マーク・アンドリュー・ボイヤー氏はサンフランシスコのベイエリアを拠点とする写真家であり作家である。彼の作品は『GOOD』、『Inhabitat』、『Mindful Metropolis』などで発表されている。
マサチューセッツ・アベニュー公園は、親が子供を連れていきたい場所ではなかった。この小さな公園はニューヨーク州バッファローのウェストサイド地区の中心にあり、かつては小さな遊び場とボロボロのバスケットボール・コートがある空き地に過ぎなかった。
「本当にひどい有様でした」とテリー・リチャードさんは語る。彼女はトリニダード・トバゴで生まれ、その後ブルックリンからバッファローに移住した。「そこで私たちは考えました……この状況を私たちが課題として引き受け、市が問題にきちんと対処するように働きかけたらどうかと考えたのです」と、明るい笑みを浮かべながら新しい遊び場の脇に立つ彼女は語った。
バッファローは、エリー湖の湖水がナイアガラ川の急流に流れ込む地点に位置する。19世紀末、穀物の出荷や貯蔵の主要中心地として発展したが、輸送ルートが変わり重工業が五大湖地域から撤退すると、バッファローの人口は急速に減少した。1950年、人口は約58万人だったが、2010年の統計では約26万人に落ち込んだ。
しかし縮減しているのは人口だけではない。ラストベルト地帯(斜陽化工業地帯)にある他の都市と同様に、バッファローの雇用数は下落し、税収基盤は縮小しており、街のインフラストラクチャーを維持することが難しい。マサチューセッツ・アベニュー公園の再生は、街じゅうで具体化しつつある多くの物語とよく似ている。市当局が状況を改善してくれるのを待つのではなく、リチャードさんのような住民が自分たちの手で問題に対処しているのだ。
リチャードさんはPeople United for Sustainable Housing(PUSH、持続可能な住宅のために団結する人々)のメンバーである。PUSHはバッファローを拠点とする草の根組織で、環境に優しく手頃な価格の住宅や職業訓練を提供しようとしている。
6月初旬にPUSHは、小さいながらも心地よい新しいマサチューセッツ・アベニュー公園の第1段階の工事終了を記念し、公園を開放した。これはプロジェクトのための資金を市役所におよそ2年間、請願した結果だった。ただし、この公園はウェストサイドにグリーン開発ゾーンを作り出すというPUSHのより大規模な計画の一部に過ぎない。グリーン開発ゾーンには25ブロックが含まれており、そこでPUSHは持続可能で、手頃な価格の住居を開発するとともに、近隣住民のために新たな雇用機会を創造している。
バッファローの多くの地域と同様に、ウェストサイドには多くの空き地が存在する。PUSHの共同創立者であるアーロン・バートリー氏とエリック・ウォーカー氏は、その理由を知りたかった。彼らがPUSHを2005年に創立した時、最初に着手したのはバッファローのウェストサイド地区の調査だった。約6カ月間に及ぶコミュニティでの戸別訪問による調査だ。
彼らは少し調べただけで、ニューヨーク州住宅資金供給公社の下部機関が税金滞納による差し押さえ物件を市内に1500件近く管理していること、そして、そのうち約200件はウェストサイド地区にあり、放置されて荒れ放題であることをつかんだ。2003年、ニューヨーク州地方債銀行は差し押さえ物件に対する租税先取特権を買い取った後、債権として一括で投資銀行のベアー・スターンズに売っていた。
しかし大きな問題が1点あった。バッファローのオルタナティブな有力週刊紙『Artvoice』に掲載された記事によると、不動産の査定額は実際の価値よりもずっと高かった。つまり実質的に、ニューヨーク州はウォール街での投機のためにバッファローの空き家を利用していたのだ。
一方で、空き家は放置されたままだった。州はメンテナンスを行うことも売ることもしなかったのだ。「取引の一環として当然なされるべき努力は一切行われませんでした」とバートリー氏は語った。「行われていれば、債権が詐欺まがいであることが明るみになっていたでしょう」
債権の価格は、住宅を売るか、未納税を徴収するかによって発生したはずの歳入に基づいていた。しかし州は、不動産を売る努力も徴税する努力もほとんどしなかった。なぜか? バートリー氏によれば、もし州がそうした努力を行えば、不動産の本当の価値が明るみになってしまい、トランプで作られた家は崩れてしまうからだ。「取引のウソがばれてしまうから州は何もしなかったのです。つまり、もし不動産が0ドルでしか売れなければ、その不動産は無価値であることがばれてしまうのです」
バートリー氏とウォーカー氏はこうした発見をした時、正規の手続きを通して州の役人の関心を集めようとした。しかし、その方法が失敗に終わると、今度は直接行動によるキャンペーンを開始した。街じゅうの200件以上の家々に、大きな型抜きで当時のパタキ州知事の顔をペイントしたのだ。ちょうど知事選に立候補していたエリオット・スピッツァー氏は、この問題に関心を抱いた。スピッツァー氏が当選すると、同政権は債権を返戻して住宅をバッファロー市に返還すると同時に、小規模の住宅復興基金を創立した。住宅は再びバッファロー市の資産となったが、PUSHやその協力組織が住宅の再開発を望んだ場合、市に資産移行を願い出るようになった。
その2年後、PUSHは、ウェストサイドの広く荒廃した25ブロックの開発計画の草案を作る地域計画議会に、数百人の住民を招いた。同地区はその後、グリーン開発ゾーン(GDZ)になった。この計画には、エネルギー効率のよい手頃な価格の住宅を提供することだけではなく、雇用機会の創出とゾーン内の経済安定性の促進も含まれた。
表面的には、GDZはバッファローの他の地域によく似た様相のままだ。通りには築100年の2階建てや3階建ての家が並び、夏になると街に人があふれる。高齢の女性たちが1階のバルコニーに座っておしゃべりをし、自転車に乗った子供たちがスピードを落とした自動車の流れをすり抜けていく。しかし、この小さな地域は、かなり急進的な変容を遂げつつある。
