地球環境の変化が立ち往生の「罠」を生む

近年、環境の変化が移住にどのような影響を及ぼすのかということについて、理解が進み始めている。環境の変化はしばしば移住の促進要因を増幅させ、政治的緊張の深刻化や経済状況のさらなる悪化をもたらす可能性がある。

2016年9月に国連総会で採択されたニューヨーク宣言は、「環境の変動に伴う移住」の複雑な側面に注意を喚起している。この宣言は、環境の変化が移住や開発と複雑に交差していることを認めている。ニューヨーク宣言が環境の変化について特別なニュアンスで言及したことは、間違いなく、正しい方向に向かう重要な一歩である。議論の中心テーマとして扱われることのまれな環境移民の問題に取り組むために、確固としたフレームワークや方針が切実に求められる

しかしこの宣言は、環境の変化が移住の大きな促進要因だということは認めているものの、それが移住を「妨げる」場合もあるということを認識していない。環境の変化はしばしば、家族が必要に応じて移動しなければならない状況を妨げ、不本意に彼らを罠に陥れる。移住をよく理解するためには、移動したいという 需要と移動できる能力の両面からとらえる必要がある、とヨルゲン・カーリング氏は説得力をもって主張する。裕福で縁故に恵まれた世帯には移住するためのリソースがあるかもしれないが、貧しい世帯にはそれがない。したがって、移住は一部の人々にとって実行可能である一方、他の人々にとっては不可能なのである。

罠にかかった一般世帯は二重のジレンマに直面する。彼らは、環境の脅威から逃げられないうえに、そうした脅威によってもたらされる結果に対して最も脆弱な存在であり続けるのである。

世界の最も貧しい人々の多くは、自給自足経済を拠り所として基本的なニーズを満たしており、その生活と収入は現地の環境に大きく依存している。したがって、現地環境の悪化は移住の機会を著しく狭める。干ばつの深刻化、海面上昇、そしてますます予測不可能となりつつある気象状況によって、主な収入源が次第に失われ始めている

罠にかかった一般世帯は二重のジレンマに直面する。彼らは、環境の脅威から逃げられないうえに、そうした脅威によってもたらされる結果に対して最も脆弱な存在であり続けるのである。

その一例が、グアテマラ西部の高原地方に暮らす農民たちである。この人里離れたコミュニティは、昔から、収入を補うための手段として移住に頼ってきた。かつて豊富な降水量に恵まれていた頃は、各世帯には、グアテマラシティや国外に出稼ぎに出向く家族を送り出すだけの資金があった。こうした移民となった家族からの仕送りは、家計の重要な蓄えとなっていた。

しかし、降雨の不安定化が進むにつれて、移住は難しいものとなってきた。各世帯は農場で作ることのできるわずかな農産物に頼って暮らさざるを得ず、家族の誰かを移住させるような余裕はない。また、地元には農業以外の仕事がほとんどないため、必要な資金を手に入れるための代替手段は限られている。こうした状況から、彼らは罠に陥り、環境変化の影響を最も大きく被ることになってしまう。

環境の変化はアフリカにも大きな打撃をもたらしている。チャドでは、気温の上昇と広範囲にわたる干ばつによって、国内最大の湖が90%以上縮小した。気候予測によると、今後チャドでは作物収穫高が減少し、牧草地が劣化し、湖に頼って暮らしを立てている人々の生活がよりいっそう苦しくなるであろうとのことである。過去30年間にわたって急激な環境の変化を経験したソマリアでも同様の状況が見られる。チャドと同じく、干ばつと進行中の紛争が人々の生活基盤を損ない、代替収入源である移住に頼ることができなくなってしまった人々もいる。ソマリアでは、約320万人の人々が深刻な「食料不安」状態にあると考えられている

立ち往生の罠の大部分は低所得国で見られるが、高所得国も同様の状況に苦しんでいる。2005年にハリケーン・カトリーナが発生した際、ニューオーリンズの裕福な住民は予め移動することにより、嵐の被害を回避することができたが、他方、貧しい住民は、大部分が自宅にとどまるか、仮設シェルターに頼らざるを得なかった

何らかの行動を起こさない限り、ハリケーン・カトリーナのような自然災害の人的影響はますます深刻化するだろう。最近の推定によれば、容赦ない気候変動は米国経済に深刻な打撃を与える可能性があり、米国の最貧レベルの郡では最大で20%の収入が失われるとのことである。

家族を移住させられる金銭的資本を持たない世帯は、荒廃の進む環境下において生産可能なもののみを頼みとして暮らしていかざるを得ないのである。

世界銀行の推定によれば、急速かつ包摂的な開発が行われない場合、環境の変化によって2030年までに1億人の人々が再び貧困状態に追いやられる可能性がある。政府や援助機関からの開発支援がなければ、気候変動やその他環境変化により、脆弱な人々をさらに罠にかけてしまう危険性がある。家族を移住させられる金銭的資本を持たない世帯は、荒廃の進む環境下において生産可能なもののみを頼みとして暮らしていかざるを得ないのである。

この点に関して、政府は環境変化の悪影響を抑制するために重要な役割を果たすことができる。ベトナムの経験からも、政府には、農村コミュニティが環境の変化をはじめとする状況の変化に適応できるよう積極的な支援を行うことが可能であることがわかる。

包括的な枠組みを構築し、異文化間の共通の価値観を促進することにより、政府はこうした立ち往生の罠がもたらす最悪の事態の緩和に向け、大きな役割を果たすことができる。また、国際社会がこうした方向に向かっているということを示す兆候も見られている。ニューヨーク宣言は、移住のさまざまな促進要因を認めただけでなく、長期的な開発ニーズに関するさらなる連携をも促している。これには環境劣化との闘いも含まれる。

断片化したガバナンスは罠に陥る世帯の数を増やすだけである。最も脆弱な人々の移住を妨げる障壁は、現状を悪化させるだけである。例えば、移住の非財務的障壁が高くなれば(ビザの発給要件の厳格化など)、正規の計画的な移住がますます困難になり、非正規の危険な移住形態が増えることになる。

間もなく策定される移住に関するグローバル・コンパクトでは、これら検討事項において注意深くバランスをとる必要があるだろう。

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著者

バヴォ・スティーブンス氏は、国連大学グローバリゼーション・文化・モビリティ研究所(UNU-GCM)のジュニア・リサーチ・フェローである。キングス・カレッジ・ロンドンで戦争研究の修士号、シカゴ大学で政治学の学士号を取得した。研究対象は、移住および強制退去、政軍関係、紛争時の暴力のダイナミクスである。

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