グリーンエネルギーの転換点は近い?

2010年08月03日 ブレンダン・バレット ロイヤルメルボルン工科大学

機械工学者で起業家のソール・グリフィス氏はGameplan: A Solution Framework for the Climate Challenge(ゲームプラン:気候問題の解決の枠組み)の中で、エネルギーに関する新たなシナリオを発表した。そのシナリオに基づけば、2033年時点での大気中のCO2濃度の上昇は想定内の450ppmでとどまり、地球の気温上昇は摂氏2度以内に抑えられるという。

ゲームプランは、グリフィス氏が2008年にFoo Camp(フー・キャンプ)で行った見事なプレゼンテーションだった。フー・キャンプとは「非会議」と命名された、年1回の「ハッカー」の集会だ。そのプランはグリーンエネルギーを導入するための6段階モデルを提示したばかりでなく、年間2300ワット以内で生活することで気候変動への影響を抑えるグリフィス氏自身の努力も紹介した。(彼の生活が現在どのようなものかは不明)

彼のプランでは、2033年のエネルギーミックスは化石燃料や原子力および再生可能資源(主に水力)を利用した既存の発電施設が供給する4テラワット(TW)を含む、合計15TWとされている。しかし既存の施設による供給以外に、炭素を排出しない発電方法によって11TWを作り出す必要がある。その内訳は新たな原子力発電所による3TWと、地熱、風力、太陽熱および太陽光発電施設による8TWだ。その状況に到達するには、世界のエネルギーシステムは劇的な変化を遂げなくてはならない。例えば、100平方メートルの太陽電池と50平方メートルの太陽熱発電用の反射板を、今後25年間にわたり毎秒製作し、設置し続けなくてはならない。さらに、3メガワット(MW)の風力タービンを1時間に12基ずつ主要な地域に建設し、3ギガワット(GW)の原子力発電所を毎週1か所、100MWの蒸気タービンを毎日3基ずつ、25年間建設し続けなくてはならない。

[単位について:1キロワット(KW)=1000ワット、1メガワット(MW)=100万ワット、1ギガワット(GW)=10億ワット、1テラワット=1兆ワット]

グリフィス氏の推算は驚異的なものだが、同様に世界の産業が示す数字にも驚かされる。例えば、たった1社の携帯電話会社が毎秒9台の携帯電話を生産しているし、ある自動車メーカーは2分に1台の割合で自動車を生産している。私たちがこの状況を続けたいと願えば、それも可能だ。しかし、あまりピンとこないかもしれないが、REN21(21世紀のための自然エネルギー政策ネットワーク)が「Renewables 2010: Global Status Report(自然エネルギー2010:世界の現状に関する報告書)」と題して先週発表した新たな報告によれば、再生可能エネルギーの利用拡大にとって好ましいティッピング・ポイント(転換点)が近づきつつあるかもしれないのだ。

グラスは半分まで満たされている

ワールドウォッチ研究所の所長クリストファー・フレイヴィン氏は、同報告書に関する論評でティッピング・ポイントについて言及し、その到来は「世界経済と環境に、とてつもなく大きな影響を及ぼすだろう」と主張した。

「再生可能エネルギーは、何百もの新たなエネルギー政策、加速しつつある個人投資、そしてこの5年間の数限りない技術の進歩に支えられて、エネルギー市場の主流になりつつあります」とフレイヴィン氏は言う。

「2009年末現在、再生可能エネルギーによる発電量は1230GWで、世界の総発電量の25%以上を占めます。これは原子力発電量の3倍以上であり、化石燃料に頼る世界中の発電所の総発電量のおよそ38%に当たるのです」と彼は説明する。

さらに、再生可能エネルギーは推定300万人の雇用を生み出す。

再生可能エネルギーは、何百もの新たなエネルギー政策、加速しつつある個人投資、そしてこの5年間の数限りない技術の進歩に支えられて、エネルギー市場の主流になりつつあります。(ワールドウォッチ研究所の所長クリストファー・フレイヴィン氏)

中でも、風力発電部門は非常に好調な伸びを見せている。2005年以降は年率27%の成長を遂げた結果、2009年末には159GWに達し、主にアメリカ合衆国、中国、ドイツ、スペイン、インドで好調だ。

また系統連系形の太陽光発電も驚くべき成長を遂げており、2009年末の発電量は2000年の100倍の21GWにまで増えた。

国連環境計画(UNEP)は「持続可能なエネルギーへの投資の世界的動向2010」を発表した。「自然エネルギー2010」と対になる形で同時期に発表されたこの報告書によれば、グリーンエネルギー部門への2009年の投資額は1620億USドルを記録し、前年から7%落ち込み、世界的不況の影響が示されたという。

UNEP事務局長のアヒム・シュタイナー氏は楽観的な姿勢を崩さない。彼は2009年の投資額が「史上2番目に高く(しかも2004年の4倍)、新たな発電施設への支出は2年連続で、化石燃料を利用する新たな発電施設への投資を上回った」と主張する。

両報告書が指摘するもう一つの顕著な変化に、再生可能エネルギーの地理的な移行がある。例えば、電力生産のリーダーシップがヨーロッパからアジアへ、特に中国、インド、韓国へ移行しているようだ。2009年、中国人は再生可能エネルギー市場に337億ドルを投資し、今では世界の太陽光発電供給量の40%を生産している事実が示すように、中国は再生可能エネルギーの主要な推進力となっている。

楽観主義者なら再生可能エネルギーの利用が拡大しつつある現状を見て、「すでにグラスは半分まで満たされていて、しかも水が注がれる速度は速い」と感じるに違いない。しかし、それはどの程度、真実だろうか?

