グラハム・K・マクドナルド氏はミネソタ大学環境研究所(Institute on the Environment)で博士号取得後の研究を行っており、グローバル・ランドスケープ・イニシアチブ(Global Landscapes Initiative)に携わっている。
今日よく耳にするのは、増加を続ける世界人口の需要に応えるためには、農業生産高を大幅に増やさなければならないということだ。だが、どこで生産性が変化するか、またどこで人口増加が起こるかによって、生産者から消費者に食料が届くようにするためには、国際貿易の必要性が今後一層増すかもしれない。
Environmental Research Letters (環境研究報告)に掲載された新たな調査において、著者のマリアネラ・フェイダー氏らは貴重な思考実験を行い、このような生産者と消費者の地理的な乖離とそれが食料安全保障に及ぼす影響について緻密な見解を示している。著者らが明らかにしようとしたのは、2000年頃にはどの国が国内生産だけで必要な食料を賄うことができたのか、またそれに対して2050年に向けた各シナリオでは、どの国が前もって備えられるかである。
著者らは、現在および広範囲で改善した生産性を想定して、利用可能な再生水と土地の資源の制約が一人あたりの国内作物生産高にどの程度影響するかについて調べた。その結果、浮かび上がってきたポイントは、しばしば見落とされるものながら、直観的に察せられるものである。つまり、一部の国々では、生産性をかなり向上させないかぎり、人口増加に伴って輸入食料への依存度はますます高くなるだろうということだ。
どのような国でも、国内だけで必要な食料を生産するように言われて聞き入れることはないだろうが、食料自給が潜在的にどれほど可能かは一考の価値がある。
作物の輸入は選択の結果なのかもしれないが、利用可能な土地や水資源および生産性により生産量が制限されるなら、必要性に迫られた行動のひとつである。ただし、食料輸入への依存は不確定要素をはらむ。つまり、干ばつなどの要因から生産高が減少した場合は価格が変動し、時には輸出制限措置までとられるため、安定した条件による輸入を望む国々は難題を抱えることになる。
過去10年間において、世界人口の11%しか占めないわずか8ヵ国が、穀類輸出量の70%を生産していた。
この不確定性をさらに複雑にしているのは、比較的少数の国々が世界市場に出回る主要商品作物を大量に生産していることだ。国際連合食糧農業機関(FAO)の2013年のデータによると、 世界人口の11%しか占めないわずか8ヵ国が、過去10年においては穀類輸出量の平均70%を生産していたのである。貿易ネットワークには常に動きがあるが、純輸入国の中には、特定の生産国と盤石の関係を築いて、非常に大量の作物が輸送されているケースもある。
フェイダー氏らの調査で示された重要な点のひとつは、理論的には多くの国で、現在、輸入している作物を国内で生産できること、すなわち食料自給が可能ということだ。この潜在的な可能性を活かせれば、人口増加に合わせて輸入量を積み増す必要性を抑えることができる。
しかし、彼らが想定する正反対の極端なシナリオ、すなわち生産性がまったく伸びず、農地が一切拡大されず、人口が急激に増えた場合は、2050年までに世界の人口の約51%が輸入に依存することになる。
現実にはなりそうにないが、このケースからは、作物需要がそのように急増すると、生産国全体にはどのような跳ね返りがあるのかという疑問が浮かび上がる。もっとも輸出国は土地利用に関する政策や穀物備蓄に関する懸念、気候変動の影響などのさまざまな内外の要因に合わせて、生産高に対する輸出の割合を変えることができる。
一方、サミール・スエズ氏と同僚の研究者が行った最近の研究によると、水資源が豊かな国々でも、世界的な変化の潮流の中では、現在の作物輸出率を維持することはおそらく不可能で、その影響を緩和する対策が取られなければ、世界の食料貿易関係全体も持続させるのは困難ではないかという。
比較的少数の国々が多数の食料安全保障を担っているという役割分担の偏重は、主要な作物の生産地を考えれば明らかだ。これらの主要作物を輸入しているのは、フェイダー氏らによると、資源限界をすでに超えているために、食料自給が制限されている国々である(図をご覧ください)。
