世界の保健ガバナンスの弱点を補う

「世界の保健ガバナンス」への言及がますます多くなっている。この傾向に多くの大学が追随している。一部の大学では、グローバリゼーションと保健のつながりや、その2つの関係性がますます重要になっている状況を反映させた修士課程や、その他の特別訓練コースを提供しようとしている。

世界各国の多くのリーダーたちも、共通の保健リスクに特別な注意を払う必要性を認識している。2014年8月、ワシントンDCで開催された第1回アフリカ・アメリカ首脳会議で、アメリカのバラク・オバマ大統領とアフリカ諸国のリーダーらは、保健への共通の脅威による問題を認めた。彼らは皆、アフリカ版の疾病対策センターの創設を期待している。国家安全保障に重点を置いた北大西洋条約機構(NATO)のリーダーたちでさえ、2014年9月のウェールズでの会合で、世界各地での軍事活動計画を無効にしかねない要素として保健リスクをあげた。

国連安全保障理事会も過去2週間にわたって会合を開き、現在のエボラ出血熱の流行を国際平和と安全保障への脅威として扱っている。重要なのは、政府のまさにトップレベルが保健に注目しているという点である。

世界保健機関(WHO)と、現在エボラ出血熱の危機下にあるアフリカ諸国の間で協力体制が強化されている。このことからも、保健への脅威を国境の内側だけで隔離したり対処したりするのは不可能であることは明らかである。

こうした共通の保健問題に対処するうえで、国レベルと世界レベルでのガバナンスが重要であることには疑う余地がない。しかし保健対策において、国と世界の中間となる地域レベルではどうなのかという点については、いまだに危機的な空白が残る。

保健リスクに立ち向かうにあたり、国を超えた地域構造、地域的イニシアチブの役割は過小評価されるべきではない。しっかりとした地域的保健警戒体制を敷けば、各国にウイルスのリスクを警告し、各国がその対応を具体化し調整するにあたり支援することができる。紹介患者の受け入れ病院や研究所の連携や提携を含む、共通の地域的な保健分野のイニシアチブは、病気の地域的流行や世界的流行を予測し、回避するために必要な重要データの共有を広めると同時に、少ない資源を増やし最大限利用する手助けをすることができる。

何よりも、医薬品やワクチン、さらに診断・予防キットを共同で調整しながら調達すれば、個別に交渉する契約よりも有益になり得る。なぜなら大口の需要を増やすことで、価格面でのメリットがあるからだ。

こうした利点にもかかわらず、地域レベルでの保健対策はいまだに重要視されておらず、一貫して不十分である。欧州連合(EU)だけでなく、南米諸国連合(UNASUR)と南部アフリカ開発共同体(SADC)でも、保健分野における地域的組織のパフォーマンスは、ひいき目に見ても積極的とは言えない。

このような欠陥を十分に埋めることができなければ、保健分野に対する危機的な脅威への対策は悪化し、まとまりのないものになる。さまざまな国の政府とWHO自体が、必要な対策を講じるレベルとして十分だという点は疑わしい。政府とWHOだけで十分だとすれば、一連の保健ガバナンスにおいて地域レベルのガバナンスは不要で煩わしい官僚主義的な重荷だと見なす人もいるかもしれない。WHOとその加盟諸国の間のコミュニケーションが直線的かつ直接的であることを考慮すると、確かにそうなのかもしれない。しかし、WHOでさえ、世界の保健問題には補足的な地域対策が必要であると認めている。だからこそWHOは、各地域のニーズに合ったサービスを提供する特定の地域事務局を配置しているのだ。

さまざまな国の政府と関係者とWHOが地域組織との提携を深めれば、世界の保健ガバナンスは強化される。それはどのように実現できるだろうか? 健康促進や保健ガバナンスの分野で権限を持つWHOの地域事務局と各地域の関連組織の間で、協力体制を強化し、情報交換を促進する必要がある。

それに関連し、地域の関連組織のリーダーとWHOのリーダーは、結果重視の定期的な活動を行う必要がある。例えば、安全保障などを含む権限を有する地域的協定や諸機関のリーダーと国連事務総長の間での定期的会合という形式、あるいはそうした会合に沿った活動かもしれない。これらの組織がEUのように、世界保健総会でオブザーバーになれるように参加枠を拡大することは、有効であり、極めて有益である。