スピードをもっと上げる必要がある

2009年の風力発電量(38GW)の実際の増加率と、ソール・グリフィス氏が推測する必要増加率を比較した概算によると、現状は本来必要な増加率の半分でしかない。しかし、2009年の新たな地熱、太陽熱、太陽光発電量は、必要とされる規模と比較すると、ほとんど成長していないと言えるほどだ。前年から増加した発電量は、地熱発電ではわずか0.4GW、太陽光発電では7GW、太陽熱発電では0.2GWである。

2009年の新たな地熱、太陽熱、太陽光発電量は、必要とされる規模と比較すると、ほとんど成長していないと言えるほどだ。

確かに「世間の『ソール・グリフィスたち』になぜ耳を傾ける必要があるのか?」という疑問が湧くかもしれない。しかしそのような疑問は問題ではない。本当の問題は「自然エネルギー2010」の要約で明記されているように、両報告書があえて「分析、現状の問題の議論、将来の予測」はしないという点だ。

しかし、分析や現状の問題の議論や将来の予測をしないのはなぜか?従来の化石燃料部門からの反動を恐れているためか?しかも今後の予測や予想なら、例えばアメリカ合衆国エネルギー情報局からすでに公表されているのだ。重要なのは、現在私たちが直面しているエネルギーの現状を、報告書の作成に携わった再生可能エネルギーの専門家たち全員がどのように認識しているのかを知ることだ。さらに彼らが将来への最善策として何を提言し、特に再生可能エネルギーの開発を速めるためにどんな対策を提示しているのかを知ることが重要だ。

実際UNEPのアヒム・シュタイナー氏は率直な言葉で警告している。彼は「今世紀半ばまでに危険な気候変動を避けるには2020年の世界がどうあるべきかという点について、理想と科学の間にギャップ」があると述べている。

「もし適正なグリーン経済政策が加速し、国内外で定着すれば、風力や地熱、太陽光、太陽熱を利用した持続可能なエネルギーがそのギャップを埋める役割を果たすでしょう」と彼は言う。

前述の報告書は役立つものだが、それらに加えて恐らく私たちに必要なのは、エネルギー問題の新たな解決法をベースとした物語だ。その物語はまだ語られていない。2010年、新しく誕生した国際再生可能エネルギー機関が活動し始めたが、その使命と活動資源は問題の規模から見れば取るに足らないように思われる。確かに再生可能エネルギー技術の知識の普及には役立つかもしれないが、そういった技術が導入されるスピードに著しい効果を表わすかどうかは疑わしい。

変化を起こすには、この新しい機関やUNEPのような組織や国際エネルギー機関が、新しい再生可能エネルギー革命の推進に乗り出す必要がある。求められる変化の領域は、カール-A・フェヒナー氏による新しい映画「The 4th Revolution(第4の革命)」に描かれている。

近いうちに、この映画に関する記事をお届けしたいと思うが、今回は予告編をご覧いただきたい。作品の中心となるメッセージは楽観的で、かつラディカルだ。すなわち、私たちは再生可能エネルギーに100%切り替えることが可能であり、しかも短期間に転換できるというものだ。この主張はエネルギー部門の有力者たちに「非現実的だ」と常に攻撃される。しかし、激化する化石燃料の争奪戦と悪化し続ける気候変動の展望に基づく私たちの現在の生活様式は、いったいどのくらい現実的だろうか?

この重要な転換を行うには、エネルギーシステムの構造的変化が必要であり、その一つの結果としてエネルギー生産の民主化が進むかもしれない。こうした考えは明らかに、今日主流である化石燃料をベースとしたエネルギー資源を有する一部の人々には受け入れにくいものだ。しかしフレイヴィン氏が示唆したように、グリーンエネルギーのティッピング・ポイントが本当に到来したのなら、そのチャンスを逃さずに最大限の支援をするべきなのだ。

翻訳:髙﨑文子

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著者

ブレンダン・バレット

ロイヤルメルボルン工科大学

ブレンダン・バレットは、東京にある国連大学サステイナビリティ高等研究所の客員研究員であり、ロイヤルメルボルン工科大学 (RMIT) の特別研究員である。民間部門、大学・研究機関、国際機関での職歴がある。ウェブと情報テクノロジーを駆使し、環境と人間安全保障の問題に関する情報伝達や講義、また研究をおこなっている。RMITに加わる前は、国連機関である国連環境計画と国連大学で、約20年にわたり勤務した。