遺伝子組み換え作物は生き残りの手段

「倫理的理由やその他の理由があるにせよ、遺伝子組み換え作物栽培に反対する動きは、もはや容認すべきではありません」英国政府最高科学顧問ジョン・べディントン博士は警告する。彼の主張によると、世界は今、破滅的な状況に向かっており、今後20~30年で大々的な食料不足と世情不安が起こるかもしれない。この警告は北アフリカでの食料暴動が起こり、食料価格高騰に対する世界的な懸念が高まる中、発せられたものだ。

「数々の重要な要因によって世界が変わりつつあります」と人口生物学の専門家であるベディントン博士は述べる。「世界人口は毎月600万人ずつ増加しており、2050年には90億人に上るでしょう。また2030年には人口の60%以上が都市で暮らすようになり、作物栽培や畜産業には携わっていないでしょう。それに加えて人々はより裕福になりつつあり、更に多くの食料にお金を払うことをいといません」

ベディントン博士が言うには、今世紀中旬までに、世界は現在の食料の4割増が必要で、水は3割増、エネルギーは5割増必要である。その頃には地球温暖化の深刻な影響が出ており、海岸沿いの平野を洪水が襲い、砂漠が広がり、気温は上昇しているだろう。

「熱帯雨林の木々を伐採し、サバンナに作物を植えて食料を得るという手もありますが、そんなことをすれば、地球はますます気候温暖化と気候変動の影響を受けやすくなってしまいます。森林やサバンナは排出された二酸化炭素を吸収するために必要なのです」

食料の現実に向き合う

べディントン博士によれば、人類は食料生産を改善するために、ありとあらゆる手段を尽くさねばならない段階にあり、その現実と向き合わなければならない。それにはバイオテクノロジーの手法をより広く使用することも含まれる。ただし、彼は人類や環境に害を与えるべきではないと強調している。彼の発言は24日発表の「The Future of Food and Farming (食料と農業の未来)」という重要な報告書の発表に先立ってのものだ。

この報告書は、地球の破滅を食い止める運動に注目を集めようという試みである。重要な点だが、この報告書は英国環境・食料・農村地域省(DEFRA)に対してだけではなく、英国の対外援助を管理する国際開発省に対しても発表された。ベディントン博士は来月にはこの報告書の詳細をワシントンでも発表する予定である。他にG8やG20サミットも含む他のイベントでもこの内容が議論されることを彼は願っている。

万能の解決策などはありませんが、遺伝子組み換えのような新しい技術を使用しないことを正当化するなど、どう考えても分別のあることとは思えません。 (英国政府最高科学顧問ジョン・べディントン博士)

彼は、世界的食料生産におけるGM(遺伝子組み換え)作物も含めた現代的バイオテクノロジー技法の役割を強調する。「万能の解決策などはありませんが、遺伝子組み換えのような新しい技術を使用しないことを正当化するなど、どう考えても分別のあることとは思えません。今、世界が抱える問題を直視してみてください。水不足、現存の供給水の塩水化もそうです。遺伝子組み換え作物はそれに対処できるのです」

このような発言は環境保護団体の多くの人々を怒らせるだろう。彼らは西洋諸国が開発したテクノロジーを第三世界で利用するのは間違っていると考えている。しかしベディントン博士は遺伝子組み換え作物の利点について信じて疑わない。

「食料の30%が、収穫の前に害虫に食べられてしまいます。それらの害虫の管理の仕方がわかっていないからです。こんな損失を出し続けるわけには行きません。遺伝子組み換えによって、例えば、害虫に強い種類を開発することができるのです。もちろん、人にも環境にも害がないことを、適切なテストで確かめることは必須です」

遺伝子組み換え以外の手段も必要

遺伝子組み換え作物だけでは、広がる飢餓を食い止めるには不十分だ、と博士は続ける。今世紀の終わりまで、ほんのひとつのアプローチだけで全ての人々の食料を確保することはできない。適切な持続可能性の発展、魚種資源の保護、消費パターンの変化も不可欠だ。

「この報告書は、90億の人々が持続可能な形で、健康に、不均衡なく食料を得られる方法を見つけるために書かれたものです。これは可能なことですが、この難題をクリアするには様々なアプローチを駆使することが必要です」

今、行動を起こさなければ今後10年から20年の間に問題が深刻化しないはずがありません。可能な限り幅広い手段を使わなければならないのです。(英国政府最高科学顧問ジョン・べディントン博士)

タイミングは極めて重要だった。「2008年食料価格はここ数十年の間で最高水準になりました。あれは一度きりのことだと言う人もいましたが、昨年何が起こったでしょう?小麦の価格はこれまでにない勢いで一気に上昇しました。食料価格下落の時代は終わったのです。それに直面しなければなりません」

およそ10億人が深刻な食料不足に苦しみ、飢えている。「今、行動を起こさなければ今後10年から20年の間に問題が深刻化しないはずがありません。可能な限り幅広い手段を使わなければならないのです」

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この記事は2011年1月23日日曜日guardian.co.ukで公表したものです。

翻訳:石原明子

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著者

ロビン・マッキー氏は英国紙「オブザーバー」の科学技術部の編集者である。