火を武器に

オーストラリアの先住民である私たちビニンジ(先住)は何千年もの間、北オーストラリアの居住環境や食料資源の維持のために火を使ってきた。私たちの伝統的知識によると、火には土地をよみがえらせる力を秘めているのだ。そのため私たちは必ずしも火が破壊的で悪いものだと思っていない。時には良いものでもあるのだ。

残念ながら今日の北オーストラリア各地では、火はあまり上手に管理されていない。しかし、私が住んでいるカブルワナーモなどのアウトステーションでは今でも上手く火と向きあっている。将来のためにも私たちは子供たちに昔のやり方を教えるべきなのだ。火とは管理しなくてはならないものであり、そのためにはそれぞれのカントリー(アボリジニ居住区)に住む必要もあるのだ。

私は、ナンガークのグルグニ族のビニンジとして、私たち民族の伝統的な火の使い方を熟知している。また、その知識を確実に若い世代に残す責任がある。そして更に、この国が健全であり続けるためにも火の知識が利用され、実際に活用されていくことがより大切だ。

ビニンジから見た気候変動

ビニンジは劇的な気候変動を経験してきている。それはバランダ(白人)が私たちの土地に移住する遥か前から起こっていた。私たちの先祖は、土がまだ軟らかく、今とは違う動物が多くおり、地球が若かったときからここにいたと言われている。

長老からは大昔に起きたと言われるおとぎ話をよく聞いた。動物や鳥、は鳥類などの生き物がどのように今の姿に変わっていったのかという話だった。

私たちの先祖は、変化を見ては生存に必要な方法を考え、適応してきた。彼らは変化に伴って食料や良い住みかを探し、新しい生活を見つけ出す狩猟採取民族だった。彼らは土地の管理者として一帯を歩き回った。そして伝統的慣習に基づいてこの土地の維持をしてきたのだ。

私たちの民族は多大な変化の中を生き抜いてきた。そしてその経験から得た知識は代々引き継がれてきているのだ。

大干ばつ

長老がよくする話の一つは大干ばつの話。バランダの聖書には大洪水の話が載っているが、私たちには大干ばつの物語がある。

昔むかし泉や川がすべて乾いてしまい、私たち民族のナイユンキ(祖先)は水を求めて必死に歩き回っていた。そこで水の溜まったこぶを持ったペーパーバークの木を見つけた。

石の斧でこぶを叩くと水が出てきて彼らは救われた。私たちはそのこぶから出てくる水をディジンドクと呼ぶ。ナイユンキは泉や小川に水が戻ってくるまでの長い間をその水を飲んで生き延びたのだ。

これが実際いつ起こったのかははっきり分かっていない。ただ、バランダの科学者によると35,000年から18,000年前の間にこの辺りではたびたび長い乾季に見舞われていたらしい。

海面の上昇

もう一つの話は北オーストラリアがパプアニューギニアにつながっていたときのものだ。そこは一つの広大な土地であり、ナイユキニは狩りに良いところや魚が豊富な湖を探し歩き、全土を管理していた。

マニングリーダの話だってある。オーストラリアとパプアニューギニアを隔てているアラフラ海沖に位置するマニングリーダ居住区。近くにはエントランス島がある一番近い陸地、ジュッダ岬から約3キロ沖合いにある島だ。

私たちの民族はこの島が本土とつながっていたときを覚えている。真ん中には大きなビラボンがあった。そこは魚や鴨、ヒシの実やスイレンそして他にも獲物がたくさんいる大きな湿地帯だった。昔の世代にとっては非常に良く知られた湿地帯で人々は今でもこの失われたビラボンの話をする。海面が上昇したとき、この湿地帯はすべて海水に呑まれてしまったのだ。

ゴルバーン島の人々はこの時代の話をたくさん知っている。昔は人が住んでいたが今では無くなってしまった島々の話だ。

人類が作った気候変動

私たちは今に至るまでの長い長い間、気候変動を経験してきている。しかし以前までの気候変動は自然に起こっているものだった。今のような人間によって引き起こされているものではなかった。

ナイユンキは自然界の仕組みを良く観ていた。年間を通してどのような変化が起こっているのかを観て一年を6つの季節にわけた。バンゲレン、イェッケ、ウルケング、グルング、ヌメレング、そしてグジェウェク。

暦は狩猟や採集の時期を考慮して6つに設定されている。人々は自然界の移り変わりを見ながら季節の移り変わりを確認していた。風や雲や雨の変化を観察し、草木の成長や鳥や動物の動きを読むのだ。

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常に火を操る者でなければならない。火に操られてはいけない。

