マニシュ・バプナ氏は、世界資源研究所の執行副所長兼運営責任者である。
来週の国連総会における潘基文事務総長の演説のなかで、今日最大の緊急課題となっている2つの問題、すなわち貧困と気候変動について言及する予定である。
そして、これら2つの問題に関する議論が、気候変動緩和と開発に関する次世代の国際取組の方向性が形作られることになる2015年に、揃って予定されている。2015年9月には国連を舞台として、同年に期日を迎えるミレニアム開発目標(MDGs)後の枠組み合意に向けた交渉が、そしてそのわずか2カ月後にはパリで気候変動緩和のためのグローバルな合意確立に向けた会合が予定されている。持続可能な開発アジェンダと気候変動緩和のための国際合意が共に形成されることになる2015年は、国連にとって、また世界全体にとっても将来を決定づける瞬間となろう。
そこで大きな問題となるのは、いかにそうした機会を利用して、気候変動と貧困根絶に関する世界的取組をより野心的且つまとまりのあるものにできるか、ということである。
貧困緩和と人類の福利向上は、2000年にまとめられた当初のMDGsに盛り込まれているゴールである。MDGsが採択されて以降、世界は目覚ましい(だが一方で不均衡な)経済的発展と社会的発展を遂げており、今日、世界経済の成長を牽引しているのは途上国である。貧困緩和に関するMDGのターゲットは予定よりも5年早く達成されており、加えて、1990年から2010年までの間に20億人を超える人々が綺麗な飲料水を入手できるようになっている。
だが、世界は劇的に変化している。世界人口は2050年に90億人に達する勢いであり、今後20年の間に約30億人が中産階級に加わると予測される一方で、今なお13億人が(1日1.25米ドル未満で生活する)極端な貧困から抜け出せず、また10億人が1日1.25ドルから2.00ドルの生活を送っている。したがって、極端な貧困を2030年までに撲滅するという野心的な目標の達成に向けては、今後よりいっそう深化したコミットメントが各国に求められる。
同様に、気候変動問題の緊急性が益々明らかになってきている。世界全体で排出量は上昇傾向にあり、気候への影響はもはや遠い将来の脅威ではなく、既にその影響が現れ始めている。(2001年から2010年までの)10年間は記録上最も暑い10年であったが、今も北極海の氷は記録的なスピードで縮小しており、昨年9月には本来の半分の規模にまで減っている。また世界中で、気候変動との関連性が推測される猛烈な熱波や新型の疾病、食料価格の高騰が生じている。そして、既に脆弱な生活状況にある人々が、その影響を最も受けることになる。
貧困、開発、気候変動の関連は明らか且つ必至であり、気候変動の問題に目を向けなければ、開発目標の達成は遠のくことになるだろう。正しい方法で行われた場合、インフラ、農業、エネルギーといった従来的な開発課題への投資は、排出ガス削減に向けた最も効果的な方法の1つとなりうるが、これらのテーマについては多くの場合それぞれ異なる場で交渉され、また現場の取組にも協調は見られない。取組の成功のためには、世界のリーダーや国連関係者らが共通する課題について理解する必要がある。
例えば、ニジェールで農家が伝統的農法によって樹木や作物を栽培することで、砂漠化の緩和、降水量の増加、二酸化炭素の隔離、生産性の向上につながっている事例を見てみよう。ニジェールの穀物生産量は年間(250万人分の食料を賄うことが可能な)50万トンペースで増加しており、そうした取組は既に成果を上げつつある。賢明で持続可能な開発を行うことが、こうした種類の解決策を促すことにつながる。
インドネシアでは、二酸化炭素の増加によって海洋の酸性化が進み、珊瑚礁が危機的状況に陥っていることによって漁獲量が減少している。地方当局による保護海域の設定といった統合的対応策によって、観光業からの収入を増やすとともに魚類個体群の減少を食い止めることが可能であり、同時に気候変動に対する珊瑚礁の回復力が高まることも期待される。
それでは、よりまとまりのある野心的アプローチを生みだすためには何が必要だろうか。
第一に、貧困と気候変動という2つのアジェンダを同時に前進させることになる統一された政治的物語が必要である。政治や問題の複雑さ故に気候変動と持続可能な開発の交渉は個別に行われているが、気候変動と開発というのは表裏一体の問題なのである。
次に、これら2つのアジェンダの核心となる点は、公平さである。開発と気候変動の問題には、歴史に端を発する不平等と今現在生じている不平等とがつきまとう。途上国の貧困層は、気候変動の影響を最も受けやすい立場にあるが、問題の原因という点では最も責任がない。一方で先進国は、炭素公害を緩和するとともに、国内総生産の0.7パーセントに当たる支援の実施というコミットメントを履行すべきである。しかし、途上国と新興経済大国の側にも果たすべき役割は存在する。これらの国々では排出量が劇的に増加しており、 これらの国々が低炭素成長を真剣に目指すのでなければ気候変動緩和目標の達成は難しいものとなるであろう。
最後に、より大規模でより効果的な資金調達が必要とされている。これまでに約束されてきた公的支援では、目前に山積した課題には焼け石に水である。また、開発と気候変動に係わる計画立案プロセスや資金の流れに協調性がなければ、この2つの問題が競合する状況も生じうるが、そうならないよう、可能な限り相互の利益になる取組が求められる。
こうしたことはいずれも簡単ではないであろう。だが、得られる成果は極めて大きい。成果が上がることで、国際協力のためには是非とも必要な弾みがつくことになる。その一方で、対応が不十分なままに留まれば、多国間システムにとって大打撃となるだろう。
結局のところ、持続可能な開発と気候変動の問題に関して強力で公平なアプローチを実現することができれば、何十億という人々の生活向上につながるのである。世界のリーダー達は、それを実行に移す義務を負っているのである。
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本稿は、2013年9月20日の guardian.co.uk に掲載されたものです。
翻訳:日本コンベンションサービス
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