新たな宇宙時代に入りつつある今、宇宙の持続可能性のための枠組みが必要

現在の人工知能(AI)ブームのはるか以前より、知能技術と宇宙の間には切っても切れないつながりが存在する。数十年間にわたり、知能技術はさまざまな宇宙ミッションと宇宙船、探査イニシアチブの推進力となってきた。初期の宇宙ミッションは、当時の知能システムの最先端であった高度なコンピューティング技術に依存していた。

歳月とともに、ロボット工学、機械学習、そしてAIの進化が宇宙探査ロケット、惑星探査機、宇宙衛星の性能向上に重要な役割を果たすようになった。宇宙技術によって私たちの住む世界をよりよく研究し、気候変動の問題に対処することが可能になった。よく知られているように気候変動の影響は甚大で、災害と疾病の増加、農業生産の減少と経済の荒廃が含まれる。

宇宙技術は災害や気象パターンをより正確に予測し、気候変動がもたらす深刻な結果の一部を誘導して逆行するための取り組みを強化することを可能にする。AIは、宇宙探査のさまざまな用途においてきわめて重要な役割を果たす。

例えば、NASAの火星自走探査機は意思決定や障害物の回避だけでなく、私たちを重要な発見へと導く、AIが持つ優れた能力を示している。ニューラル言語処理は、宇宙飛行士を補佐する知的なアシスタントを創り出すとともに、AIを搭載したロボットが宇宙ミッション中の物理的作業を支援している。

AIを搭載したナビゲーションシステムは、従来のような衛星による支援を必要としない地球外探査を促進する。衛星と関連する試みでは、AIのアルゴリズムが大量のデータセットを効率的に処理し、画像分析、遠隔監視、および衛星の性能予測に貢献している。

機械学習技術は、宇宙ごみの場所を特定することによって衝突リスクを軽減し、宇宙飛行全体の安全性を高める。さらに、AIによる自動化で、科学ミッションからのデータの収集、評価、そして流通が最適化され、最終的には宇宙探査の効率が向上する。

実際、宇宙は経済活動の中心である。宇宙技術が経済に与える影響は幅広くさまざまな部門に及んでおり、技術革新をもたらし、雇用を創出し、グローバルな接続性を向上させ、経済成長を促進する。

宇宙産業の継続的な発展と日常生活への一体化が、世界経済におけるその重要性の向上に寄与している。業界の試算によると、2022年の世界の宇宙関連市場は8%の成長増で5,460億ドル規模になり、2030年までに7,370億ドルを超えるとの予測がある。このブームに挑戦者として名乗りを上げているその他の主な国は中国、日本、インドである。

 

例えば、日本は政府の主導によって、過去半世紀の間に宇宙開発において大きな進歩を遂げた。「はやぶさ」プロジェクトに代表されるように打ち上げロケットや宇宙探査分野の進歩に成功を収めてきた。世界規模では、宇宙開発競争に再び火が付いたとの認識が高まるほど、私たちはさらに重要な発展を目前に控えている。

2023年5月に発表された政策概要の中で、アントニオ・グテーレス国連事務総長は次のように述べた。「過去10年間に、私たちは宇宙空間における参加主体、野心、機会の根本的な変容を目にし、宇宙探査の新時代が多国間システムの中で急速に到来した。既存の国際宇宙法の完全な執行、効果的なガバナンスによるイノベーションの推進、そしてリスクの軽減を保証することが私たちの共通の責務である。」

2023年、AIガバナンス研究に幅広く取り組んできたインガ・ウルニカネ氏は宇宙開発競争の文脈とAI開発を結び付けることに警鐘を鳴らした。彼女は、このような視点は直近の経済的利益を強調し、ゼロサムゲームの概念を固定化する一方で相互に利益をもたらす結果の可能性を見過ごすと主張する。

現在もこれまでも競争に重きが置かれてきた結果、影響力ある企業体に有利に働く規制の緩和へと繋がり、差し迫った社会的問題を差し置いて先端技術が優先されるかもしれない。

 

ウルニカネ氏は、グローバル協力と持続可能な開発目標(SDGs)の一体化を訴えている。これに関連する問題は国際協力とイノベーションのバランスをどのように取るかということであり、一部の人々は業界内でAIテクノロジーの競争力を高めることができるようにして初めて可能であると主張している。

