全市民に環境問題を考えさせるフランスの都市

クリスティナ・Eさんは3人の子どもの母親で、パリの中でも高所得者が多い地域のマンションに住んでいる。毎日、食事を作る立場から、彼女は家庭ゴミ用の容器の横に生物分解性の廃棄物を捨てるところがあればいいのにと思っている。

彼女はインタープレスサービス (IPS)に次のように語った。「野菜や果物の皮、その他、有機物を捨てることになるたびに、申し訳ない気持ちになります。家族が積み肥を利用するのを見て育っているので、パリにも収集容器があったら、是非使いたいと思います」

もし、クリスティナさんがフランス東部の絵に描いたような美しい街、ブザンソンに住んでいたら、市から提供される容器に生物分解性のゴミを入れ、さらにはコンポストを「再生利用」してベランダの植物の肥料にすることもできるだろう。さらには生ゴミを喜んでつつくニワトリも町から得ることができる。

フランスの首都から325キロの距離を隔てたブザンソンは、フランスでも環境問題に熱心に取り組む省エネ「チャンピオン」都市として知られている。名所は丘の上の立派な城砦で、実際、ユネスコの世界遺産にも指定されている。また、フランスの都市の中では公営住宅が最も多い。

そういう町として、ブザンソンは環境保護活動に住民を巻き込み、エネルギー消費量と二酸化炭素排出量を2020年までに20%削減する(これはEUの目標レベルと同じである)ことを目指して、特筆に値する努力を続けてきた。

周辺広域共同自治体のグラン・ブザンソンにおいて、環境とクオリティ・オブ・ライフの持続可能な開発担当ヴァイス・プレジデントを務めるニコラ・ギュメ氏は次のように述べた。「私たちは最初から大規模な啓蒙キャンペーンを行って、私たちが進める活動のすべてを皆さんにわかっていただくようにしました。参加型の努力なのです。市民は全員が自らも関わっているという意識を持ち、エネルギー消費を20%削減するという目標も理解しています」

ブザンソン市は、コンポスト容器を集合住宅やスペースあるいは庭のある個人宅に提供するほか、コンポストを集めて公共の公園や緑地帯の肥料に用いている。意欲的な住民は町からニワトリを受け取って、有機廃棄物を飼料に役立てられる。

写真:ジャン・シャルル・セクス/ブザンソンの町

写真:ジャン・シャルル・セクス/ブザンソンの町

[quote quote=”フランスのブザンソン市は、コンポスト容器を集合住宅や個人宅に提供するほか、コンポストを集めて公共の公園の肥料に用いている。”]

しかし、このような協力は18万人の住民の環境保護努力のごく一部でしかない。ギュメ氏は「町の優先事項は温室効果ガスを減らすのと同時にエネルギー使用量も減らすことなので、誰もが果たすべき役割を担っています」と言う。

毎年、町は約100世帯の家庭を「追跡」して、日々の交通手段、暖房方法、その他の習慣の調査を行っている。ギュメ氏はIPSに「この調査の目的は、どのように行動を変えればエネルギー使用量を減らせるかをひとりひとりに目に見える形で示すことです」と語った。

「調査の最後には、わかったことを一般の皆さんに公開します。それを見ると、他の人たちも同じように行動を変えられるのです」

今日の投資は明日、明後日のために

「飴」で効果がない時のためには「鞭」も用意されていて、町は住民の動機づけとして厳しい措置を講じている。たとえば、家庭ゴミは重さによって課税される。排出する量が少ないほど、払う税金は少なくなる。

社会党の市長、ジャン・ルイ・フスレ氏によると、これらの方策により、焼却処分に回されるゴミは15%減ったという。

フスレ市長は町の多くの変革において、推進役を務めてきたひとりだ。しかし、彼の政策への反対意見がないわけではない。野党は、支出が予算を上回っているとして市長を批判している。

