水セクターにおけるジェンダーの盲点

UN Womenは、世界各国の政府が実施する包括的な教育、労働、社会保護の戦略と改革により、2030年までに1億5,000万人の女性と少女が貧困から脱することができると推定されている。

しかし、持続可能な開発目標(SDGs)の進歩を賞賛する一方で、極貧状態にある4億3,500万人の女性と少女のうち、およそ3分の2が取り残される可能性が高い。そのため、賞賛を手放しで喜ぶことができない。

ジェンダーの不平等がもたらす影響は、社会全体に深刻なコストと結果をもたらしている。家庭で飲料水が供給されていない80%の世帯の女性と少女達は、毎日水汲みをしている。そのため、数え切れないほどの経済的・教育的機会を逃している。

世界人口の約半分を占めているにもかかわらず、女性の指導者や意思決定者の割合が低い。また、女性が男性と同じだけの収入を得ることができれば、女性の生涯収入は半分以上増加する可能性がある。つまり1人当たり2万4,586米ドル、世界全体で170兆米ドルである。

1911年から賞賛されている今年の「国際女性デー」は、21世紀におけるジェンダー不平等を存続させている偏見に対しての認識をさらに高め、「バイアスの払拭」を目標としている。

しかし、立法、研究、資源配分、そしてプロジェクト管理やモニタリングにおける男女の権利を明確示し、ジェンダーの視点を公式に統合するジェンダー主流化および他の公共政策措置の実施にもかかわらず、バイアスはなおも存在します。

水セクターにおいては、改善を阻む障壁の一つに「盲点」が挙げられます。

データ不足に加え、固定観念や規範などの差別的で制度・構造的な弊害から生じる盲点には、早急に対処する必要があります。

SDGs の中にも盲点は存在します。たとえば、すべての人に安全な水とトイレへのアクセスを確保するという目標6の11の指標のいずれもが、ジェンダーとは関連づけられていません。

「女性や少女のニーズに特別な注意を払うこと」は、ターゲット6.2(すべての人々の、適切かつ平等な下水施設・衛生施設へのアクセスを達成)において詳細に強調されているものの、安全なサービスを利用できる女性と少女、または意思決定に関与する女性と少女の割合などのデータがモニターされていないため、SDGsの目標6の指標すべてが実際にはジェンダーブラインド(ジェンダーの視点が入っていない状態)となっています。

エビデンスに基づくジェンダー平等政策や介入策を水セクターが策定するには、女性たちがどの程度、水と衛生 (WASH) のニーズを満たし、リソースにアクセスし、主体性を発揮することができているかについて理解を深める必要があり、そのためにはジェンダー別のデータ収集が必要です。

水セクターは、持続可能な開発アジェンダにおけるジェンダー固有の53個の指標ジェンダー関連の WASH 対策に関する最新調査、およびプログラム規模、国家規模そしてグローバルな規模でジェンダー固有のモニタリングシステムを構築するというフェミニスト視点に立った社会変化に関する定量的な調査を参照すると良いでしょう。

一方、水に関連する法令や政策におけるジェンダー主流化について報告を行っている109カ国の内、資源の管理と農村の公衆衛生への女性の参画に具体的に言及しているのは、半分未満となっています。

さらに、男女平等が最も進んでいると思われる場所においても、なんとか決定権を得ようと努めてきた女性の一部は、地域社会と政府の両方の構造において自身の参画が形骸的なジェンダー平等主義に過ぎないと不服を申し立てています。

女性の視点が、政策やジェンダーニュートラルであるはずの水インフラの建設と配置に組み込まれないことで、介入措置は結果的に女性の経済および教育の機会をむしろ制約する可能性があります。

また女性は、自身の個人的安全を危険にさらすサービスを利用せざるを得ないこと、さらに基本的な月経の衛生的処理や個人の洗浄に関するニーズが満たされないことに不安を感じるかもしれません。

女性のエンパワメントにおける有意義で実質的な努力や行動は、水セクターにおける現行の制度を転換し、有害な不平等の根源を是正するために不可欠です。永続的な変化を実現するためにはこうした不平等の原因を根絶させる必要があります。

女性が家庭や職業において育児や介護などの伝統的なケアワークに誘導されるなど、時代遅れの固定観念や社会規範こそ、ジェンダーバイアスの根源であり、水セクターにおける障壁なのです。

さらに、社会制度が女性に掛ける期待や家父長制という慣行は、多くの女性にとって、ケアワークと仕事との間で時間と労力をバランス良く割り当てることを妨げています。

結果として、女性は水汲みなどの無償労働という役割に過剰に押し込められ、産業のリーダーシップや意思決定の役割に就くことがあまりにも少ないのです。

部門ごとの介入策は、家庭内の役割や意思決定におけるジェンダー不均衡を標的としてきたものの、職場におけるジェンダー主流化は、今なお、前途多難です。

世界的には、水セクターの労働人口で女性が占める割合は5人当たり1人未満であり、技術職と管理職の双方において少ないです。

世界銀行では、このような制度的な障壁を壊すために、次の方法で給与格差の是正に取り組むことを提案しています。すなわち、同一労働におけるジェンダー間の賃金格差の実態調査、ジェンダーの視点を取り入れた従業員研修の機会の提供、そして水部門における次の世代の女性リーダーを育てるために、産業の魅力訴求、採用、離職防止、キャリアアップの機会提供という4本柱のアプローチです。

ジェンダー平等の実現は世界の開発アジェンダにおける重大な要素であり、水セクターがSDGsの目標 1 (貧困をなくそう)、目標5 (ジェンダー平等を実現しよう)、目標6 (安全な水とトイレを世界中に)、そして目標10 (人や国の不平等をなくそう) に貢献するためには、ジェンダー平等の実現が必要不可欠です。

ジェンダー別データの収集や、ジェンダー平等を支える法的および物理的なインフラ、そして包摂的な社会システムや制度を実現することで、管理・権力・労働の分担を有害で不公平なものにしてしまうジェンダーの盲点を解消し、#breakthebias(バイアスの払拭)に寄与することができます。

•••

 

この記事は最初にInter Press Service Newsに掲載され、同社の許可を得て転載しています。Inter Press Service Newsウェブサイトに掲載された記事はこちらからご覧ください

Copyright Inter Press Service (IPS). All rights reserved.

著者

グレース・オルワサニャ博士は、国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)の研究員です。水を研究する科学者であり、開発途上国と欧米諸国の水資源管理について幅広い訓練を受けています。20年以上、水システムのリスク分析、水安全計画、水質と公衆衛生保護、水の安全保障問題の分野での経験があります

リナ・タイン博士は、国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)の水と健康に関する研究者です研究者です。10年以上、WASH (水と衛生)とHIVの分野でプロジェクト管理、能力開発の経験に携わってきた。