日本には今年、8月の台風15号と20号をはじめ、9月の台風21号、台風24号と極めて強力な台風が上陸した。直撃を受けた都道府県では、死者が出たほか、鉄道のダイヤが乱れ、停電で学校や企業が混乱し多くの人々が影響を受けた。日本以外でも、全世界で似たような災害が定期的に生じている。
防災・減災の効果を含め、災害と気候変動のインパクトに関する世界のトレンドは、死者や被災者の数、経済的損失などいくつかの指標で測定されている。防災に関する日本や世界の課題と取り組みについて触れたい。
頻度増す気象災害
災害のインパクトを測定する第1の尺度は、1年間に起きる災害の頻度だ。全世界の災害件数は1900年以来増加してきた。1950年代には人口の増加や都市化、急激な工業開発と相まって災害の件数は急激に増え、2000年代初頭に年間500件強とピークに達した。世界的な防災への取り組みにより、その後は減少しているが、依然として年平均で400件と高い頻度を保っている。最も頻繁に生じている災害は洪水である。
第2の尺度は死者の数だ。1920年〜1939年の20年間で1千万人を超えていた死者数は、2000年以降、10分の1にまで激減している。日本では1960年代以降、洪水や台風などの水害による死者数が大きく減少しているが、これは具体的に洪水管理システムの改善、インフラの整備、そして早期警報システムを導入した成果と言える。
第3の尺度は、被災者の数だ。これは死者だけでなく、日常生活において影響を受けた人々の数で、具体的には通勤や通学ができなくなったり避難を強いられたりする人々がここに含まれる。注目すべきは、気候変動による災害(洪水、干ばつ、台風その他の異常気象)はあらゆる種類の災害の中でも生活へのインパクトが最も大きく、頻度が高いという点だ。気候変動による災害がもたらす被災者の数は1960年代以降、確実に上昇しており、私が主執筆者の一人を務めた1.5℃温暖化のインパクトに関する「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)特別報告書」でも、緩やかに進行する異常気象、突発性の異常気象の激化が予測されている。
高齢化で災害対応難しく
将来の被災者数について論じるには、脆弱性の議論が重要だ。脆弱性は、災害リスクを想定した経済、教育およびインフラ面の措置と関連づけて議論され、脆弱性の高い国は低い国よりも災害で大きなインパクトを受ける。例えば、フィリピンが洪水や台風に見舞われると、日本で同じ災害が起きた場合よりも死傷者が多くなるが、これは日本のほうが経済力や教育水準、インフラ整備、さらには防災、早期警報、緊急事態管理システムといった点でフィリピンを上回っているからだ。しかし、一方で日本もまたリスクを抱えている。女性、子ども、高齢者は災害に対する脆弱性が特に高いが、日本社会の高齢化は脆弱性を高める大きな要因の一つだ。事実、今年の夏に岡山と広島を襲った洪水では、これまでに経験したことのない豪雨によって多くの高齢者が被災し、死者が出る深刻な事態となった。
災害による経済的損失も世界的な懸念である。死者を含む被災者の数が多いのは開発途上国だが、北米やヨーロッパ、オーストラリア、東アジアなどの先進国では経済的損失がより大きくなる。なぜなら災害はインフラに影響を及ぼし、時にはこれを破壊するだけでなく経済活動にも混乱をもたらすからだ。経済的損失を減らすためには、災害リクスを考慮した持続可能なインフラ投資が必要である。
2015年に国連加盟国が採択した仙台防災枠組は人命、暮らし、健康、個人、企業、コミュニティ、国の経済的、物理的、社会的、文化的、環境的資産に対する災害リスクおよび損失の大幅削減を目標としている。将来的に災害が激化し、さらに深刻なインパクトをもたらすことを考えれば、政府や非政府組織(NGO)、企業といった民間組織から大学、コミュニティに至るまで、あらゆる主体による取り組みと連携が必要だ。しかも、日本では市町村や県のほうが災害により効果的に、迅速に対応できることも分かっている。さらに充実した防災の実現には、災害対応能力の向上に取り組む地方自治体へのサポートも重要だ。
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本文に記載された数値は、「災害情報データベース(EM-DAT)」より引用しています。
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この記事は環境新聞で最初に公表されたものであり、許可を得て転載しています(一部編集しています)。