ゼイナブ・エル・マーダウィは、国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)のアソシエイト・アカデミック・オフィサーとして、教育工学分野の研究・教育とeラーニング関連プロジェクトの管理に加え、eラーニング戦略の概念化、組織、管理を担当している。
米国務省から「TechWomen次世代リーダー」、全米アカデミーズから「アラブ系米国人フロンティア・フェロー」、 英国王立工学アカデミーから「イノベーション・リーダー・フェロー」に選ばれている。
2019年1月24日は、初の「教育の国際デー」だった。世界は、各地の教育の現状を再評価する必要に迫られている。
高等教育は何世紀にもわたって、将来に成功するための理論的基盤の整備を目的とするパラダイムのもとで運営されてきた。学生は大学で、勉学の一部として将来の仕事に使える技術的スキルを身に着ける程度だ。従業員や起業家として成功する方法は、卒業後の「現実世界」で学んでいるのだ。
これは、2つの別々の世界で、2つの別々の学習成果が得られるという考え方に基づいていた。高等教育で理論的・技術的スキルを身に着け、社会人としてソフト・スキルを身に着けるという考えだ。
しかし、現代の研究が、これら2つの世界を融合させる必要があると明らかにした。世界が急激に変化する中で、変革に対する要望も高まりつつあるのは確かだ。自動化や人工知能(AI)は単なる流行語に思われるかもしれないが、こうした現象は、働く人々の暮らしに目に見える形で影響を及ぼし始めている。具体例は、物資を配達する自動運転トラックから、目の病気を正しく診断するAI機器に至るまで、多岐にわたる。
「2017年マッキンゼー・グローバル・インスティテュート報告書」によると、全世界に現時点で存在する仕事のうち50%は、2030年までに自動化される可能性がある。では、大学で学んだ技術的スキルはどうなるのだろうか。おそらく、機械のほうがはるかにスキルが高いだろう。
機械がますます能力を高める中で、労働者は適応を迫られることになるが、その競争優位はソフト・スキルにあるといえよう。リーダーシップ、管理、生涯学習、イノベーション、複雑な問題解決、創造性、感情的知性、レジリエンスといった能力だ。
技術的スキルとソフト・スキルという「2つの世界」という現象は、学界でも多く議論されてきた。哲学者のエリック・ホッファーは「変化の時代には、学習者こそが地球を継承する。学識者は、もはや存在しない世界への取り組みに素晴らしい力を発揮するだけだ」と述べている。
しかし、学術的議論の時は終わった。社会はもはや、教育を現状のまま維持できない状況にある。世界経済フォーラム(WEF)「仕事の未来」レポート2018年版によると、2022年までに「雇用者全体の54%以上に、大幅な再教育とスキル向上が必要となる」が、そのほとんどはソフト・スキルの訓練になると見られている。
この動きについて行くための最も有効な方法は、さまざまな段階でこの問題に取り組むことだろう。
まず、高等教育を再考する必要がある。学生は最新の技術的スキルやデジタル能力だけでなく、アクティブ・ラーニングや、頭の回転の速い学習者になるためのさまざまな戦略をはじめ、これらに不可欠な人間的スキルも身に着けるべきだ。
また、教育者と政策立案者が学位の付加価値を再評価する必要もある。雇用の可能性を保証するのが学位ではないということは、多くの大学が認識している。その対応として、はっきりと定義されたスキルや能力の習得を実証する資質として、学習を細分化する取り組みも始まった。従来の学位に代えて、専門的修了証(ミクロ学位とも呼ばれる)を授与するという考えだ。
制度改革のもう1つの柱として、実地訓練(OJT)が挙げられる。組織は従業員の専門的能力の開発に投資し、はっきりと定められた生涯学習制度を構築する必要があるからだ。そのためには金銭的、時間的コミットメントが要求されるが、激動の時代を生き抜ける労働力を維持する方法は、それ以外にない。
この変化はテクノロジーと密接に関係している。おそらく逆説的ではあるが、テクノロジーは、このような変革への道を切り開ける可能性も秘めている。
技術強化学習に、適切なターゲット層に見合った、またはカスタマイズされた学習・授業法が伴えば、無理のない費用で関心を引き付ける個別学習の機会を提供できる。eラーニング課程は単独でも、他の教育や訓練を取り入れ、革新的な教授法(授業、学習、評価)と組み合わせれば、知識とスキルの格差を効果的に縮小できる。
その一例として、逆転授業が挙げられる。学生がオンラインで講義を聞いてから、グループ・ディスカッションやプロジェクト作業に取りかかるというやり方だ。
アナリティックスや機械学習も、自己管理的学習経験の創出に活用できる。これにより、不確実な未来に取り組むために必要な生涯学習やアジャイル学習の思考回路を補強できよう。一方、オンラインを通したソーシャル・ツールを用いた共同学習により、チームワーク環境に必要な価値やスキルが強化されるだろう。
eラーニングを幅広い人々が利用できるようになれば、情報通信技術(ICT)の広範囲にわたる活用によって生じた第4次産業革命から取り残されかねない弱者層のエンパワーメントも可能になる。イノベーションは欧米諸国だけの特権ではない。
事実、テクノロジー系新興企業の大きな拠点は今後、アフリカにも現れることになるため、企業の間では、アフリカ市場において未発掘の機会に対する関心が高まっている。デジタル時代と、それに伴う技術強化学習が、これまでに予測できなかった機会を作り出す平等化の装置として機能するのは、まさにアフリカであるためだ。
教育の価値は信じるべきだが、それと同時に、時代の変化に応じて教育の価値を守っていくべきでもある。高等教育に対するアプローチを考え直す気があれば、学習者は再び世界を継承するだろう。しかも、こうした学習者は、これまでよりもはるかに、多様性を増す可能性があるだろう。
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