いくつか考慮すべき事柄がある。求められているのは、外交努力、協働協定、共有資源の組み合わせである。国連事務総長は、人類に恩恵をもたらす共通の領域である宇宙空間を保護するには、複数のステークホルダーが関わりながら適応性の高い、即応性のあるガバナンスが必要であると指摘した。事務総長はさらに、地球の低周回軌道の混雑と宇宙における競争の激化によって深刻化しているリスクの高まりに対し、宇宙の探査と利用に関わるすべての当事者が関与して集団的に対処しなければならないと主張した。とは言え、加盟国が中心的立場にとどまり、政府間プロセスを引き続き主導することを保証することが必須である。

それでは、どうすればよいのだろうか。事務総長は2つの選択肢を提示している。1つ目の選択肢は、国連宇宙空間平和利用委員会が国連の関連機関と提携して宇宙の持続可能性のための包括的枠組みを作成して透明性を高め、信頼を築き、宇宙活動の相互運用性を高めることである。さらにこの選択肢は、より広範な運用上の利害関係者を取り込むためのプラットフォームを組み込むことも提案している。

2つ目の選択肢は、この委員会が宇宙の持続可能性のさまざまな側面に関する新たなガバナンスの枠組みの策定を検討する、代替的なアプローチを示唆している。別々の、しかし相互に強化し合う手段として提示されるこれらの枠組みは、関連する国連機関との協力の下に形成されるであろう。

1つ目の選択肢と同様に、この2つ目の選択肢もこれらの枠組みの策定と実施に際して、業務上の利害関係者がより幅広く参画するプラットフォームを含めることを提案している。以上の選択肢以外にも、考慮すべき事柄があると私は主張したい。

1つの重要な戦略は、宇宙条約やアルテミス合意のような宇宙空間の責任ある平和利用に重きを置き、軍事利用を阻止する国際宇宙協力協定を制定し、遵守することである。技術の進歩と科学的発見を加速するためには、多くの国が参加する協働研究プロジェクトと共同ミッションを促進することが非常に重要である。

包摂的で公正なAIシステムのための他の議論と重ねると、包摂性を促進し高めて技術格差を狭めるためには、先進国から開発途上国への宇宙技術の移転を進める必要がある。

共有の資金と資源に支えられたこのアプローチは科学的知識と専門知識の交換を促進でき、世界的に宇宙計画の能力を高める事が出来る。各国の宇宙当局と国際宇宙機関の間のパートナーシップを強化することも、グローバルな協力を醸成する上で極めて重要なもう1つの側面である。宇宙機関がグローバルな宇宙関連問題に関して情報を交換し、課題を議論し、取り組みを調整するための定期的なフォーラムの開催は、より団結した協力的な国際宇宙コミュニティーの形成に役立てることができる。

さらに、能力開発プログラムは、トレーニング、知識移転、インフラ開発を通じてこの分野における新興国が宇宙に関する能力を開発するのを支援する上で重要な役割を担うことができる。技術面での協力を超えて宇宙空間での持続可能性に取り組むことが、宇宙と技術が交差するこの分野において必須である。

宇宙ごみの削減に関する共同の取り組み、責任ある宇宙利用のための国際指針の遵守、そして持続可能な活動の促進は宇宙空間の長期的な活動の存続に貢献できる。宇宙外交に取り組むことは、衝突を予防し、紛争を解決し、宇宙空間における平和な共存を推進するために不可欠である。

宇宙関連のデータを国際的に共有するための枠組みの設立により、各国はお互いの観測と研究から恩恵を受け、宇宙科学と宇宙探査に対するグローバルなアプローチを発展させる。私たちは宇宙時代の新たな時期に入りつつあり、それにふさわしい対応を取らなければならないとする説得力のある主張がなされている。

T.S.エリオットが1942年の詩「リトルギディング」で書いたように、「私たちが探索を止めることはない。探検の終わりとは、そこから出発した場所に到着し、その場所を初めて知ることなのだ。」

エリオットの言葉は、宇宙時代の次の段階へと足を踏み入れるにあたり、私たちは自らの出発点を再発見するだけでなく、新たに見いだした理解と持続可能性への献身をもってその出発点を見なければならないことを深く思い起こさせてくれる。
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この記事は最初にDaily Maverickに掲載されたものです。Daily Maverickウェブサイトに掲載された記事はこちらからご覧ください。

著者

チリツィ・マルワラ教授は国連大学の第7代学長であり、国連事務次長を務めている。人工知能(AI)の専門家であり、前職はヨハネスブルグ大学(南ア)の副学長である。マルワラ教授はケンブリッジ大学(英国)で博士号を、プレトリア大学(南アフリカ)で機械工学の修士号を、ケース・ウェスタン・リザーブ大学(米国)で機械工学の理学士号(優等位)を取得。