住宅産業のグリーン化

日本の住宅市場における新築へのこだわりは、世界でも珍しい。国内の戸建住宅の半数以上は、1980年以降に建てられたものだ。中古住宅の割合は13%で、フランスの66%、米国の78%、イギリスの89%と比べ非常に少ない。

この背景には、日本の豊富な森林資源と木造家屋の長い歴史がある。地震や火災のため、住宅が長持ちすることは非常に稀であったことから、日本人は土地だけに投資をするようになり、建物に価値を見出さなくなっていった。その結果、日本の住宅産業は、安価な建材を用いた寿命の短い家作りが一般的となった。

加えて、家庭で家の修繕をしたりDIY(日曜大工)でリフォームする習慣もない。どうせ30年しかもたない構造の家に、お金をかける必要はないということなのだ。

2005年の国際エネルギー機関のデータによると、地球温暖化ガスの約21%は家庭から排出されている。日本では、年平均120万戸の住宅が建設されており、解体と新築の際に排出されるCO2はかなりの量だ。最近のデータによると、日本では2007年に温暖化ガスの排出量が急増したため、京都議定書の目標達成がこれまで以上に難しくなってきていると言う。より一層、環境に配慮した住宅建設について考える時が来ているのだ。

温暖化ガス削減対策

専門家の意見では、温暖化ガス削減の可能性が高いのは住宅地や商業地域で、建物やそれに付随するエネルギー使用を工夫することで達成できるとみている。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、住宅イノベーションを通じて、2020年までに全世界の温暖化ガスを約29%削減できると試算している。

1970年代の石油ショック以来、政府や企業の努力により、日本はエネルギー効果の良い国の一つとなった。しかし、住宅の床面積や戸数の増加により、エネルギー消費が着実に伸びてきているため、日本のCO2排出量は、1990年比より39%高くなっているのが現状だ。

近年、これらの住宅事情も日本のCO2削減対策の中で検討されるようになった。 7月に発行された独立行政法人建築研究所理事長の村上周三教授の報告書によると、住宅業界と電気会社が協力すれば2050年までに温暖化ガスを74%削減できると予測している。IPCCも、試験済みの既存技術を用いることで大幅な削減が可能であり、建設から解体にかかる費用の削減にもつながるとの指摘している。

スローな進化プロセス

社団法人日本建築学会(AIJ)は、下記のように設計された建物を持続可能な住宅として定義している。1)エネルギーと資源の節約、建材の再利用に配慮し、有害物質排気を抑え、2)地域の気候、慣習、文化、環境に調和した、3)地域または地球規模での生態系を維持しながら、生活の質の維持または向上が可能な建物。

他国同様、日本でも、これら3つの条件に見合う住宅は、ほんの一握りしかない。持続可能な日本の建築データベースサイトでは13戸のみが挙げられているが、自己申告に基づいていることから、この統計はあいまいだ。確実な情報源としては、28戸の建物と7戸の土地付き戸建て住宅が持続可能な建物として認証されているだけである。

政府が複雑な課題に本腰を入れて取り組むようになるには時間がかかるものだが、日本の場合は、ここ数十年で住宅政策に大きな変化がもたらされた。第二次世界大戦後は、戦後の住宅不足を解消するのが優先で、その後は、量よりも質を重視するようになり、さらに近年では耐震性があり安心で、心地よく、特に高齢者にとって利用しやすい住宅環境へと需要が変化してきている。

次に考えられるのは、持続性やCO2排出量の削減和を重視した住宅で、これは従来の「解体と新築」パターンとは大違いである。

さらに、政府や企業も努力を続けている。2006年、日本政府は旧住生活建設計画を、より質を重視した住生活基本法に切り替え、CO2削減に向けた重要目標を設定した。

2015年までに全住宅の40%のエネルギー効率の向上を図ることで、2003年比の18%増加を目指している。使い捨て住宅から長持ちする住宅へと住宅市場の流れを変化したいとしており、2003年には30年だった住宅寿命を40年に伸ばしたい考えだ。

加えて、2006年の新エネルギー戦略は、住宅分野のエネルギー効率向上に向けた情報提供や資金援助を約束している。1979年のエネルギーの使用の合理化に関する法は、省エネ判断基準を用いて、新築や大改装を施した建物の断熱材や気密性を規定している。

