開発途上国のアグロフォレストリーと食料安全保障

アグロフォレストリー(木や低木を農作物や家畜のシステムに統合する手法)は、開発途上国における食料安全保障の問題への対応策として大きな可能性を持つ。適切に導入されれば、生産者は土地を有効活用でき、農作物の生産量を増大する一方で収入を多角化できるうえに、気候変動へのレジリエンスを高めることができる。

今日まで、アグロフォレストリーの理解はなかなか進まなかった。その一因はアグロフォレストリーが政策空間に自然な「拠点」を持たなかったことである。しかし、アグロフォレストリーによって何が達成でき、実現するにはどうしたらよいのかに関する証拠が増えてきたおかげで、状況は変わりつつあるようだ。先月、食糧農業機関(FAO)は、ベストプラクティスの事例と共に政策議題におけるアグロフォレストリーの推進に関するガイドを発表した 。同機関は森林と食料安全保障と栄養に関する会議を5月に開催予定である。

「近年アグロフォレストリーには、持続可能な土地利用と開発の重要な構成要素として関心が集まっています」と、FAOの森林資源管理チームのリーダーを務めるダグラス・マクガイア氏 は語る。「アグロフォレストリーがもたらす多くの効果について、より理解が深まりつつあるのです」

こうした新たな理解は、FAOと国際アグロフォレストリー研究センター(ICRAF) の活動によるところが大きい。ICRAFは、木の特定品種の利用に関する問題や、それらの品種がどのように土壌の質を改善し、特定の作物を補完し、小規模自作農家の新たな収入源を生むのかといった問題の調査を行っている。

例えば、農園に植えられた木に期待できる重要な恩恵の1つが、養分を失った土壌に栄養を再補給する能力である。2012年9月に発表されたICRAFの12年間の研究結果によると、ある特定の品種(グリリシディア )を肥料木としてトウモロコシ畑に植えたところ、サハラ以南のアフリカの主食であるトウモロコシの収穫の安定性が向上した。

マラウイおよびザンビアの農業システムに基づく研究では、グリリシディアは空気中から窒素を引き出して土壌に固定する機能において特に効果的であり、人工的な窒素肥料を大量に使う必要が少なくなることが分かった。グリリシディアの落ち葉も土壌の養分を補給するので、木そのものの構造的安定性や水を蓄える能力を向上させる。

また、別の肥料木(ファイドヘルビアというアフリカ原産のアカシアの一種)も、アグロフォレストリーのシステムにとって有益であることが分かった。有益である一因は、この品種の持つ珍しい成長周期にある。ファイドヘルビアは農作物が植えられる雨期の始めに休眠期に入り、窒素を豊富に含む葉を落とす。そして乾期になると葉の成長が再び始まる。つまり、ファイドヘルビアはちょうどいい時期に農作物に肥料を与えるが、日光や栄養分や水を農作物と奪い合うことがないのだ。幾つかの調査では、ファイドヘルビアとトウモロコシの間作によって、トウモロコシの生産量はマラウイの1地域では400パーセントも増えたことが明らかになった。

こうした調査結果は、特定の樹木品種がすべての農業システムにとって「良い」ものとして促進されるべきであることを意味しているのではない。むしろ、適切な樹木を適切な場所で活用することが重要である。「相殺効果が現れる事例が多いのです。ですから、各事例での目的に従って、効果を慎重に評価し、バランスを取ることが必要です」とマクガイア氏は語る。「土壌の栄養分の改善、浸食の管理、食料生産、木材生産、日よけは、すべて検討すべき要因です。木材生産を主な目的とするシステムは、土壌の栄養分の改善にはあまり好ましくないかもしれませんが、状況次第で相殺効果は許容範囲かもしれません」

特定の樹木が明らかな恩恵をもたらす場合でも、長期的な投資が必要なことが多い。恩恵を得るのに何年もかかる場合、資金に乏しい小規模自作農家は樹木を植えるために土地を使うことに消極的になりがちだ。しかし目的によっては、樹木の種類や植樹のテクニックで時間を短縮することができる。

「カリアンドラとギンゴウカン はどちらもマメ科の木で、比較的短期間で家畜の飼料を提供することで知られています」と、ICRAFの影響評価アドバイザーで、FAOのガイドの共編者であるフランク・プレイス氏は語る。

