都会のギャル、田んぼへ!

東京から約700Km、穀倉地帯の秋田県大潟村。田んぼの中で泥まみれになって農作業に勤しむ20代のギャルたちがいる。金髪、カラフルな洋服、ハイヒールの長靴に長いネイル。彼女たちの姿が目に入らないわけがない。「え?」と思って、ついつい振り返って二度見してしまう。田舎の田んぼと都会のギャル、そんな光景はふだん想像しない。

彼女たちはいったい何者なのだろう。

農業ギャル、略してノギャル。藤田志穂さん(24)はモデルや歌手に加えて、ノギャルの生み親として知られる。19歳にしてギャル・マーケティング専門の会社を立ち上げ、その傍らエコやエイズ等に関わる啓蒙活動に参加するようになる。農業を持つようになったのも、そうした活動に参加してからであった。

「農業というものにイメージがわかない。昔の私も含めて、若者たちにとって農業は遠い世界なんです。私はそうした見方を変えたいと思っています」彼女はこう話す。

Tokyo-Gals2

昨年はまず手始めとして、秋田県大潟村の農地を24ha借り、ハーブを使った減農薬米(通称シブヤ米)を栽培、インターネットで販売した。10月にはノギャル仲間たちと一緒に渋谷の街にくり出し、「ギャルが育てた」米ペットボトル1,000本を無料で配り歩いた。お米を食べない炭水化物抜きダイエットを好む若者たちに、ご飯の美味しさをアピールした。

この他にもギャルママとその子供たちを対象にした1日農業体験ツアーを企画し、「ギャル農業」と題した本を出版、更には農作業にも普段着としても着られるオーバーオールをプロデュースし、近日発売予定である。

楽しい、クール、クリエイティブ

農業は特に70〜80年代に生まれの若者の間で人気を取り戻している。三浦展氏(マーケティング・アナリスト)によると、都市郊外に移り住んだ第一次ベビーブーム世代の子供たち(ジェネレーションY)は、都会と田舎の間の環境で育ち、土いじりに対して抵抗がないという。そのため農業をダサいというより、むしろクリエーティブな余暇ととらえている傾向があるのだそうだ。

とは言うものの、農業の現実は厳しい。2008年発表の統計をみてみると、270万の農業従事者のうち46.8%は70歳以上の高齢者が占める。また農業収入のうちの45%は補助金に頼っているため、年金収入がない農家は副業をせざるをえない状況になっている。過去20年で耕作放棄地は3倍にもふくれあがっている状態だ。

農林省や全国の関連団体は就農キャンペーンを通して、若い担い手の開拓・養成に奔走している。特設ホームページを設け、新規就農のための情報提供だけでなく、説明会やセミナーへの参加を呼びかけている。仕事で忙しい人のためには、Eラーニング講座(半年)も用意されている。その成果もあってか、昨年度の政府支援の農業研修生は1000名の枠に1850名もの応募がみられた。

その他にも昨今の農業人気の背景には、不況による雇用不安の中で農業に新たな希望を見いだそうとする若者の増加もあると考えられる。

農業にキョウミあり、だけで大丈夫?

深刻な担い手不足をかかえる日本の農業。そこに若者たちの関心が高まりつつある。それなら、いい兆しではないだろうか。

しかし農業といってもそんな甘い話ではない。ノギャル藤田も含めてであるが、新しいものばかり追う現代の若者たちがどれだけ真剣に日本の農業を考えているかという批判もあるのも事実だ。確かに農業を流行ファッションの様に履き違えてしまっては何とも虚しい話である。

田んぼに週一度は通っているという藤田は、蒸し暑い夏や寒さの凍みる冬にも屋外で自然を相手に働くことのやりがいや辛さを経験している。しかし一年中農業に専従している人に比べたら、単なる流行りの農業体験をしているに過ぎないと思われても仕方ないかもしれない。

藤田自身、今のところ拠点を田舎に移し、ギャル仲間らと農業に専念するという予定はない。ただ注目すべき点は、彼女は今の自分の役割として”若い子たちに食や農業に対して興味をもってもらうこと”を挙げていることだ。そのためにも若者の街からメッセージを発信するのがベストだという。

新たな活路を見いだす

藤田が米作りに選んだ秋田県大潟村は日本の穀倉地帯。国のアグリビジネスの先端をゆく村でもある。

大潟村は戦後の農業政策の歴史とともに歩んできた。60年代に穀倉地帯を増やそうという国の大規模干拓事業で村がつくられたものの、70年代には減反政策によって生産調整を受けることになった。村中で減反に参加するか否かで議論が割れる中、自分たちで生産した米は自分たちの手で売ろうと、時に「ヤミ米」のレッテルを貼られながらも独自の流通ルートを開拓する農家も現れた。

最近では米の価格下落と消費縮小をうけ、米粉用の米の生産を始めた農家もある。藤田自身も米粉を使ったパンやパスタ、更には化粧品の開発にも興味を示している。もともと藤田が大潟村を選んだのは、渋谷のシンボルであるハチ公の生まれの地であったから。しかし単に偶然かもしれないが、大潟村の農家とノギャルたち、どちらもユニークな発想という点で共通している。

目指すところは…

日本の農業再生には大掛かりな改革が必要になるだろうことは、多くから指摘されている。米の自給率が他の穀物に比べてダントツに高いのは、アンバランスな農業政策によるものであるし、過保護なまでの補助金を受けてきた農家に、国際的競争の荒波に立ち向かえるだけの力はない。

「農業を始めるにあたって周りからの批判は十分に理解している」と藤田は自身のブログに綴っている。しかし、「若者が立ち上がらない限り日本の農業に明るい未来はない」とも書いている。

彼女の言葉はいたってシンプルであるが、ズバッと的をつく。

農業再生だの国の難しい議論の行く末が不透明であろうが何であろうが、ノギャルたちの豊かな想像力はその勢いはとどまるところを知らない。米・野菜作りに加えて、今年の新しい試みとして藤田は創作園芸をはじめた。園芸と農業のハーモニーを、とのことである。

さてノギャルたち、どこまで狙っているのか?最終的な目標は?

「今ところ農業をする女の子って限られていますし、マーケットもせまい。でもいつかは海外にもノギャル・マーケットを展開できたらと思います」

藤田の豊富なアイデアと挑戦はどこまでも続く。「ギャル農業」が世界に名を馳せるまで。

Creative Commons License
都会のギャル、田んぼへ! by 飯泉 文子 is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

著者

国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)プロジェクトアシスタント。持続可能な開発とデモクラシーに学問的な関心を持ちながらも、様々な場所にアンテナを張ることを欠かさない。一見関係なさそうなモノの中から一つに繋がるものを見つける瞬間が何より大好きだからである。国際関係学修士(英国ウォーリック大学大学院)。