世界地図はフェイダー氏らの 図 1(B)に基づいている。黒く塗られているのは、2000年頃に土地か水資源のうち、少なくともいずれかの限界を超えていた国々である。線の太さは輸入熱量(キロカロリー)を相対的に示しており、その計算については、FAOの 輸入統計(2013)と作物熱量(2001)を用い、2000年から2010年までの期間の平均を求めた。土地あるいは水資源の限界のいずれかを超えた国々間での内部貿易は合計しても6%未満であった。小規模な島国およびどこから輸入したかを報告しなかった11ヵ国はここには含まれていない。
フェイダー氏らの潜在的な作物生産力の予測は包括的なグローバルモデルから導き出されたものだが、輸入依存をさらに強める、あるいは収穫予測曲線の修正が必要になるいくつかの要因がある。たとえば、収入の平均が増えると肉類の消費が増えるのは往々にしてあることだが、これにより一部の地域では、作物需要が人口増加に起因する以上に増加することになる。
そのような傾向は、国外の土地および水資源への直接的あるいは間接的な依存に拍車をかける。世界の作物生産性シミュレーションと地域の作物反応モデルを比較すると、管理における介入や変動する気候がどのように地域全体で達成可能な一人当たりの生産高に良い影響あるいは悪い影響を及ぼすかが理解しやすくなる。
さらに、フェイダー氏らの調査で用いられていた農地拡大シナリオは楽観的である。彼らは1,320万平方キロメートルという相当な土地基盤があることを見込んでいるが、それが100%利用されたら、2000年に生産が行われていた1,510万平方キロメートル(FAO 2013)のほぼ2倍になる。
過去数年の研究によると、私たちは耕作に適した世界の主要な土地をすでに大方使ってしまっていて、一部では主要な作物の生産性は頭打ち傾向だ。したがって、まったく新しい広大な土地からそれに匹敵するほどの収穫を上げることは考えられない。だが、特定の農場管理手法および需要主導型のフィードバックが貿易パターンをどのように変えるかを考え、フェイダー氏らの調査をベンチマークとして並べてみると、貴重な比較ができるだろう。
食料生産地と消費地の乖離が今後も続けば、地域の食料安全保障にとって各国間の平等と協調がますます重要になるかもしれない。生産性が大幅に伸び、農地が広範囲で拡大しても、フェイダー氏らは、最大30ヵ国(ほとんどが低所得国)が資源の制約に縛られて、これからも輸入に依存するだろうと述べている。
生産性の下落や価格の変動に最も脆弱な貧困国の食料安全保障は、輸入食料を手に入れる余裕がある一部の人々の経済力にかかっている。生産高が上下することによる作物商品価格の変動は今後、個々の世帯の生活の質に不均衡な影響を及ぼしうるが、輸出作物を生産する他の低所得国はおそらく利益を得ることができる。
食料生産地と消費地の乖離が今後も続けば、地域の食料安全保障にとって各国間の平等と協調がますます重要になるかもしれない。
2000年頃、食料を輸入に依存している割合は世界人口の16%だったが、輸入依存度が今後、そのレベルより著しく高くなれば、最も脆弱な純食料輸入国の食料不安を緩和するために、協調的な貿易政策が欠かせないものになるかもしれない。
一人あたりの作物必要量を満たす国の能力を定量化することにより、真に広範囲にわたって生産性の改善を図ることの重要性があらためて示されている。それは、輸出される作物の生産がすでに一部の国々に集中していることを考えるとなおさらである。
フェイダー氏らの調査によって新たに得られた洞察から、人々が生活する場所と食料が栽培される場所の乖離が広がることにより、海外生産依存のさらなる緊密化、あるいは純輸入国全体における農地の大規模な拡大が、どれほど必要になるかが明らかになった。潜在的な国内作物生産力にこの課題の主眼を置くと、ごくわずかな生産性の改善も、その双方を緩和するのにおおいに役立つことがわかる。
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翻訳:ユニカルインターナショナル
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