しくみ解明:環境衛星

衛星は社会に計り知れないサービスを提供している。衛星電話やテレビ信号のお陰で、私たちは異なる大陸に住んでいても瞬時に繋がることができるのだ。

他にも、衛星には地球環境を絶えず監視するという重要な役割がある。最近では、BP石油流出事故のショッキングな写真がSky Truthによって世界に発信されている。Sky Truthは、衛星のリモートセンシング(遠隔操作)を利用した環境保護を推進するNGOである。

しかし、後述するように、衛星の環境への応用は気象予報や人災の監視のための利用に留まらず、実に多岐にわたっている。

衛星の進化と種類

1957年10月4日、ソ連は人類初の人工衛星スプートニク1号を宇宙に送り出した。この日以来、衛星は大きな進歩を遂げることとなる。スプートニク1号は科学的偉業であった。直径わずか22インチ、重さ184ポンドしかないこの衛星は、高度900kmを時速29,000kmで飛行し、95分かけて地球を一周した。

スプートニク1号の打ち上げは興味深い反応を引き出したが、そのほとんどが間違いであったことが後に判明した。当時の軍事専門家たちは、近い将来衛星が軍事で実用化されることはないだろうと主張したのだ。1960年4月1日、アメリカは世界初の気象衛星タイロス1号を打ち上げた。タイロス1号が宇宙にいたのはわずか78日間だったが、そのインパクトは今でも記憶されている。

1960年以降、衛星に搭載される装置や技術の改良が進み、衛星データの使い道も多様になっていった。

「この衛星の登場は、気象予報を一変させてしまった」とアメリカ国立海洋大気圏局(NOAA)のジェーン・ルブチェンコ博士は述べている。タイロス1号はカメラとビデオ記録装置をそれぞれ2台の備えているだけで、その機能はごく限られたものであった。

しかし、1960年以降、衛星に搭載される装置や技術の改良が進み、衛星データの使い道も多様になっていった。

衛星の軌道は、静止軌道と極軌道の2種類に大別される。1975年まで、すべての衛星は地球の両極周辺を周回していた。極軌道衛星は、低い高度を飛行しながら100分間で地球を一周する。3基の極軌道衛星を使えば6時間で地球全体をくまなく観察できるのだ。この軌道は、地球をより至近距離から眺め、高空間分解能の画像や測定を可能にする。しかし、これらの衛星は常に移動しているため、一定の地域を継続的に観察することができなかった。

これに対し、静止衛星は一つの地域を継続して観測するために開発されたものである。静止衛星は、赤道付近の上空約36,000km地点を、地球の自転と同じ速度で飛行する。同じ地点に留まることで、一定の地域を観察し続けることが可能となった。しかし静止衛星にも限界がある。地球の曲率のために南北極域を観察することが不可能なのだ。

このため、極軌道衛星と静止衛星は、相互に補完し合う関係にある。極軌道衛星が地球全体の高画質画像を提供する一方で、静止衛星が継続的な観測を行う。

環境衛星の利用

衛星は、遠隔地の環境や隠れた特徴、人間の目では見えない出来事までをも見つけ出し、監視することができるため、地球環境を観測するのに理想的だ。以下に述べる大気現象に関して、信用性の高いデータを毎日24時間提供してくれる。これらの情報は気象予報には不可欠である:

衛星は、海洋に関する以下のデータを提供する:

陸地に関する以下のような特徴も衛星で観測することが可能である:

衛星を所有するのは、政府や国際機関、民間企業などだ。最先端の極軌道商業衛星であるジオアイ1号は、0.5メートルという高分解能画像を撮影できる。

SkyTruth代表のジョン・アモス氏は、Google Earthについて「つい数年前はスパイ技術であった革新的な画像を、突如誰もが手にできるようになった」と指摘する。

気候変動モニタリング

エアロゾルや水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素、メタンガスなど、大気中の温室効果ガスの集中をモニターできる衛星は、気候変動を監視するにも適している。

地球の気温、天候パターン、熱帯低気圧の数や強さ、洪水、干ばつ、海面上昇、海流の変化、生態系の地理的な変動、植生、氷河や極氷の溶解、サンゴ礁の白化現象、山火事、海の酸性化や野生動物の移動パターンなど、気候変動の主な兆候の追跡にも役立つ。

日本は、2009年1月に衛星いぶきを打ち上げた。これは、温室効果ガス観測専用に開発された世界初の衛星であり、英語名ではGosatと呼ばれている。いぶきは極軌道衛星で、世界56,000地点の温室効果ガスを測定し、温室効果ガスの集中について最も包括的なデータを提供している。

衛星は、遠隔地の環境や隠れた特徴、人間の目では見えない出来事までをも見つけ出し、監視することができるため、地球環境を観測するのに理想的だ。

森林破壊は温室効果ガス排出の大きな要因となっており、同時に生物多様性喪失の原因でもある。衛星は、世界の森林被覆を監視する上でも重要な役割を果たす。過去30年分の衛星画像を含む世界的なデータベースもあり、これによって私たちは森林破壊の傾向や場所を知ることができる。国連が実施している、「開発途上国における森林破壊・森林劣化による温室効果ガス排出を減らすための協力プログラム」(UN-REDD)もまた、その目的遂行のために衛星の力を借りているのだ。

