ジャスティン・マッカリー氏は、ガーディアン紙の東京特派員である。
破壊された福島第一原子力発電所を運営する東京電力は、敷地内にたまっている大量の汚染水に対処するため、地下水をくみ上げて太平洋に放出する作業を開始した。
東京電力は、損傷した原子炉の上流に位置する12本の井戸からくみ上げた560トンの地下水を放出したと発表した。同社によれば、地下水は一時的にタンクに貯蔵され、安全性検査を行ってから放出された。
福島第一原発から毎日300トンの汚染された地下水が海に流れ出しているという環境省の発表があってから2年近くが経過した今、汚染水の増加は原発作業員を悩ませている最も喫緊の課題である。
原発の後ろにある山から流れ込んでくる地下水は、溶融した燃料棒を冷却するために使われた汚染水と混じり合い、海に流れ出している。当局者は、汚染水の問題が解決されなければ廃炉は不可能だと認めている。
このバイパスシステムは、山側から海に向かって流れてくるまだ汚染されていない地下水を建屋内に流入する前にせき止めて迂回させるというものだ。この方法により、建屋地下に流れ込む水の量を1日当たり最大で100トン(4分の1)減らすことができ、間もなく飽和状態となる貯蔵タンクにかかる圧力を軽減できると期待されている。
しかしこのシステムには、2011年3月の地震と津波による破壊の後でメルトダウンした3基の原子炉の建屋内に冷却水として注入された高濃度汚染水は含まれていない。
1回目の地下水放出は、東京電力が地元の漁師たちに対し、放射性物質の濃度が世界保健機関の定める飲料水基準値よりもはるかに低いことを保証したうえで行われた。
この高濃度汚染水は今後も敷地内の1000基を超えるタンクに溜まりつづけ、当局者たちはこれを安全に処理する方法に頭を悩ませている。また、汚染水浄化システムの度重なる故障も、問題をさらに深刻にしている。
東京電力と政府は、地下水の流入を防ぐために4基の原子炉の周りに地下凍土壁を構築する準備も進めている。しかしこの技術について専門家の間では、これほど大きな規模で実施された場合にどの程度の効果があるのか疑問視する向きもある。また東京電力は、貯蔵容量を増やすためにタンクの増築も進めている。
東京電力の相談役であるデール・クライン氏は先日、最終的には汚染水を太平洋に放出する より他に手立てはないかもしれないと東京電力に警告した。
1回目の地下水放出は、東京電力が地元の漁師たちに対し、放射性物質の濃度が世界保健機関の定める飲料水基準値よりもはるかに低いことを保証したうえで行われた。
東京電力はこの手段を「大きな一手」としたうえで、「地下水の水質は、日本の法令基準よりも厳しい安全・環境基準に従って、独立した第三者機関により定期的に監視される」と述べた。
今回の地下水の放出は、2011年3月に原子炉建屋が爆発した時に福島第一原発にいた作業員のほぼ全員が、現場に残るようにとの命令に従わずパニック状態になって逃げたということが日本の新聞によって報道された後で行われた。
消防士や自衛隊員とともに現場に残り、何とか核燃料を冷却しようと24時間体制で作業にあたった少数の作業員たち(通称フクシマ50)は、その英雄的行動で称賛されている。
しかし朝日新聞は今週になって、当時の福島第一原発所長吉田昌郎氏の流出した調書をもとに、3月15日の建屋爆発時に現場にいた作業員720人のうち650人が約6マイル(10キロ)離れた所にある別の原発に逃げていたという事実を明らかにした。吉田氏は昨年7月にがんで亡くなった。
福島原発で浄化作業が続けられるなか、水曜日には西日本の原発運営者に対し安全上の懸念を理由に再稼働差し止めを命ずる裁判所の判決が下り、一部の原発の再稼働を目指す政府の計画に「待った」がかかった。
福井地裁は関西電力に対し大飯原子力発電所の原子炉2基の再稼働を認めない判決を下した。反原発派が勝訴するのは珍しいことである。
福島の原発事故を受けて、数十基ある日本の原発はすべて点検のために停止されたままとなっている。
「これまで原告が勝訴したことはほとんどありませんでした。今はちょうど再稼働に向けたプロセスの最中であり……確実に波紋を呼ぶでしょう」と、グリーン・アクション代表のアイリーン・美緒子・スミス氏は言う。
関西電力は判決を不服として控訴する構えだ。
翻訳:日本コンベンションサービス
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