PUSHの課題における「持続可能性」とは、地域の環境負荷を低減することだけでなく、地域経済を強化し、建築物の修復や耐候化事業でのグリーン雇用を創出することも意味する。PUSHは、Green Jobs – Green New York法(GJGNY)の可決に一助を担った。この法律は3万5000人に雇用を創出すると同時に、ニューヨーク州全域の100万世帯に対し、環境を意識した改装や改修を提供することを目指している。PUSHは最近、GJGNYプログラムをバッファロー地域で実施するために、地域の独立系アウトリーチ受託機関としてPUSH Greenを創設した。同機関の活動のために、「Community Jobs Pipeline(コミュニティ雇用パイプライン)」と呼ばれる部門を立ち上げた。職業訓練の提供、生活賃金の支払い、目標集団から地元の労働者を雇用することに同意した建築業者たちのネットワークである。
PUSHは昨年9月、主要な3件の改修建築のテープカット記念式典を開催した。これらの建物には11件の手頃な価格の住居が入っており、これでPUSHがGDZに完成させた住居数は19件になった。
しかしPUSHにはもっと大きな野心がある。昨年12月、PUSHは、9件の新築と7件の改築計画を発表した。結果的にエネルギー効率が優れた手頃な住居を地域に46世帯増やす計画だ。「私たちは開発を考える際に非常に戦略的です。ですから、ウェストサイドの小さな区画を選んで集中的な開発を行おうとしています」とPUSHの開発責任者のブリトニー・マクレイン氏は説明する。「バッファロー市でよく見られる、手当たり次第の開発事業に手を貸すつもりはありません」
エネルギー効率のよい住居を作り出すことはPUSHの活動の重要な一部である。なぜならバッファローでは、暖房費やエネルギー関連費が生活費の大きな割合を占めるからだ。「この街の多くの住宅は築100年以上で、断熱性はよくありません。そのため、新しい窓や断熱構造を持つエネルギー効率のよいアパートを手頃な家賃で提供すれば、水道光熱費は劇的に抑えられるでしょう」とマクレイン氏は著者に語った。
グリーン建築には維持費があまり掛からない。しかし市街地よりも高級住宅街でよく見られる建築だ。PUSHが変えようとしているのは、この既成概念である。
2001年、PUSHはゼロ・エネルギー住宅、すなわち使用エネルギーと同量のエネルギーを生産する家を完成させた。この計画は再生可能エネルギー技術を紹介し、低所得の住民に賃金付きの職業訓練を提供するために始まった。その過程で、建設業者は空き地の革新的な使用法を新たに発見した。住宅用の土地に隣接した空き地に深い溝を掘り、地熱エネルギーを利用した暖房や冷房を提供するのだ。すべての建物で、PUSHは可能な限り既存の資材を再利用し、より効率のよい窓や断熱材を導入し、パッシブに建物を冷やすことができるエネルギースター認証済みの金属性屋根を取り付けた。
私はPUSH本部に戻り、共同創立者のエリック・ウォーカーに会った。初対面だったにもかかわらず、彼の顔を見た途端に誰だか分かった。ウォーカー氏はABC系列のリアリティ番組『Extreme Makeover: Home Edition(究極の大改造:家庭版)』の2010年に放送されたエピソードにゲスト出演していたからだ。この番組では、はしゃぎ気味の有名人と地元ボランティアの一団が問題を抱えた1件の家を取り上げる。家の持ち主は病気や災害やその他の困難に苦しむ家族で、出演者たちはその家族のために家の問題を即座に解決するという番組だ。しかもPUSHと4500人ほどのボランティアは、同番組のプロデューサーたちと協力し、1件の家を修理するだけではなく、その近隣の建物も直したのだ。
この番組のおかげで、ウェストサイドはいい意味で全国的に知られることになった。しかしウォーカー氏は、今でも番組について複雑な気持ちを抱いている。地域の改善は外的な力によって生まれるか、内側から生まれるかのいずれかである。そして同番組で映し出された変化の力は、完全に地元で育ったものではなかった。「組織作りにおいて、私たちは3種類の力があると思っています。すなわち、何かに対する力、何かのための力、何かと共にある力です」とウォーカー氏は説明する。同テレビ番組は人々を鼓舞する機会をPUSHに提供した。しかし変化を起こす道具は、ABCのプロデューサーや出演したセレブたちの手中にあり、地域社会の人々にはなかった。「それは私たちが作り上げようとしている力から1歩、後退したことになります」とウォーカー氏は語る。
テレビカメラは撤収されて地元を出て行ったが、変化を求める力は今でも地元に存続している。それは、マサチューセッツ・アベニュー沿いに並ぶ丁寧に修復されたビクトリア様式の建物や、PUSHを通じてコミュニティが手に入れた立ち上がり花壇を見れば明白だ。そして、戦いの末に勝ち取った、かつては危険だった公園に、親たちが自分の子供を連れて行くという事実から明らかである。
TEDx Buffaloでのエリック・ウォーカー氏のプレゼンテーションをご覧ください。
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本稿は、パワフルな発想と実践的行動を融合するアメリカの非営利メディア組織 Yes! Magazineのご厚意で掲載されました。
翻訳:髙﨑文子
グリーン住宅:もうお金持ちだけのものではない by マーク・アンドリュー・ボイヤー is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.
Based on a work at http://www.yesmagazine.org/people-power/green-housing-in-buffalo-its-not-just-for-rich-people-anymore.