新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行する前から、開発途上国の多くの地域ではすでに不平等が拡大していた。しかし、COVID-19のパンデミック(世界的流行)によって、既存の経済的・社会的不平等が大幅に拡大しようとしている。ここでは、全世界で不平等の拡大が見られる5つの重要な側面を取り上げる。
パンデミックによって、労働者間の不平等が広がった。ウイルスの蔓延を抑えるため、多くの政府が採用したロックダウン(都市封鎖)政策は、開発途上国の低収入労働者にとって特に大きな打撃となった。日給と臨時雇用に頼って生きるこうした人々の収入は、職場に足を運べなくなったことで大幅に減少したが、それに対する保障は一切ないため、将来の暮らしへの不安感が高まっている。
インド・デリーの街中で野菜を売っている露店商人を例に取ってみよう。インドでCOVID-19が広がり、政府が外出規制を出す中、この露天商は突如として生計手段を失った。対照的に、在宅勤務が可能な専門職にとっては、所得に対する影響は比較的限られている。
開発途上国では労働者の圧倒的多数がインフォーマルな仕事に従事しているため、一時帰休制度などの豊かな国の労働者が政府から得られるような支援は望めない。パンデミックへの対応として、社会的保護措置を拡大している開発途上国も多いが、それだけでは明らかに不十分で、貧困層にはこうした対策もほとんど届いていない。
COVID-19危機は、技術的変化を加速させ、一部の企業はデジタルを使って業務を継続できるようになり、新たに多くの人々が自宅で勤務できるようになった。市民がインターネットにアクセスでき、かつ教育水準も高い国では、オンライン会議ツールであるZoomを含むオンライン技術への移行によって、大きな恩恵を得ることになるだろう。
そのため、シンガポールや台湾などの人々にとっては、オンライン技術へのシフトは望むべき変化だ。しかし、多くのサハラ以南アフリカ諸国をはじめ、デジタル競争で後れを取っている国は、さらに取り残されることになる。
ロックダウン政策では、男女ともにステイホームを強いられるが、女性の方が子育てや家事の責任を担うことが多いため、家庭内での不平等な家事分担が生じている。また、女性は世界的に小売業や接客業の職についている割合が多いため在宅勤務の可能性が低く、こうした業種ではロックダウンによる雇用喪失の影響も特に大きい。
学校や保育園が閉鎖されたために、女性が仕事を諦めざるを得ないおそれもある。経済的に厳しい時、真っ先に退学(または欠席)させられ、働く母親の代わりを担わされるのも女の子である。COVID-19の流行で多くの学校が閉鎖となったが、学校が再開されても、復帰できないリスクは女の子の方が高い。女の子の教育に対する影響はやがて、雇用と将来の所得の長期的悪化となって表れてくるだろう。
COVID-19の拡大は、国際協力が弱体化している時期に生じた。その典型的な例として、米中の貿易紛争や、世界貿易機関(WTO)と世界保健機関(WHO)をはじめとする重要な国際機関を間接的に攻撃するドナルド・トランプ米大統領の数々の発言が挙げられる。
米国と英国が大きな貿易圏から離脱するなど、経済ナショナリズムへと向かうさらに大きなうねりは、COVID-19のパンデミックによって強まるだろう。先進国で保護主義がさらに広がれば、その豊かな市場から開発途上国は締め出され、世界貿易から利益を受けられる機会を制限されてしまう。
グローバリゼーションはこの数十年間、中国をはじめとする東アジアの所得を増大させる大きな要因となってきた。しかし、保護主義はポスト・コロナの世界で、豊かな国と貧しい国の間の大きな格差を縮めるグローバリゼーションの能力を抑えてしまうだろう。
COVID-19のワクチンが開発された暁には、ワクチンにアクセスできるかどうかで復興の規模とスピードが決定づけられるだろう。豊かな国と貧しい国の間では、このアクセスについても格差が生じ、さらに不平等が広がる可能性が高い。世界保健機関(WHO)は、ワクチン開発の研究に数十億ドルを注ぎ込んでいる豊かな国の市民にワクチンの流通が偏るというワクチン・ナショナリズムに対し、警鐘を鳴らしている。
すでに、COVID-19対応の最前線で働く医療従事者に必要な個人用防護具の調達に関し、大きな争いが見られている。必須の医療物資を先進国が自国民のために備蓄し、低所得国向けの援助やその他の譲許的(優遇条件による)金融支援を拡大するのではなく削減することになれば、低所得国にとっては人的にも財政的にも大きな負担となるだろう。
パンデミックによる不平等への影響が何年にもわたって続くかどうかは、開発途上国の政府が共同での行動を取れるかどうかにかかっている。それは短期的に、低所得労働者向けの大規模な所得支援プログラムを提供することであり、 長期的には、さらにデジタル化が進んだ世界に対応できるよう自国の労働者に教育を行い、そのためのインフラを整備することだ。また、国際社会が結束して、大いに必要とされている債務免除を行い、低所得国に資金を提供できるかどうかにもかかっている。
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この記事は、クリエイティブコモンズのライセンスの下、The Conversationから改めて発表されたものです。元の記事はこちら。