「飼料木は、ひとまとまりに植えてもいいし、牧場の内側や外側の境界線沿いに植えてもよく、2年もかからずに飼料を完全に提供するようになります。木を切って、葉を牛にやりますが、木は再び成長するので次のえさやりには間に合うのです。乳牛1頭に高タンパク質を含む飼料を毎日与えるためには、500本の木があれば十分だということが分かっています」

農家の人々から積極的な取り組みを引き出すためのもう1つの方法として、生態系サービスへの支払い(PES)の利用がある。FAOのガイドは、「収入が著しく低減すれば、アグロフォレストリーは決して成功しない」と指摘しており、間作を導入する農家の人々は間作によって提供される生態系サービスに対する報酬を得ればよいと示唆している。

コスタリカはアグロフォレストリー戦略の一環としてPESを利用した事例を提供している。国の森林財政基金であるFONAFIFO(アグロフォレストリーに特化した部門を持つ) を通じて、過去8年間に1万件の契約が小規模自作農家と交わされ、農園に350万本以上の木を植えることに対して報酬が支払われた。このスキームに関する2010年の調査で、農家の78パーセントがスキームへの参加の結果として収入が高くなったことを報告している。

市場へのアクセスも、アグロフォレストリー・スキームの持続可能性を確立する重要な方法である。木から採れる果実や、乳牛に飼料を与えることによる牛乳生産量の向上は、各世帯の食料安全保障を改善できる。しかし供給網へのアクセスが改善されれば、小規模自作農家は向上した生産性からより多くの金銭的報酬を得ることが可能だ。

「茶、コーヒー、カカオ といった輸入作物は別として、木の生産物は市場の情報システムや市場インフラストラクチャーや政府計画での支援の面で、農作物と同等の投資レベルは享受していません」とプレイス氏は語る。「バオバブのように、高い需要が期待されるのに価値連鎖の確立が進んでいない地元原産のフルーツはたくさんあります」

こうした状況の中、例外的な事例が最近誕生した。アフリカ原産のアランブラキアという木の種子に含まれるオイルが食品生産に有益であることが明らかになった。このオイルは2000年、ユニリーバ社が最初に関心を向け、それ以来、ノベラ・プロジェクトを通して小規模自作農家による生産をベースとした供給網が確立された。同プロジェクトはICRAF、オランダ開発機構(SNV)、国際自然保護連合(IUCN)、ユニリーバ社などが参加する官民パートナーシップだ。

アランブラキアに関するICRAFの研究のおかげで、小規模自作農家は優良種を育てられるようになった。野生のアランブラキアは実をつけるまでに通常15年ほどかかるのだが、この優良種は4~5年以内に実をつける。さらにアランブラキアは、既存のカカオ畑の作物を補完することが明らかになった。アランブラキアが成長している間、カカオの木が日陰を提供する。一方アランブラキアが成長すると、逆にアランブラキアが日陰を作る。さらに、これらの木は収穫時期が異なるため、小規模自作農家はより定期的な収入を確保できる。2009年までに、主にガーナとタンザニアで約1万人の小規模自作農家が10万本のアランブラキアを植えており、プロジェクトは現在リベリア、ナイジェリア、カメルーンでも行われている。ICRAFによると、このスキームによって小規模自作農家の人々は年間20億ドル(13億2000万ポンド)を生み出すようになるという。この数字は西アフリカのカカオ生産から生じる利益額のおよそ半分だ。

アグロフォレストリーの可能性は十分に実証されているが、構造的課題は残されている。例えば土地保有や森林に関する規約の問題は、一部の地域では小規模自作農家の木への投資を妨げている。開発関係者にとっての課題とは、食料安全保障の議論の場で、木と土地利用システムの統合がもたらす複合的な恩恵を周知させることである。そうすれば、私たちが知っていることを、より多く実践に生かせるのだ。

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この記事は2013年2月26日、the Guardianで公表されたものです。

翻訳:髙﨑文子

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著者

キャスパー・ヴァン・ヴァーク氏は、食料政策、農業、国際開発、環境問題を専門とするフリーランスのジャーナリスト、コピーライター、編集者である。