ローリー・キャロル氏はガーディアン紙の南アメリカ特派員。
ガラパゴス諸島の最南端に位置するエスパニョーラ島での調査で、ゾウガメの子を島へ放つ先駆的実験の努力が実り、ゾウガメの数は1500以上に増えたことが先週確認された。この計画は、チャールズ・ダーウィンが進化論と自然淘汰説を生み出すきっかけとなった生物種を人間がほぼ絶滅に追いやった時代以前にまで時計を巻き戻そうというものだ。
「悲しい物語の嬉しい結末です」この研究の一部の資金を拠出した、バージニア州にあるGalápagos Conservancy(ガラパゴス保護委員会)会長のジョハンナ・バリー氏は言う。
ガラパゴス国立公園の24名の管理人によって10日にわたって行われた調査の暫定的な結果ではアホウドリ、サボテン、樹木の植生なども一部復元されたとされ、島はダーウィンが2世紀前に見たであろう姿に似たものになっているという。
プロジェクトの成功により、ピンタ島で同種のカメを再生させようという計画にも希望がさした。ここでも「人間が足を踏み入れる前の」バランスの取れた生態系を再現しようとしているのだ。
この調査では生物の動向を追跡するため電気器具を使用したが、統率した国立公園の役員ワシントン・タピア氏によると、ゾウガメ(エスパニョーラ・ゾウガメ 学名:Geochelone hoodensis)の数は1970年にはわずか15匹にまで減少していたが現在はまたよく見られるようになったそうだ。「島を探索してみると、巣、最近孵ったばかりのカメ、エスパニョーラ島で生まれ育ったカメなどが見つかり、カメの総数は順調に増えていることがわかります」
Galápagos Conservancyの科学顧問リンダ・カヨット氏が言うには、今ではその数は1,500から2,000にのぼる。「最終的な結果がまとめられれば、さらに状況が詳しくわかるでしょう」
かつてゾウガメの数は5000匹にまで増えていたたが、新鮮な肉を求める船乗りたちの格好のターゲットとなってしまった。
プロジェクトの成功により、ピンタ島で同種のカメを再生させようという計画にも希望がさした。ここでも「人間が足を踏み入れる前の」バランスの取れた生態系を再現しようとしているのだ。エクアドル本土から600マイル西に散在する岩石の多い火山島は、ユネスコの世界自然遺産に登録されており、他の場所では見られない10種類以上の固有の生物の生息地である。3000平方マイルの土地の95%は保護区域となっている。
「これはすごいことですよ。進化をリアルタイムで目の当たりにできるのですから」とGalápagos Conservation Trust(ガラパゴス保全信託)のヘンリー・ニコールズ氏が言う。彼はエスパニョーラ島のゾウガメの数が復元されたことを歓迎している。「ゾウガメは人々のイマジネーションをかきたてる大切な種ですからね」
この列島にとって20世紀の大半は人類の破壊の歴史だった。船乗りたちは、カメを食べつくした挙句いくつかの島にヤギを放した。当初ほんの数匹だったものはあっという間に数千匹、数万匹へと増殖した。ヤギは島の植生を食べつくし、生き残っていたカメやその他の絶滅危惧種たちが生きていけない環境にしてしまった。
1970年代には、射撃のチームが組まれ、この「侵略者たち」を処分することが決定された。しかし数匹は生き残って繁殖し1990年代にいたるまで問題は続いたままだった。そしてヘリコプター、犬、無線追跡装置が導入されることとなる。斬新だったのは電気の首輪をつけた「ユダのヤギ」(他の羊や牛の群れを屠殺用のゲートなどへ導く役割を持つ訓練されたヤギ)を使い、見つけにくいヤギたちの場所を特定したことだった。
「毎月射手が島へ行き、ユダ以外を全て撃ちました。1ヵ月後も、その後も同じことの繰り返しです。最後にはユダだけが残ると、それも撃たれました」とニコールズ氏は言う。
島の固有種に危機が迫っていたため、ヤギの大虐殺に反対する声はほとんどなかった。
「市民から怒りの声がほとんど上がらなかったのはカメが危機に瀕していることを皆わかっていたからです」とバリー氏。科学者たちは生存しているゾウガメのうち15匹を荒廃したエスパニョーラ島から移し、飼育下繁殖プログラムに入れた。そしてヤギ根絶後は繁殖プログラムで生まれたカメが島に放された。
「カメは生態系の技師としての役割を果たし始めました」と島の調査を率いるタピア氏が言う。「エスパニョーラ島の健全な生態系は復活したと自信を持って言えます」
似たような生物再生プランは、列島の北端にあるピンタ島でも行われている。ピンタ島で唯一生き残っているのはロンサムジョージと呼ばれるオスだけであり、何十年も飼育下繁殖プログラムにいるにもかかわらず子どもは産まれていない。
エスパニョーラ島の健全な生態系は復活したと自信を持って言えます。(ワシントン・タピア氏 調査リーダ)
科学者たちはジョージに子孫ができるのを今後20~30年も待ち続けるのをやめ、ピンタ島のカメと遺伝的に最も似ているエスパニョーラ島のカメたちを島に放すことにした。総勢39匹の一隊が5月に新天地に連れられて来た。それらは子を産めないカメたちで、しばらく詳細な観察が行われる。全てが順調であれば、次に子を産めるカメが放される予定だ。
「島全体で努力が継続されており、カメの総数は増え続けています。列島の大部分で健全な数にまで増えてくれたらいいと願っています」とカヨット氏は語る。
ロンサムジョージに関する本の著者であるニコールズ氏は、ガラパゴスで最も有名な独り身のオスがこの先、子を作れる可能性はまだあるとしている。
「ジョージに関しては驚くべきことがたくさん起こっているので、この可能性は否定できません。時間もたっぷりありますしね」と彼は続ける。「島の生物多様性を保存するという視点で見ると、ヤギは諸悪の根源です。恐るべき速さで繁殖し、島の植物を食い尽くしてしまうからです。ガラパゴスのほとんどの島でヤギを根絶させられたのは見事だったしか言いようがありません。世界でも最も大がかりで、最も大きな成功をおさめたヤギ根絶計画だったといえるでしょう」
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この記事は英国紙the Observerで発表され、2010年6月27日日曜日に guardian.co.ukで公表されたもの。
翻訳:石原明子
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