「カーボン・バジェット」を超えず、2℃を超える地球温暖化を回避するために、世界は2070年までに「カーボンニュートラリティ」を実現しなければならないと、国連の新しい報告書が警告した。国際的に合意をした上限である2℃を超えた場合、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の科学者たちが「深刻で広範にわたる不可逆的な」気候変動の影響と表現する状況に、直面する恐れがある。
「カーボン・バジェット」という概念は、地球の気温上昇は大気中に長く残存する温室効果ガス、とりわけ二酸化炭素(CO2)の蓄積に比例することを科学者たちが確定したことで誕生した。これに基づいて、2℃という上限を超えずに大気に排出可能なCO2の最大量が推定された。
そして、このバジェットにはあまり余裕がない。19世紀末に排出量が急増して以来、私たちはすでに、1900ギガトン(Gt)のCO2と1000Gtのその他の温室効果ガスを排出しており、今後「支出できる」CO2は1000Gtにも満たない。
『Emissions Gap Report 2014(温室効果ガス排出ギャップ報告書2014)』は、国連環境計画(UNEP)による報告書シリーズの第5版であり、同シリーズは基本的に気候変動の緩和シナリオに関する査読済み論文の科学的評価である。報告書は、各国が立てた誓約が上限2℃に適合した排出量を維持しているかどうかに焦点を絞っている。
バジェット内で収めるためには、私たちは今後10年以内に排出量のピークを迎える必要があり、今世紀中旬までにはすべての温室効果ガスの排出量を半減させなければならないと報告書は述べている。さらに今世紀後半には、カーボンニュートラリティを実現させ、その後、(2080~2100年の間までに)温室効果ガスの排出量を正味ゼロにしなければならない。
ペルーのリマでの国連気候変動会議に先だって発表された2014年の「温室効果ガス排出ギャップ報告書」は、IPCC第5次評価報告書の結果に基づいて、最新のIPCCの報告書に発表されたシナリオを分析している。さらに、温室効果ガスを削減するだけでなく、その他多くの社会的目標も達成できる、エネルギー効率の向上のための大きな可能性を検証した。
報告書によると、今後10年以内に排出量のピークを迎える必要があり、今世紀中旬までにはすべての温室効果ガスの排出量を半減させなくてはならない。さらに今世紀後半には、カーボンニュートラリティを実現させ、その後、温室効果ガスの排出量を正味ゼロにしなければならない。
UNEPの主任科学者であるジャクリーン・マクグレイド氏がガーディアン紙に語ったところによると、残りのカーボン・バジェットに関する科学的な不確定要素は少なくなり、今では政治家たちが行動する意志を持っているのかどうかが本当の不確定要素だと言う。
「大きな不確定要素は、(排出量と気温を低減するための)最短経路を可能性がまだあるうちに進めるよう、2020~2030年という極めて重要な時期に十分な政策を導入できるかどうかです」と彼女は語った。「不確定要素は科学から政治に移ったのです」
「従来のシナリオでは、世界の気候政策の開発と導入があまり進んでおらず、世界の温室効果ガスの排出は2050年までに、安全基準を超えた87Gt CO2まで増加する可能性があります」と、国連事務次官およびUNEP事務局長のアヒム・シュタイナー氏は語った。
「地球の気温上昇を2℃未満に抑えるために、2025年、2030年、そしてそれ以降の現実的な目標について、各国はますます高い関心を示しています。今回の『温室効果ガス排出ギャップ報告書』第5版は、カーボンニュートラリティ(最終的には正味ゼロ、あるいは一部の人々がクライメイト・ニュートラリティと呼ぶ状況)を実現させる必要性を強調しています。そうすれば、バジェットに残っている累積排出量はすべて、森林や土壌といった地球の自然なインフラストラクチャーに安全に吸収されるからです」とシュタイナー氏は語った。
ガス排出の削減とともに、過去の「温室効果ガス排出ギャップ報告書」は、さまざまな部門におけるグッドプラクティス(GP)を取り上げ、そのGPが経済活動や開発を刺激する能力に主眼を置いていた。
今年の報告書は、国際的な開発目標とそれに対応した国内政策が、特にエネルギー効率を中心とした気候変動の緩和策を含め、いかに多様な利益をもたらし得るかという点にも注目している。
エネルギー効率は温室効果ガスの排出を削減あるいは回避できるだけではなく、省エネルギーを達成することで生産性と持続可能性を向上できる。また雇用を増やしエネルギー安全保障を高めることで、社会開発を支援することができる。
例えば、2015年から2030年の間に、エネルギー効率の向上によって世界的に少なくとも年間2.5~3.3Gt CO2を排出せずに済むと推定されている。
国際エネルギー機関の報告によると、燃料と電気の最終用途効率によって6.8Gt CO2を節約でき、電力生産効率と化石燃料の転換によって2030年までにさらに0.3Gt CO2を節約できると言う。
各国やその他の関係機関は、持続可能な開発と気候緩和の両方に有益な政策をすでに施行している。世界のおよそ半数の国が、建物におけるエネルギーのより効率的な利用を促進する国内政策を行っている。約半数の国は電気器具や照明の効率性を高める努力をしている。
今回の報告書は、国の方針と行動を科学に照らし合わせてどのように評価するのかを示す、世界の温室効果ガス排出に関する最も現実的な技術的分析の1つです」と、世界資源研究所の所長兼CEOのアンドリュー・ステア氏は語った。
その他の国内政策や対策では、再生可能エネルギーによる電力生産の促進、交通需要の削減と交通手段の転換、産業界の工程に関連した排出の削減、持続可能な農業の推進が行われている。
議論されている持続可能な開発目標は、開発目標と気候変動の緩和目標の間にある多くの密接な関連を示している。例えば、エネルギー貧困の根絶や、よりクリーンなエネルギーへの普遍的なアクセスの促進や、エネルギー効率の倍増のための対策は、それらが完全に実現すれば、気候関連の目標にも適合した方向に世界を向かわせるのに大いに役立つ。
「持続可能な開発目標は、開発目標と気候変動の緩和目標の間にある多くの相乗効果を強調しています。開発政策を気候変動の緩和策につなげることで、各国はエネルギー効率のよい低炭素な未来のインフラを築き、持続可能な開発の本当の意味と共鳴する変容的転換を実現しやすくなるでしょう」とシュタイナー氏は語った。
「世界の気候協定の交渉は、感情や政治的な気まぐれに基づくべきではありません。科学と事実を根拠に進めるべきです。今回の報告書は、国の方針と行動を科学に照らし合わせてどのように評価するのかを示す、世界の温室効果ガス排出に関する最も現実的な技術的分析の1つです」と、世界資源研究所の所長兼CEOのアンドリュー・ステア氏は語った。
「残念ながら世界は現在、正しい方向に進んでいません。しかし、世界の気候対策の機運の高まりを受けて、排出ギャップを埋め、気候変動の最悪の影響を回避するために必要だと科学が示した限界以内に踏みとどまるチャンスなのです」と彼は語った。
「地球の気温上昇は大気中に長く残存する温室効果ガス、とりわけCO2の蓄積に比例します。今、さらなる行動を起こせば、安全な排出量の限界内にとどまるために後になってさらに極端な行動を起こす必要性は少なくなるのです」とシュタイナー氏は語った。
翻訳:髙﨑文子
報告書のエグゼクティブ・サマリーをお読みいただけます。
2070年までにCO2排出をゼロにすべき:国連の報告 by キャロル・スミス is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 4.0 International License.