たとえば、来年に完成予定の新しい路面電車は2億5000万ユーロかかり、過去数ヶ月にわたって住民に多大なる不便を強いてきた。また、市の職員によれば、街灯の電球をLEDに変えるのに年間100万ユーロかかる。しかし、それで年間500万ユーロの節約が期待できる。

[quote quote=”路面電車の建設には何百万ユーロもの費用がかかりますが、50年以上使えます。” author=”ジャン・ルイ・フスレ市長”]

「支出しすぎだという批判に反論するのは簡単です。たしかに、初期投資は大きいものです」とギュメ氏はIPSに語った。「しかし、後になれば、大規模な節約が実現できるのです。たとえば、路面電車の建設には何百万ユーロもの費用がかかりますが、50年以上使えます。エネルギーの節約も同じことです」

「持続可能な開発は長期的なビジョンで取り組むものです。投資をするのは今日ですが、それは明日、明後日のためなのです」

市の職員は次のように述べた。「私たちはドイツやスイスのやり方に刺激を受けています。彼らは持続可能なエネルギー政策については、フランスよりもはるかに進んでいます」 。ブザンソンはこれらの国々との国境に近いため、何年もの間、環境政策においては緊密な協調関係を築いてきた。「ドイツとスイスの協力があったからこそ、ブザンソンは他のフランスの都市に手本を示すことができるほどになったのです」

2012年末、ブザンソンは気候変動およびエネルギー問題への取り組みにおいて「模範的な」成果を上げたという理由で、Cit’ergie European Energy Award(ヨーロッパ都市エネルギー大賞)の「金賞」を受賞した。フランスの都市としては初めての受賞となる。

ここで歩みを止めない

ブザンソンの歩みはめざましいが、それでも専門家の中には、同市が今後7年間でエネルギー消費量を20%削減するには、厳しい闘いを続けなければならないだろうと懸念する人もいる。

ヨーロッパ・エコロジー=緑の党に所属する議員、ブノワ・シプリアニ氏は「さらに革新的な対策を取らなければ、目標は達成できないでしょう」と語った。

シプリアニ氏はIPSに次のように述べた。「公共セクターでは間違いなく達成可能です。しかし、民間セクターでは話はもっと複雑です。たとえば、住宅を改築して、エネルギー効率を高めることなどが必要でしょう」

彼はさらに続けた。「路面電車は運輸部門でこれまでの2%の上積みにつながると期待しています。それは何よりも、自動車に代わることができるからです。そして同時に国のレベルでは、フランス政府が電力使用の削減に向けて対策を取ることを期待しています。そういった対策はブザンソンにも影響があります」

フランスはヨーロッパでも家庭用暖房に最も電力を消費している国だ。だが、シプリアニ氏は汚染物質の排出が少ない木材をもっと活用すべきだと考えている。

さらに、ブザンソンの優先事項マニュアルには、エネルギー消費の削減を進めることの次に、地域レベルでエネルギーを作り出すことが挙げられている。

ギュメ氏はIPSに次のように語った。「地域でエネルギーを自給自足することを目指しています。そこで、再生可能エネルギーの活用を推進しています。町は現在、太陽電池パネルに投資を行っており、自分が所有する家屋や土地に太陽電池パネルや輻射パネルの設置を希望する住民の皆さんに対しては助成制度を設けています」

市の職員によると、風力発電ゾーンがすでに定められており、4年以内に風力発電計画が実施されるとのことだ。水力についても、町全体がドゥー川に囲まれるような形になっているだけに、エネルギー源としての可能性が検討されている。また、木材をエネルギー資材とする2つの地域暖房プラントも運転を続ける計画である。

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この記事は インタープレスサービス (IPS)のご厚意により転載を許可されたものです。IPSはグローバルな通信事業を柱とした国際通信機関であり、開発、グローバリゼーション、人権、環境などの諸問題に関する南半球や市民社会からの意見を取り上げています。

翻訳:ユニカルインターナショナル

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著者

A. D. マッケンジー氏は、世界130カ国以上330地域で370人の記者を抱えるインタープレス・サービス(Inter Press Service)に定期的に寄稿しています。