ジェシカ・アルフレッド氏はガーディアン紙の環境問題担当のエディターである。
水中の科学探索の新手法によって、9月26日から何百万もの人々がグーグルマップでグレートバリアリーフへのバーチャルなダイビングを楽しむことができるようになった。
「カトリン・シービュー・サーベイ(Catlin Seaview survey)」が、最先端のテクノロジーを駆使してサンゴ礁の組成や状態を調査研究している科学者たちの発見をインターネットユーザーと共有してくれるのだ。
サンゴ礁では世界初の水中の全方位カメラで5万枚もの高画質のパノラマ画像が撮影され、 地理位置情報が記録される。高速連写された画像がつなぎ合わさって見えるので、閲覧者はサンゴ礁の場所を特定して飛び込み、グーグルマップのストリートビュー機能をコントロールしながらスキューバダイビングのバーチャル体験を楽しめるというわけだ。
ハワイ、フィリピンでの撮影に加え、グレートバリアリーフでも既に3つの島で水中撮影は完了しており、9月26日から閲覧が可能になっている。長さ2300キロ、深さ100メートルに及ぶ20カ所に分かれているサンゴ礁の地図を科学者が作成することで、新たな映像も追加される。
これらの画像は、毎月約10億人が閲覧するグーグルマップで公開される。またdedicated YouTube channel、Google+、地理位置情報共有サイトPanoramioでも見られる。この調査はカリフォルニア州モンタレーで開催されたBlue Ocean film festival(ブルーオーシャン映画祭)のGoogle+ Hangoutというサイト上での夜のダイビング生中継で始まった。
3カ月に及ぶオーストラリアのサンゴ礁体系調査は「カトリン・シービュー・サーベイ」による世界のサンゴ礁を探査し記録するシリーズの第一回目だ。来年には調査団はハワイ、フィリピン、バミューダを調査する。
この調査は、これまでは想像もつかなかった方法で水中体験を一般の人々にもしてもらおうというもので、科学者の認識と一般大衆の知識のギャップを埋めようという狙いがある。これはイギリスの保険会社が出資し、グーグル、複数のNGO、研究機関、クイーンズランド大学(UQ)が提携して行ったものだ。
「科学的には、この調査は世界のサンゴ礁の基本情報と気候変動による影響を記録するものです」このプロジェクトの主任研究員であるUQのグローバル・チェンジ・インスティチュートのオヴェ・ホエ・グルドバーグ教授は語る。「と同時に、このプロジェクトは一般大衆にこの問題に触れてもらうためのものでもあります。私たちのほとんどはサンゴ礁にダイビングする機会などありませんが、このツールを使えばサンゴ礁の美しさやその多様性がどんなものか知ることができるのです」
世界の約50%のサンゴ礁が過去30年の間に公害、魚の乱獲、気候変動によって失われた。それによって海水の温度が上昇し、海水の酸性化が進んでいる。サンゴ礁は世界で数百万人の生活と、海洋種の4分の1を支える、海洋の健全さを示す重要なバロメーターなのである。
浅いサンゴ礁の調査では科学者が最新のデジタルテクノロジーを駆使して撮影したサンゴ礁の画像がつなぎ合わさってバーチャルなダイビング体験ができるようになっている。大量のサンゴやその他の生物を高速で自動的に評価するテクノロジーは、変化を理解するための「基本情報」を与えてくれる。浅いサンゴ礁の調査に使用されるSVIIは360度パノラマ画像を時速4キロで移動しながら4~6秒ごとに撮影できる特殊なもので、このプロジェクトのために開発された。
深海のサンゴ礁の調査にはダイビングロボットとHDカメラを使い、人間がほとんど立ち入ったことのない生息地を探査することができる。深度が40メートル以上ではスキューバダイビングは不可能なためグレートバリアリーフのような生態系はその90%がいまだに探索されたことがない。
科学者たちは深海探査を行い、気候変動によって浅いサンゴ礁に起こっている白化やその他の変化によるストレスに苦しむ種を深いサンゴ礁で“避難民”として受け入れられないか、可能性を探ろうとしている。
また新しい種の発見も期待されている。ヘロン島での予備研究では新種のピグミーシーホースと新種のサンゴが4種見つかっている。
「気候変動と自然の生態系のしくみを理解する素晴らしい機会です」とホエ・グルドバーグ教授は言う。 「3年間の調査が終わる頃にはこの惑星のサンゴ礁状態についての全貌が理解できることでしょう」
集められた全てのデータは、ホエ・グルドバーグ教授が「考え方を根底から覆す科学ツール」と呼ぶGlobal Reef Record (世界のサンゴの記録)というデータベース上で公開される。「これによって現在と未来の海洋環境の変化が観測できます。サンゴ礁に関して研究している海洋科学者であれば、対象が浅いサンゴ礁であれ深いサンゴ礁であれ、私たちが行っている調査から学ぶことがあるはずです」
「この特別な水中の場所を、できるだけ多くの人々に見ていただきたいと思います。毎日グーグルマップで道路やランドマークを探すのと同じようにね」グーグルOceansのマネージャー、ジェニファー・オースティン・フォークス氏はこう話した。
この調査は2月にシンガポールで開催された世界海洋サミットで報告された。
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この記事は2012年9月26日、 guardian.co.ukで公表したものです。
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