この法律は基準強化のため、これまで何度か改定されたが、ヨーロッパやアメリカの基準と肩を並べるまでになった。今後、さらなる修正を加え、住宅や建物の省エネ性能表示を義務化することになっている。

最先端の解決法

企業レベルでも、日本の住宅産業の環境技術は非常に高い。すでにCO2削減のさまざまな製品や実績があり、今後もどんどん増えてくるだろう。経済不況の中、企業の経営担当者はますます、環境配慮型の製品に期待をかけている。

主要なハウスメーカーの1社である積水ハウスは、2008年からゼロエミッション住宅の販売を開始した。プレハブ構造はエネルギー効率が優れており、CO2排出量もゼロに近く、その試作品は今年のG8サミットでも発表された。ゼロエミッション住宅は、断熱材と機密性に優れているばかりか、代替エネルギー技術の選択肢も多く備えている。代替エネルギーには、太陽光システム、燃料電池技術、発光ダイオード(LED)、最新型家電用品(SANYOの水のいらない食器洗い機Aqua)などがある。

積水ハウスの吉田アキヨシ氏によると、ゼロエミッション住宅は、すでに茨城県の関東工場内に移築されているが、市場販売の時期については未定だ。積水ハウスは、環境省のエコファースト制に認定されており、画期的な廃棄物管理システムにより(マテリアルフローコスト会計)、2002年には自社工場で、2005年には建築現場で、そして2007年には改築現場でゼロエミッションを達成した。

もう一つの例に、四国インターナショナルの内装材がある。それは一見、漆喰のように見えるが珪藻土でできており、臭い、揮発性有機化合物、室内の湿度を吸収する働きがある。またこの企業は、維持に手間がかからず、太陽光を遮断して冷房を削減する効果がある、既存の緑化屋上システム(組立て不要)を販売している。

持続可能性を超えて

留まることのない日本の住宅消費傾向に、もしも利点があるとすれば、それは世界有数の持続可能住宅の拠点になれるかもしれないという点だ。厳しい局面に直面することもあるだろう。

しかし、国立環境研究所が7月に発表した「低炭素社会シナリオ」にも、住宅の環境負荷への配慮が第一に挙げられている。現在、問題となっている複雑な省エネ効果の評価指標、費用のかかる試算費用、不十分な人材訓練、省エネ住宅や建物を選択した際のインセンティブの欠如などの問題点も挙げている。

国連環境計画の「持続可能な建物物と建築イニシアチブ」の2007年度報告によると、建築法や家電基準法などの規制管理がエネルギーの効率化を促進し、住宅産業のマイナス影響を緩和するとしている。一方、建築研究所の村上教授は、政策や社会技術改革を重視し、政府が各家庭や住宅に排出枠を割り当て、それが守られない場合は名前を公表する「キャップ・アンド・トレード制度」などの規制強化を提言している。これは日本で一般的なやり方で、違反に対する効果も高い。これは国民の環境意識を高め、ライフスタイルに変化をもたらす重要な要因だと考えている。(チュン・ニー・タン氏の記事参照)

地球温暖化が迫る中、持続可能と認証し得る住宅が、例外ではなく標準となるのが理想であろう。設計から施工、メインテナンス、そして解体に至るまでのスパンにおいて、環境影響を削減するためのステップは非常に大切だ。哲学者のヘンリー・デビッド・ソローの言葉を思い出してみよう。「健全な地球がなくなったら、家を持つ意味はないじゃないか。」

興味深いリンク

気候プログレスによる米国経済を環境配慮型住宅で活性化するための提案

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住宅産業のグリーン化
DEVELOPMENT & SOCIETY : Asia, Business, Climate Change
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著者

キャロル・スミスは環境保護に強い関心を寄せるジャーナリスト。グローバル規模の問題に公平かつ持続可能なソリューションを探るうえでより多くの人たちに参加してもらうには、入手しやすい方法で前向きに情報を示すことがカギになると考えている。カナダ、モントリオール出身のキャロルは東京在住中の2008年に国連大学メディアセンターの一員となり、現在はカナダのバンクーバーから引き続き同センターの業務に協力している。