お金を使うにしても貯蓄するにしても 銀行取引は私たちの人生において必至の楽しみの一つである。
少額の貯金から大型の長期投資に至るまで、銀行は多層で複雑な金融取引や有形資産の網の目を通じて、我々の資産を運用している。しかし一体、私たちの資金はどこに行っているのだろう?我々の投資が経済的側面、環境的側面、社会的側面という3つの側面から評価する「トリプルボトムライン」に基づいて運用されているのか、どのようにして確かめればよいのだろう?
その答えは、倫理的な銀行取引にある。
倫理的取引とは、銀行取引運用の影響を考慮し、魅力的な利回りをもたらすことだけに執着しない取引のことだ。
イギリスの持続可能な投資と金融取引に関する協会(UKSIF)によると、過去連続14カ月間にわたり、イギリスの倫理的投資ファンドには資金が流入し続けている。倫理的な投資家は、一般に長期運用を心がけ、短期的な市場変動の先を見越し、持続可能な富の創出に目を向けている。
我々の資産はどこに行ったのか?
従来の銀行は鉱業、武器製造業、林業のような、世界中で最も収益の高い巨大産業に投資してきた。これらの産業の倫理基準は厳しく精査されているが、それにはそれ相当の理由がある。人よりも利益を、労働者の権利よりも株主の権利を、そして環境よりも経済を優先することで悪評が高い。
ここ最近ブログ上で議論を集めているのが、エネルギー会社を支援するアメリカの銀行だ。これらの銀行は、山頂を切り崩した鉱山の石炭を燃焼するための新しい石炭発電所を建設している。
従って、最も名の知れた金融機関を破たんに追いやった世界的金融危機を受けて、世界各地で倫理的な銀行取引が高まりを見せているのも偶然ではない。
今後は、機関投資家や短期運用の投資家も全員が、現在の金融システムの経済的な持続性だけでなく、倫理的側面についての回答も求めていくべきである。
資金管理
倫理的な銀行と従来型の銀行には、どんな違いがあるのだろうか?イギリスのコーポラティブ銀行は、銀行と個人投資家の役割について、次のように提示している。
現在ヨーロッパ5カ国で展開しているトリオドス銀行は、1980年の設立以来、この分野のパイオニア的存在だ。この銀行の融資基準によると、毛皮、賭博、有害物質、ポルノ、たばこ、武器を取り扱う産業の企業とは取り引きをしていない。
また、再生可能エネルギー、有機農業、教育、児童保護、フェアトレード、地域社会のプロジェクトなど、社会面、文化面、環境面で社会に有益であると銀行が認めた産業を特に対象としている。
倫理的な銀行取引は、倫理的投資としても知られ、常に貯蓄や融資の枠を超えた新しい業務を見据え、グリーン(環境配慮型)住宅ローンの融資をしたり、銀行内に環境的に持続可能な設備を導入したりしている。
紀元前350年前から行われている持続可能な銀行取引
倫理的な銀行取引は、近代的なコンセプトではない。その起源は古代ギリシアまで遡り、哲学者アリストテレスは「取引は道徳上、公平であるべきで、法外な金利の高利貸しはしないように」と説いている。
倫理的取引は西洋的な考えに限ったことではない。イスラム銀行(イスラム金融)にも、基本的な道徳心と常識に基づく、同様の金融原則がある。今日、イギリスやフランスをはじめとする世界中のイスラム圏、非イスラム圏のコミュニティで普及しつつある。
専門のコミュニティ銀行は1990年代以降、次々に設立され、環境的に持続可能なライフスタイルの認識が高まるに伴って、ますます多くの関心を集めている。
日本では、環境保護に関心のあるミュージシャンが考案し、資金を拠出している革新的な非営利組織(NPO)ap bankが、環境プロジェクトに限った融資をしている。さらに、この組織は、「大企業が手掛ける環境プロジェクトではなく、市民が自分たちの地域社会で行う小規模プロジェクトに焦点を当てている」
グリーンを取り戻す
自分の資産がどのように投資されているのか知りたい人たちが増える一方で、倫理的取引へ切り替えようとしている人たちには、ある共通の懸念がある。
その一つに、倫理的な銀行は利益のみに焦点を当てていないので、特に本格的な投資家にとっては、従来の銀行より金銭的見返りが少ないのではないか、という考えがある。UKSIFのチーフエグゼクティブのペニー・シェパードは、この考えを否定し、この分野の新規参入者は「概して長期投資家で、短期的な市場変動の先を見越し、持続可能な富の創出から利益を得たいとしている」と論じている。
事実、倫理的な銀行の昨今の成長ぶりと収益記録は、銀行が環境や社会に対してだけでなく、投資家にも十分な利益を提供していることを裏付けているようだ。
もう一つの課題は、自分の資産をかしこく運用するために、十分に下調べをすることである。オンライン上には、指針となる豊富なヒントが掲載されている。
あなたの資産 あなたの責任
経済情勢が厳しい中、倫理的取引が増大している。それは、最小限の行動変化で、コミュニティや個人が、銀行取引の在り方を環境と社会に配慮したものに変えられることの証である。
コーポラティブ銀行のような倫理的な銀行は、自らの政策が顧客の期待を反映し、顧客が変化を後押しする活力となる傾向がある。
従来の銀行に預金している人たちも同様に、銀行側の投資優先順位についての厳しい質問をしてくれることが理想的だ。しかし今のところ、銀行に行動の責任を取らせようとしているのは主に環境活動家である。
コーポラティブ銀行は、「あなたの資産、私たちの責任」という企業キャッチフレーズを用いている。しかし、我々の資産がどこに行き、それに対し我々ができることを知り得た今、「あなたの資産、あなたの責任」の方が、より的を得ているだろう。
倫理的な銀行という選択肢がある中、もはや、みすみす良貨を悪用することはない。