さらに、主に後発開発途上諸国で構成された地域的組織が世界貿易機関(WTO)の知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS)に組み込まれた柔軟性を最大限に活用することが重要である。WTOの決定や宣言、さらにTRIPSの改正によって、そうすることが可能になったのだが、各国は活用し切れていない。

また、こうした柔軟性を利用するための厳格な諸条件は現在、長々しい形式的な手続きにあふれているため、条件を緩和する必要があるとも言える。WHOは特別作業部会を通じて、手頃な医薬品を入手するためにTRIPSの柔軟性をいかに最大化できるかを検討する作業を行っている。この作業の重要性と妥当性は、関連する地域組織との取り決めの中でWHOの地域事務局が行う活動を通じて、地域レベルで実感されるべきである。これらに関連することだが、手頃な医薬品やワクチンの入手という観点から共同調達や集団的ライセンスの利用を最大化するために、地域組織の活動を知的所有権関連の地域組織とつなげられるようなルートを築くことが重要である。

さらに、地域的組織がより真摯(しんし)に受け止められるためには、そうした組織が何を交渉の場に持ち出せるのか、明確に示す必要がある。生物医学分野の研究や開発に対する集団的行動を促進するために、何を行っているのか? EUにおけるかつてのフレームワーク・プログラムや現在の「ホライズン2020」計画に類似したイニシアチブの導入と実施を通じて、具体的に何をしているのか?

これこそが真の正念場である。保健関連の権限を持つ地域的組織は、共通の保健問題に携わる研究者や研究機関の地方的・地域的協力を支援する方法を探るために、(民間部門や財団との提携を通じてでさえ)限られた予算を拡大することができる。

最後に、保健に関する権限を持つ地域的組織には、世界的資源を地方や国の実態に正しく結びつけるためのダイナミックな評価方法と監視方法が必要である。ここで役立つのが、私たちが協力し、英国経済・社会研究会議が資金提供している重要なイニシアティブだ。このイニシアティブは貧困削減と地域統合(PRARI)の関係に注目している。各国や国際機関が開発のための最適な資金調達を確保する方法を議論しているなか、このイニシアティブはとくに2015年以降の状況を念頭に、主に社会で最も弱い人々のニーズに対応する貧困層支援型の保健政策に主眼を置く。PRARIイニシアティブは、地域的組織が一連の指標を策定するために地方と世界の両方の組織と提携できる方法を模索している。その指標は、地域の政策立案者や政策実施者が主要な保健に関する成果や傾向を監視するのに利用できる。

このプロジェクトに携わる各国の専門家たちは、オープン・ユニバーシティ(英国)、サウサンプトン大学、国連大学地域統合比較研究所(UNU-CRIS)、ラテンアメリカ社会科学大学院アルゼンチン学術支部(FLACSO Argentina)、南アフリカ国際問題研究所から引き抜かれた。使用されるアプローチは極めて参加型であり、地域的組織(主にSADCとUNASUR)から得た情報にとくに重きを置く。それらの地域的組織は、ボリビア、パラグアイ、スワジランド、ザンビアにおける地域的な貧困層支援型の保健政策の効果を計測するために開発された指標ツールキットを使用する。

地域の貢献を世界の保健組織の構造に統合させることは有意義である。しかし、この目標の実現には苦痛の種がないわけではない。リスクとしては、拡大する官僚制度による予測不可能な費用の膨張や、すでに複雑に絡み合っている組織の反応をさらに複雑にしてしまう危険がある。しかし、多くのウイルスや細菌が国境警備を公然と無視するという独特な保健分野において、国や地域や世界のガバナンスレベルを横断するコミュニケーションと協調が、世界の保健ガバナンスを強化するのだ。

翻訳:髙﨑文子

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世界の保健ガバナンスの弱点を補うe by スティーヴン・キンガ, アナ・B・アマヤ is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 4.0 International License.

著者

スティーヴン・キンガ氏は、貧困削減と地域的統合の関係に注目するPRARIプロジェクトの研究者で、ブリュージュの国連大学地域統合比較研究所(UNU-CRIS)で活動している。

アナ・B・アマヤ氏は、貧困削減と地域的統合の関係に注目するPRARIプロジェクトの研究者で、ブリュージュの国連大学地域統合比較研究所(UNU-CRIS)で活動している。