ビクトル・オセイ・クワド博士は、国連大学マーストリヒト技術革新・経済社会研究所(UNU-MERIT)に所属する研究者です。
教育は経済成長と個人の幸福を促進する。特に、中等教育は非常に重要な役割を担っている。こうした認識に促され、アフリカのいくつかの国が過去数十年にわたって中等教育の無償化を進めてきた。その一例が、2017年に開始されたガーナの公立高校無償化(FreeSHS)である。
本政策の目的は、授業料、教科書、寄宿、食事など、中等教育にかかる費用面の障壁を取り除くことにある。
公共政策の研究者として、私たちは本政策の影響、特に中等教育を修了する女子の数に及ぼす影響について調査を行った。女子の教育成果を重視したのは、ガーナでは女子がより高いレベルの教育を受ける上で不利な立場にあるからである。女子の就学者数と就学継続者数は教育レベルが上がるごとに減少する。
社会文化的に、家庭の資源が限られていると、女子の教育よりも男子の教育に資金を費やす傾向が強く、これは女子による家事労働の方が価値があるという考えにより強化される。
調査結果では、国が教育費を負担することが、生徒が中等教育を修了する上で欠かせないインセンティブとなっており、女子についてはその傾向がより強いことが浮き彫りになった。
本政策が教育成果に及ぼす影響を定量的に評価したのは、私たちの論文が初めてである。また、本政策が女子生徒に及ぼす影響に焦点を当てることにより、教育費に対する障壁を取り除くことで、女子が中等教育を修了する可能性がいかに大きく高まるかも調査結果から判明した。これがなぜ重要かというと、女子教育は個々の恩恵をもたらすだけでなく、コフィー・アナン元国連事務総長が述べたように、「女子教育は貧困を削減する」からだ。
私たちの調査結果は、女子の就学機会の拡大を求める声に寄与するものである。
ガーナの公立高校無償化政策は、ナナ・アクフォ大統領が、2008年、2012年、2016年の選挙遊説中に打ち出した選挙公約に端を発する。
2017年から2021年までの間に、政府は51億2,000万ガーナ・セディ(3億9,200万米ドル)を本政策の実施に投じた。
政策は議論を呼んだ。批判的な立場からは、政策開始以降の就学率の上昇に伴って政策の財政的持続可能性に疑義が呈され、教育の質の低化にも懸念の声が上がった。
それでも、世論はおおむね好意的である。2020年のアフロバロメーター調査では、「本政策は、中等教育を受ける金銭的余裕がなかったであろう人々に機会を提供したと思うか」という質問に対し、23.5%が「そう思う」、63.1%が「非常にそう思う」と回答した。
私たちの調査の目的は、本政策が教育達成度に及ぼす影響を推定することであった。重視したのは、政策の影響度、特に女子の修了率に及ぼす影響度であった。本調査は、政策が実施されていなかった時期(2013年 – 2016年)と実施されていた時期(2017年 – 2020年)における中等教育修了率の変化を推定することによって行った。
修了率は、教育無償化だけでなく、多くの要素の影響を受ける。それでも、より細やかな分析を行う出発点となった。
2017年以降は、すべての生徒が本政策の対象となったため、対象の生徒とそうでない生徒の修了率を比較して政策影響を推定することはできなかった。
そこで、私たちは本政策を利用した生徒が多い地区を比較した。すなわち、これまで就学する金銭的余裕がなかった生徒が多い地域と、少なかった地域を比較したのである。こうすることで、政策開始後に両グループの修了率の変化が大きくなったか否かを確認することができた。基本的に、二つの「庭」(学区)を比較するようなものである。どちらの庭も与えられる水の量が増え(教育無償化)、成長が促進されたが、一方の庭のほうがもう一方よりも生育状況が良好であった。
こうした「庭」同士の差異から、「水」(政策)が教育修了に及ぼす影響を推定することが可能になった。
調査結果によると、本政策が男女問わず教育達成度にプラスの影響を与えたことが判明した。男女合わせた高校修了率は、本政策によって14.9ポイント上昇した。
新政策開始後、女子の高校修了率は14ポイント上昇した。男子の増加率は推計していないが、男女合わせた修了率を見ると14ポイントを超えることが分かる。
また、政策開始後、女子の中等教育就学率がすべての地域で男子と同等かそれを超えたことも判明した。しかし、それでも修了率の面で完全なジェンダー・パリティー(男女比同率)が実現されたわけではない。
短期的な影響を見ると、本政策だけで教育のジェンダー的制約(社会的、文化的なものなど)がすべて取り除かれることはないが、制約の軽減に寄与したことは示唆している。
本政策が教育の質を高めたという証拠は得られなかった。しかし、修了率を押し上げる上で、教育の質は統計的に有意でないことが判明した。
不十分なインフラや過密状態であるとの報告もあり、学校教育の質は変わらないか、場合によっては低下したことがうかがわれる。
私たちの調査結果から、政策に影響を与え得る4点の学びが得られた。就学率・修了率上昇による恩恵を最大化するためには、ガーナは以下の施策を実施する必要がある。
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本記事とその基となった調査は、アリシア・シュテンツェル氏(ドイツ国際協力公社(GIZ)教育政策アドバイザー)が主導した。
この記事は、クリエイティブ・コモンズのライセンスに基づき、The Conversationから発表されたものです。元の記事(英語)はこちらからご覧ください。