新型コロナウイルス感染症に関するG20の役割と課題

3月26日に開かれた主要20カ国・地域(G20)首脳によるバーチャル・サミットは、今後の国際協力を決定づける瞬間となった。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が地球規模のパンデミック(大流行)となり、グローバル経済で蔓延し、まさに国際的な危機を引き起こしているからだ。どの国も単独でこの危機を脱することはできないだろう。

この点はすでに、中国の経験からも明らかだ。本土での感染の食い止めという点で大きな前進が見られているようだが、それでも、海外から入国する旅行者による感染のリスクを抱えている。中国の工場が徐々に復活を遂げても、欧米諸国の需要が深刻かつ長期的な打撃を受けているため、中国がコロナウイルス感染拡大以前の成長を取り戻すことは困難になるだろう。

当然のことながら、各国政府はこれまで、自国の差し迫った危機への対応で手一杯だった。しかしここへ来て、新たに2つの現実が見えてきた。

まず、社会的距離戦略(social distancing)やロックダウン(都市封鎖)、商業活動に対する規制をせざるを得ない状況は、すぐに解消されそうにないということ。ウイルスが存在する間に規制を解除すれば、新たな感染のリスクが生じ、これは香港の例によってはっきりと示されている。

次に、これらの状況を解消するためには、グローバルな協調的行動が必要であるということ。あらゆる場所でウイルスを効果的に抑え込まなければ、完全にウイルスを抑え込むことはできない。

ところが、各国による取り組みを調整し、まとめる危機対応メカニズムはまだ出てきていない。それどころか、渡航規制が一方的に導入されたり、各国が人工呼吸器や有望な治療薬などの不足している資源を奪い合う中で危険な競争力学が生まれたりしているのが現状だ。

こうしたタイミングでG20サミットが開催された。2008年のグローバル金融危機への対処を目的に設立され、合計で全世界のGDPの約90%を占める国々が加わるG20の場は、協調的な危機対応の枠組みを迅速に確立できる独自の立場にある。

以下に、リーダーたちが優先的に取り組むべき4つの課題を挙げる。

COVID-19グローバル危機調整メカニズム

今回の危機は、その規模においてもスピードにおいても過去に例を見ない。ウイルスと経済的影響の伝播が急激に進んでいることで、少し先の未来を見るのも難しい。リーダーたちは繰り返し、先頭に立って国民を率いることを強いられ、これは特に民主的な政治家にとって、孤独で居心地の悪い状況となっている。

しかし、マスクや人工呼吸器、病床、さらには医療従事者など、必要とされる資源を各国政府が奪い合うゼロサム型の競争は、すべての人のリスクを増大させる。つまり、必要な場所に資源がなく、必要のない場所にあるかもしれないということだ。各国は、危機を脱するために協力が必要だと気づくにつれ、外国からの支援を求めるようになるだろう。G20は、科学に基づく戦略的調整メカニズムの基盤を整備することで、真に集団的なニーズ評価に基づいた資源の配分を行うことができる。

このメカニズムによって、世界保健機関(WHO)が定める国際保健規則により設置された緊急委員会の技術的な役割を、政治的に補完する必要がある。各国はマスクや人工呼吸器、医薬品などの重要資源の生産と配分を調整する努力をすることになるだろう。今後開発途上国でウイルスの広がりが続いた場合、そうした国々にはこれまで最大の被害が出ている国が持っているような資源がないため、医療従事者の配置も調整する必要が出てくるだろう。

不可欠な人員と物資を動かすための措置

世界の渡航システムが事実上停止する中、個別の動きが見られる。デンマークの大手海運会社Maerskは、船舶や積み荷スペースを医薬品の輸送向けに提供している。しかし、対応に不可欠な人員と物資の移動に新たな制限がかかったことで、大きな障害が生じている。

