“カワイイ”でレジ袋を減らす

イギリス生まれスペイン育ちのチャールズ・ワード氏は、来日した当初、自分の新しい仕事が社会の啓発活動につながっていくとは想像もしていなかった。英会話教師として1年半を過ごした後も日本のほんの表面的な部分しかわかっていないと感じた彼は、日本と日本人をもっと深く理解するため、自転車で日本縦断旅行をすることにした。

ワード氏が社会啓発活動への使命を最初に感じたのは、この自転車旅行の途中でのことだった。その使命とは日本国憲法第9条についての認識を高める必要性だ。平和条項と呼ばれる憲法第9条は「国際紛争を解決する手段として、武力による威嚇又は武力の行使」を放棄しており、「陸海空軍その他の戦力は、保持されない」と述べている。ワード氏が自転車旅行をしていた当時、この平和条項を支持する平和主義者と、武力の増強や軍事化すら許すよう憲法改正を求める人々の間で議論が繰り返されていた。

日本の伝統文化をよく理解し、”カワイイ”ものならなんでも大好きな日本人の感性を意識した上で、ワード氏はその感性をくすぐる啓発活動のかたちを思いついた。

彼は日本の伝統文化である折り紙を使い、キューちゃん(”キュー”は第9条の9にかけた)と名付けた折り紙のハトを作り始めた。ワード氏は度々街頭に立ってキューちゃんと憲法第9条についての知識を人々に尋ねた(しかし知らない人が多かった)。ここで彼が気づいたことは、人びとはこの”カワイイ”マスコットによってほっと癒され、タイムリーな議論に喜んで入ってくるということだった。

ふくろちゃん

自転車旅行を終えたワード氏は松本市に戻って英会話学校を開いた。そこで日々生活するうち、包装やレジ袋や割り箸などの使い捨て商品の無駄を意識するようになった。

そして再び彼は”カワイイ”文化の力で、1回限りで捨てられる使い捨て商品が増加している問題を提起しようと考えた。ワード氏はレジ袋と割り箸が登場する4コマ漫画(日本式のコマ割り漫画)を描き始めたのだ。キャラクターの名前は”ふくろちゃん”(レジ袋)と”おはしさん”だ(”おはし”は割り箸を意味し、”さん”は敬称を意味する)。

環境に与える影響を減らしながら自分の英会話学校の宣伝をするために、彼はこの4コマ漫画を英会話学校宣伝用のチラシの裏に印刷して配布し始めた。あっという間に英会話学校の生徒は一杯になり、生徒たちは次回のふくろちゃんの冒険の4コマ漫画を早く読みたいと心待ちにするようになった。

「ただのモノに命を吹き込むことによって、はじめて私たちはそのモノにありがたみを感じるようになります。そしてそれがどのように作られて、捨てられた後どこに行くのかを知ることになるのです」とワード氏は最近のOur World 2.0とのインタビューで答えている。

fukuro-chan-mangaある4コマ漫画では、レジ袋に入った”魚”が流されているのにふくろちゃんが気づく。もしくは魚の入った”レジ袋”に気づいたのか?ふくろちゃんは川から魚の入ったレジ袋を拾い上げると、自分の仲間であるレジ袋のことばかり心配し、無視されたままの魚はついに「オレのことどうなるの?」と怒り出す。

こうしてかわいらしいイメージやユーモアのセンスを利用して、ワード氏は日常使っているモノに対する私たちの意識を変化させようとしている。

「社会啓発活動をするならば、人々の興味を引き、人びとを楽しませ、愛されるものにしなければなりません。ふくろちゃんの制作にあたって考えたのは、プロジェクトや会社など、日本ではどのようなものにでも必ずマスコットがあるという事実です。だからふくろちゃんをかわいいキャラクターにしました」

ひとつひとつの4コマ漫画(今までに描いたものは50ほどだが)には、環境保護へのメッセージがあからさまに表現されているわけではない。しかしワード氏はこのような方法が役立つと確信している。

「誰にでも受け入れられやすいのだと思います。押しつけがましくないところや、メッセージが露骨ではない点が、かえって人々をもっと知りたいという欲求に駆りたてるのです」と彼は言う。

「啓発活動をするならもっと面白くしなければならないし、それができなければ誰も興味を持たなくなるでしょう。エンターテイメント性が必要で、その裏に人々に訴える何かメッセージがあるわけです。ふくろちゃんに好意をもってくれる人がいれば、その人はレジ袋をむやみに使い捨てることを止めるでしょう?使ってはダメ、持って帰ってはダメ、キッチンの棚にため込んではダメと思ってくれるのではないでしょうか」

ワード氏の漫画は次第に人気を集め、最近では松本市と千葉市にあるデパート、パルコの広告スクリーンに登場した。また彼は10分間の短い短編映画―ふくろちゃんとミステリアスな真っ赤な紙袋―も製作した(下の映像をご覧ください)。そしてこれは最近開催された松本市商店街映画祭で優秀賞を受賞したのである。

カワイイを超えて

ワード氏は自身のウェブサイトでふくろちゃんグッズの販売を始めた。ポストカード、ふくろちゃんの冒険のぬりえ、オーガニック・コットン製のふくろちゃん模様のてぬぐい(日本伝統の薄手の織り布)などだ。商品が売れる度に、ワード氏は”Plant A Tree Today Foundation(木を植えよう基金)” を通して木を植えることで寄付活動を行っている。Plant A Tree Today Foundationは、タイにバイオ燃料を生産し二酸化炭素を閉じ込めるオイル・ツリーを植える団体だ。ワード氏の目標は3000本だが、もうすぐ700本を達成する。

ワード氏はレジ袋使用を減らすことが最終的な目標だと考えているが、また一方で何度でも再利用できるいわゆるエコバッグが化学合成材料でできており、外国から輸入されているものが多いという事実も非常に気にしている。そこで、ふくろちゃんてぬぐいを販売する際の包装紙の裏側に、ふくろちゃんエコバッグなどの手作りアイテムの作り方を載せた。

またワード氏はレジ袋を減らすためのイニシアチブをもう一段階アップさせることも計画している。デパートやスーパーマーケットに交渉して、使用済みレジ袋をいつでも使えるように保管する箱をレジに設置してもらえるよう説得するつもりだ。そうすれば客が新しいレジ袋を使う代わりにこれを利用したり、使用したレジ袋をリユースするために回収したりできるようになる。また同時に、不要なダイレクトメールの量を減らすための広告ビラを配るキャンペーンも計画中だ。

ワード氏の究極の願いは、ふくろちゃんがいつの日か、ハローキティーや日本キャラクター史上最高の人気を誇るドラえもんのような人気者に成長してくれることである。

翻訳:伊従優子

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“カワイイ”でレジ袋を減らす by 西倉 めぐみ is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

著者

彼女の人生目標は、メディアの影響力を用いて、個々人がポジティブで持続可能な世界を築くための選択をするよう啓発することにある。2003年から、地球規模の問題についてのドキュメンタリー映画製作に携わっている。