみたくなっただろうか。もしそうならば、是非彼らのウェブサイトを覗いてみてほしい。そこにはミラー氏による詳しい説明やヒントが載っている。またボンバスティックの製品のようにおしゃれな仕上がりは期待できないが、下記のサイトも家で試してみる際に参考になるはずだ。

・ Etsy videoはレジ袋を使って、より分厚いプラスチックを作る方法を紹介しているサイト。
・ レジ袋を使ったクラフトをいくつか紹介しているサイト(糸を作り、かぎ棒編みをする方法など)。
・ レジ袋を再使用して、既製のプラスチック包装用紙の代用品を作るアイディアと方法を紹介しているサイト。

翻訳:金関いな

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著者

キャロル・スミスは環境保護に強い関心を寄せるジャーナリスト。グローバル規模の問題に公平かつ持続可能なソリューションを探るうえでより多くの人たちに参加してもらうには、入手しやすい方法で前向きに情報を示すことがカギになると考えている。カナダ、モントリオール出身のキャロルは東京在住中の2008年に国連大学メディアセンターの一員となり、現在はカナダのバンクーバーから引き続き同センターの業務に協力している。