G20は、不可欠な貨物と医療物資の通過をスムーズにするため、欧州連合が採用した「グリーン・レーンズ(green lanes)」システムの国際版に相当するものの設置を検討すべきである。同時に、リーダーは医療上のニーズに基づき、医療機器の生産と流通を加速する国際協調メカニズムをつくることで、危機の発生当初から医療機器輸出を規制してきた24を超える国々がその禁輸措置を終了させるきっかけをつくるべきだ。

同時に、殺菌剤や衛生用品に関税をかけている156カ国に対して、直ちにその撤廃を促すべきである。これによる歳入の損失はわずか20億ドルにすぎず、その穴埋めは、例えば世界銀行からの助成金で賄うことができるだろう。

開発途上国が今回の危機に対処できる可能性を最大限高められるようにすることは、誰にとっても利益となる。それができなければ、コロナウイルスは開発途上国にとどまり、経済回復が永続的に中断されるだけでなく、新興市場が金融危機に陥るおそれもある。バリューチェーンのグローバル化も大幅に進んでいるため、グローバル・バリューチェーンが回復しない限り、どの国も今回の危機から本格的に回復することはできないだろう。

グローバルな財政刺激策

私たちが直面しているのは地球規模の経済的打撃であり、需要と供給の崩壊が同時に起きているため、史上初の真にグローバルな財政刺激策が必要とされている。

この刺激策は、大企業や有力企業だけでなく、グローバル経済を下支えしている労働者や中小企業にも向けられるべきだ。主要なサプライヤーを守るだけでは不十分である。さらにその下のサプライヤーや、グローバル経済を徐々に復活させる役割を果たすグローバルな消費需要、すなわち家計所得も守る必要がある。

ここで必要なのは、単に財政拡大を調整するだけでなく、特に開発途上国に対して、その財源を確保することである。そのためには、いかにして多額の譲許的融資を動員すべきか、クリエイティブな思考が必要だ。多国間開発銀行のほか、年金基金のような民間の貸し手も、成長率の低い投資機会をも求めるようになるから、検討する必要がある。開発金融機関が連携し、集団的な信用緩和を行うための新しいメカニズムを、新興市場の民間セクター向けに作り出す必要があるかもしれない。また、国際通貨基金の特別引出権(SDR)を使ったり、二国間債務の返済を中断したり、中央銀行による通貨スワップを調整したりする必要性もあるかもしれない。

こうした施策はいずれも、医療物資の製造といった感染症対応に不可欠な部門やバリューチェーンを優先して資本を配分する、全般的な調整メカニズムの枠内で実施すべきだ。

人々を守るための決意

最後に、そしておそらく最も重要なG20の役割は、世界のリーダーたちが人々を守るために必要なことは何でもするという決意のもとに結束していると明確に打ち出すことである。

利益か人間かという二者択一は間違っている。健康と安全がなければ、経済成長はおろか、経済自体が成り立たないからだ。G20のリーダーが人々を守るために協力することを明確に約束する声明を出せば、市場や人々の緊張をほぐせるだろう。また、保護主義と市場低迷のパニックという悪循環が生まれている時に、信頼の基盤を提供することにもなる。信頼がなければ、国際協力もグローバル市場も一気に崩れてしまいかねない。

今回の危機の悲劇的な皮肉として言えるのは、社会的距離戦略によって、私たち全員がいかにこの状況下で共にあるかが明らかになったことだ。今こそG20が、私たちがこの危機から、一緒に、脱出できる道を探り始められるよう働きかけて欲しい。

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この記事は、IPI Global Observatoryに掲載された記事を転載したものです。

 

著者

ジェームズ・コケインは、国連大学政策研究センター(UNU-CPR)の非常勤リサーチ・フェローで、現代の奴隷制に関するプログラムを担当。また、「奴隷制と人身売買に対抗する金融(Finance Against Slavery and Trafficking:FAST)」プロジェクトを行うリヒテンシュタイン・イニシアチブ事務局の代表を務める。