再生水が持続可能な開発を変える

この記事は、「国連大学と知るSDGs」キャンペーンの一環として取り上げられた記事の一つです。17の目標すべてが互いにつながっている持続可能な開発目標(SDGs)。国連大学の研究分野は、他に類を見ないほど幅広く、SDGsのすべての範囲を網羅しています。世界中から集まった400人以上の研究者が、180を超える数のプロジェクトに従事し、SDGsに関連する研究を進めています。

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2025年までに、絶対的な水不足は推定18億人の人々にとって日常的な現実となる。

重要な資源の枯渇が進むこの世界において、各国にはそうした資源をただ排水溝に流してしまうような余裕はない。しかし、私たちが行っているのはまさにそれである。各家庭や企業で使用された水は、たくさんの貴重な資源とともにただ流れ去ってしまっている

排水は炭素や栄養素を豊富に含んでおり、適切に回収・処理されれば、新しい水や、肥料、エネルギーを生みだすことができる。一部の国や大都市ではすでに高度な排水処理施設を整備しており、これによって栄養素やバイオエネルギーを効果的に回収し、再利用可能な「新しい水」を作り出している。しかし、全排水の80%以上が依然として自然の生態系に流れ込んでおり、環境を汚染しているほか、貴重な栄養素やその他の回収可能な物質の流出要因ともなっている。

小規模で考える

大都市の排水システムの多くは効果的だが、高額な建設費がかかり、維持費や運営費もかさむ。それでも小都市の状況よりはましである。小都市ではたいてい、システムの適用が誤った形で行われており、必要なメンテナンスや作業を行うスタッフも不足している。

ラテンアメリカ諸国では、小・中規模都市の住民が利用できるのは、せいぜい、適切な定期メンテナンスの行われていない浄化槽による現地処理である。

グアテマラでは、住民2,000人未満の都市のうち、およそ5%にしか集中型処理施設の設置がなされていない。また、同国アティトラン湖盆地では、住民の約12%は、衛生設備へのアクセスが全くない状況である。これらの地域になんらかのインフラが存在しているとしても、排水の処理をした後に水循環へ還元するものではなく、単に排水の回収が主である。

アティトラン盆地の住民の約12%は衛生設備へのアクセスがない。Photo: IM Swedish Development Partner, Creative Commons BY-NC-ND 2.0

国連人口基金によると、ラテンアメリカの小・中規模の町の人口は15年後には2倍、30年後にはさらにその2倍になると予測されている。この点をふまえると、問題はよりいっそう深刻である。それにもかかわらず、この地域では、排水管理を改善するための取り組みのほとんどが大都市に集中している。

排水利用で森林を守る

例えば、こんな小都市の姿を想像してみてほしい。街の外側に一定区画の美しい土地が広がっている。土地の上面は景観に優れ、その土地の野生生物の住みかとなっている。一方、地表下には、排水を処理してエネルギーを生み出す湿地がある。こうして生産されたエネルギーにより、住民たちは調理用の燃料を野山で集めた薪や堆肥に頼る必要がなくなる。さらに、この湿地から流れ出る水を灌漑用水として安全に利用することができる。

これは夢物語ではない。実際に「人工湿地環境」として、小規模なものがすでに世界中で実施されている。

人工湿地環境の可能性を探るチームのメンバーとして、私たちは20カ国以上で800のバイオマスサンプルを分析した

その結果、気候や使用される植物の種類にもよるが、排水を活用することで1日最大45ヘクタールの土地の灌漑が可能であることがわかった。これにより、灌漑用の真水やくみ上げに必要なエネルギーへの需要が抑えられることになる。

このシステムでは、住民60人のコミュニティを想定した場合、約420平方メートルの湿地が必要となる。コミュニティはこの湿地から年間630キログラムのドライバイオマスを得て、これを利用して年間10ギガジュールのエネルギーを生み出すことができる。

エチオピアの平均世帯について見ると、1世帯5人の家庭が、調理に約7ギガジュールのエネルギーを必要とし、全12世帯で構成されるこのコミュニティの場合、調理に必要なエネルギーは年間約84ギガジュールとなる。

したがって、湿地によって生成されるバイオ燃料は、この村の調理用燃料ニーズの約12%を供給することができる。そしてこの12%分のニーズを削減することにより、この村は平均で年間0.5ヘクタールの森林を守ることができる。

水の無駄遣いはなくせる

もう1つの解決策は、対象となるコミュニティに分散型の排水処理施設を整備することである。都市型の排水処理施設とは異なり、分散型施設は、生下水を下水設備に集めることなく、その場で処理を行う。農村地域では、このシステムを導入することで上水が利用しやすくなり、環境汚染も削減できる。

このような処理施設は比較的小規模でカーボンフットプリントも小さいため、従来型の施設よりも環境への悪影響が小さくて済む。もう1つのメリットは、現地の気候条件、景観上の要件、水質基準、および水の使用目的に合わせてオーダーメイドの施設を作ることが可能であるという点である。

もはや、どのような水も無駄にするわけにはいかない。排水の回収と再利用は、どちらも技術的に実行可能であり、かつ財政的にも合理的である。

適切な管理を行うことで、使用済みの水は環境に悪影響をもたらすことなく、安価で持続可能な エネルギーや栄養素の供給源となり、その他の再生可能な資源となりうるのである。

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この記事の初出はThe Conversationに掲載されたものである。

著者

国連大学物質フラックス・資源統合管理研究所(UNU-FLORES)水資源管理ユニットのリサーチフェローである。生物学者であり、水質が水生生物に与える生態学的影響と過剰な栄養素の蓄積が植物形態に与える影響について研究を行っている。UNU-FLORESにおけるアヴェラン博士の主な研究分野は、資源ロスの削減に向けた水・土・廃棄物の関係性である。