ソニア・アイエブ・カールソンは国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)のシニアリサーチャーで、環境破壊や気候変動に関連した移動の決断、移住、健康、ウェルビーイングについて研究している。サセックス大学でグローバルヘルスの講師としても活動。
世界では、約10億人がスラム街で暮らしており、その中にはグローバル・サウスの都市部に暮らす住民のおよそ30〜50%が含まれている。故郷で、環境による要因や金銭面および生活における困難を逃れた人々が、インフォーマルな(法律や都市計画に基づかない)居住地に定着する場合も多い。
また、戦争や紛争、迫害を逃れ、バングラデシュのコックスバザールやギリシャのレスボス島、フランスのカレーなどの難民キャンプにたどり着く人々もいる。難民は迫害の恐れから自国に戻れないのに対し、移民はさまざまな理由で移動する。
インフォーマル居住地と難民キャンプは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に対してより脆弱であるという意味で、いくつかの共通点がある。過密状態が生まれやすく、清潔な水や衛生設備、公衆衛生サービスへのアクセスが不十分だからだ。
私が調査を行なっているバングラデシュのダッカにあるボラ・スラム(Bhola Slum)では、1世帯あたり15人もの家族が、窓も扉も閉じられないブリキ小屋で暮らしている。公衆トイレは住民で共有しており、接触者の追跡はほぼ不可能だ。
インフォーマル居住地で暮らす人のほとんどは、臨時雇いであるため、在宅勤務ができない。その日暮らしで、路上で果物やお菓子を売ったり、車の窓拭きをしたり、建設現場で日雇い労働者として働いているため、所得の喪失に備えるための貯蓄も資産も持たない。
一方、迫害を逃れてきた難民は、公的証明書類をなくしたり、市民権を奪われたりしているため、医療を受けることがさらに難しくなる。
最も弱い立場に置かれた人々が暮らすこうした場所にも、COVID-19はすでに発生している。世界保健機関(WHO)は、社会的距離を保ち、こまめに手を洗うことを推奨しているが、それだけでは不十分だ。全世界の難民キャンプや都市部のスラム街には、壊滅的な被害が出る恐れがある。
こうした課題に加え、すでに紛争でトラウマを抱えている人々の間では、デマや噂が急速に広まっており、これによって医療を受けたがらない人も出てきている。コックスバザールの調査対象者は、「当局は感染した人を殺さなければならない。生かしておいたら、ウイルスが他の人の体に移るからだ」と回答した。
トラウマになるような経験、社会的な排除や排斥、およびスティグマ(社会的な汚名)は、政府や警察などの法執行機関や文官当局に対する信頼を損ねる可能性がある。インフォーマル居住地で暮らす人々はこれまでに、強制的に避難させられたかもしれないし、難民は公的証明書類がないことや、逃れてきた場所に送り返されることを恐れているかもしれない。
最も弱い立場の人々と関わり合ってきた経験を基に、私たちは以下の点を確保すべきであると考える。
各国がCOVID-19のパンデミック(世界的大流行)の影響に取り組む中で、私たちは移民や難民を忘れてはいけない。今後の対策では、人権と人間の尊厳を基本とするアプローチを通じ、弱い立場の人々を守っていくべきだ。
「安全で秩序ある正規移住のためのグローバル・コンパクト」と「難民に関するグローバル・コンパクト」に沿って直ちに国際的な取り組みを行えば、人命を救い、健康を増進し、そしてすべての人の尊厳を確保することができるだろう。
すべての人には、病気の恐れや避難、家族の離散、また死亡のリスクのない、尊厳ある安全な生活を送る権利がある。こうした人権は、安全な食料や飲み水、十分な衛生設備、適切な住宅、健康的な職場環境を得る権利や、病気の予防、治療および管理を受ける権利、さらには十分な公的医療サービスに利用・アクセスできる権利という形で現れている。
移住のためのグローバル・コンパクトは、移民が直面するリスクと脆弱性の低下を目指しているのに対し、難民に関するグローバル・コンパクトでは、疾病予防と健康増進を促している。
私たちはパンデミックに対応する中で、すでにある人権に関する枠組みに従い、移民と難民を保護しなければならない。
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この記事は最初にThomson Reuters Foundation Newsに掲載されました。