衛星による測定結果の検証、つまり、地上での観測との照合は非常に重要である。元データを衛星画像やアプリケーションに加工する際には、アルゴリズムと呼ばれる複雑な計算式が使われている。

衛星画像やデータの検証は定期的に行われなければならない。また、衛星の調整や計測精度の点検も同様に重要である。衛星機器は、他の衛星や地上での観測結果と比較することで修正できる。

衛星オペレーターは、データアクセスに関して様々なポリシーを有している。一部の機関が衛星データを無料で提供しているのに対し、アクセスを有料とするオペレーターもいる。

また、衛星データを国防上重要な問題と見なし、アクセスを規制している機関もある。衛星データへのオープンかつ無料のアクセスが望まれるところだ。

次世代とそれから

今後数十年で、私たちが地球環境を観測する能力は飛躍的に改善するだろう。カナダ、中国、インド、日本、ロシア、アメリカ、そしてヨーロッパ諸国の衛星機関は、次世代人工衛星の実用化に懸命に取り組んでいる。

これら次世代衛星には、より高機能な感知装置が搭載され、気象予報の精度も上がることが期待される。そして、より解像度の高い画像や多くの測定によって、人々は地球環境への理解を深め、科学者たちも正確な気候変動モデルを作成できるようになるだろう。

例えば、アメリカでは現在、次世代の極軌道衛星・静止衛星を開発中である。合同極軌道衛星システム(JPSS)と呼ばれるこの衛星は、NASAおよびアメリカ国立海洋大気圏局(NOAA)が共同で開発・管理しており、将来的には世界最先端の地球観測衛星として打ち上げられる予定である。

今後10年程度で、世界環境の観測精度は飛躍的に向上するだろう。

JPSSは、6時間ごとに地球全体の高解像度画像撮影と測定を行う。これらの衛星が送り出すデータ容量は、既存のソフトウェアやデータ分析システムでは追いつかないほどのものだ。この膨大なデータを処理し、地上で受信するために、NOAAの委託を受けた民間企業レイセオンが、新しいソフトウェアと15のアンテナを使った世界的ネットワークの開発を進めている。

この他にも、NOAAとNASAは静止運用環境衛星(GOES-R)の共同開発を行っている。GOES-Rの特徴は早い走査能力で、西半球の大気、地表、海洋に関する高解像度画像を提供することができる。

さらに、GOES-Rは西半球の雷光をリアルタイムで検知するよう設計される予定だ。このため、より正確な気象予報ばかりではなく、激しい雷雨、ハリケーンや竜巻を、時間に余裕を持って警報することが可能になる。他の国々も、同様の機能を備えた衛星の開発を計画中である。

ほとんどの環境衛星は先進国によって保有、運用されているが、開発途上国の中にも衛星を打ち上げる国が増えている。開発途上地域の中では、中国とインドが最も重要かつ野心的な衛星運用計画を打ち出している。将来的には、これらの国々の衛星にも最先端の機能が搭載されるであろう。新しい衛星によって、気象予報や、地球環境の観測、さらには気候モデルまでもが進化を遂げるだろう。

2002年に開催された、持続可能な開発に関する世界首脳会議の呼びかけに応え、地球観測に関する政府間会合(GEO)が発足した。GEOは、世界中の衛星を利用した全球地球観測システム(GEOSS)を構築中であり、地球環境の現状について最も包括的な情報を提供することを目指している。GEOSSでは、地球の天候、気候、生物多様性、生態系、農業、エネルギー、健康、災害、そして水に関するデータが収集され、発信されるだろう。

衛星の重要性、そしてそこから得られるデータの応用方法は、近い将来増加するだろう。衛星は気候変動の要因やインパクトを観測する上で重要な役割を果たし、また、より環境的に持続可能な発展を推進するための価値ある情報を私たちに送り届けるだろう。

• •

ここで述べられている意見は著者個人の考えであり、筆者の雇用主とは一切関係を持たない。

翻訳:森泉綾美

Creative Commons License
How things work: Environmental satellites by Martin Medina is licensed under a Creative Commons Attribution-NoDerivs 3.0 Unported License.

著者

マーティン・メディナ氏はコミュニティを中心とした資源の利用、非公式の再利用事業および固形廃棄物政策と計画に高い関心を持ち、研究機関、非政府組織、および国際機関と協働して、アフリカ、アジア、ラテンアメリカ、および中東におけるごみ管理プロジェクトに取り組んできた。エール大学で博士号を取得したメディナは、国連大学高等研究所の元研究員であり、「The World’s Scavengers: Salvaging for Sustainable Consumption and Production」(世界のスカベンジャーたち:持続可能な消費と生産を目指して)の著者である。現在、アメリカ国立海洋大気圏局で天気予測、環境観測および災害管理での衛星活用における国際協力の推進に従事している。また、現在メキシコの非公式再利用事業について執筆中である。