この暦は何千年もかけて造り上げられてきた。しかし、今は長老たちや私のような中年の人たちですら季節の様子がおかしいのが見える。季節の移り変わりが今までのようには進んでいないのだ。

長老たちは混乱している。彼らは何が起こっているのか分からないと言う。この暦はいつ草を火付けするべきなのか、いつ食物が採れるのかを教えてくれる重要なシグナルなのだ。大昔、モンスーンが一万年以上もの間止まっていたことがあったと科学者は言う。いつ草を植えて、干して、燃やすべきなのかを教えてくれるモンスーンの周期がなくなってしまったらこの世界はどうなってしまうのだろうか。南の方のように長年の干ばつが続いたら熱帯のオーストラリアはどうなってしまうのだろうか。想像するだけで怖いものだ。

人々は歩き回りながら変化の様子を教えてくれる目印を探す。あるべき印がなければ、人々はどこかで何か良くないことが起きていると分かる。

ナイユキニは観察を通して土地を知り尽くしていた。今までは、変化が起きると、予想できない出来事にも備えられるよう精霊に助けを求めた。

ナイユキニの時代の変化は自然に起こるものだったので彼らは柔軟に対応することができた。これらは最初の世代から見てきた自然な気候変動だった。しかし現代で起こっている変化は自然なものではない。人間の行動によって引き起こされているのだ。責任は自然界ではなく人類にある。

私たちの挑戦、私たちの貢献

現代の世代は、メディアを通じて地球温暖化のニュースを聞いている。世界中で変化が起こっていて、人々は必死に走り回って解決策を探している。

でも私たちビニンジにとって気候の変動は新しい話題ではない。私たちには遥か昔の時代に起こった変化の話が残っている。だからこそ今起こっている変動の影響が心配だ。例えば、雨季が時に間違った時期に来たりするのだ。

近年では非常に強いサイクロンも経験している。サイクロン・モニカは今までにない猛烈な嵐で予想していなかった洪水が起こったりした。時に長老たちはこのような災害は聖なる大地を荒さられて怒っている精霊たちの仕業だと言う。ダイナマイトや鉱業、大きな機械や道路、このようなもの全てを私たち民族は心配している。

私が生まれたときに比べても、この北オーストラリアも大きく変化している。
中でも一番大きい変化は以下の点だ。

  1. 人口が3倍に増えたこと
  2. 私たちの民族の言語や文化が失われてきたこと
  3. 外来種の雑草や動物がコミュニティに侵入してきていること
  4. 町やセツルメントの設立
  5. この国で行われている鉱山業
  6. 気象の変化、などなど

外来種の動物や雑草は私たちの自然環境を変えている。バッファローのような大型の動物は地形を破壊し、雑草はコミュニティや故地に既に入ってきてしまっている。

伝統的な火の管理方法も大きく変わっている。伝統的習慣だった自らの足で歩いて移動することなどはもう行われていない。外の現代の力に押されて人々はどんどん変わってきている。

温室効果ガスなどが気候に及ぼしている影響について、バランダもビニンジも皆でなんとかする方法を探さねばならない。

カブルワナーミョでは気候変動の対策として、土地の維持のために何千年も行ってきた伝統的な野焼きを再開している。

私たちの伝統的な方法を取り戻すことによって将来のために土地を強くする。こうやって自分達なりに気候変動の問題に取り組んでいるのだ。

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本ビデオはキム・マッケンジー、ディーン・イバーブクそしてピーター・クックの提携によるもの。

本ビデオと記事は、「先住民の気候変動アセスメント」を補完するものであり、国連大学伝統的知識イニシアチブの一環である。国連大学はこのイニシアチブを支えるワーデッケン・ランド・マネジメント有限会社とオーストラリア国立大学の人文学研究学校の支援に感謝する。

翻訳:越智さき

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火を武器に by ディーン・ムヌグルマー・ イバーブク is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

著者

ディーン・ムヌグルマー・イバーブク(Dean Munuggullumurr Yibarbuk)は1955年、中央アーネムランドにあるトムキンソン川近くの生まれ。2歳の時、オーストラリア政府は近くのマニングリーダにセツルメントを設立。(今では周辺の先住コミュニティの中心的存在)

ディーンの母国語はグルゴーニ語。彼は開発と保護問題に取り組んでいる。ジョルク・レンジャー設立の立役者でありバウィナンガ・アボリジナル組合とデメッド・アボリジナル組合それぞれの会長を務めた経歴を持つ。

彼は現在非営利会社のワーデッケン・ランド・マネジメント有限会社の長官として彼はオーストラリアや海外を広く渡り火災管理や保護運動について話している。