狩猟問題へのソリューション

Human Dimensions」は国連大学地球環境変化の人間・社会的側面に関する国際研究計画(UNU-IHDPI)で年2回発行されるマガジンである。「Human Dimensions」各号でUNU-IHDP は若い研究者向けに時事問題のライティングコンテストを行っている。2013年1月発行の第2号でのコンテストのテーマは「生物多様性と生態系サービスにおける人間的側面」だった。以下の記事は第3位を獲得し、House of Cards: The perilous state of global biodiversity(砂上の楼閣:世界の生物多様性の危険な状態)の号に掲載されたものである。

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今晩のディナーのお皿には何が載っているだろうか。熱帯林に住む人々が増えるにつれ、 その答えはしばしば「裏庭にいるもの」だ。つまり「ブッシュミート」、野生動物の肉である。貧困、あるいは文化的な好みのいずれの理由にせよ、野生動物の肉は開発途上国の主食になりつつあり、動物の総数や生態系的共同体には打撃である。ある種の狩猟動物がいなくなれば、生物多様性と生態系サービスが根本的に変わってしまい植物の再生や共同体の動態に連鎖的な影響がおよぶ。人間によるあからさまに破壊的な環境的重圧と異なり、狩猟は定量化が困難で規制となれば尚難しい。時に保護立法が制定されることもあるが、人材不足や単なる無関心が理由で狩猟制限が強制されることはほとんどない。政府だけが悪いわけではなく、もちろんブッシュミートの消費者たち自身が責めを負うべきでもない。この行動を禁じれば彼らのディナー皿に食べ物が載らなくなるなってしまうというのに、誰が禁じることなどできるだろう。

この行動を禁じれば彼らのディナー皿に食べ物が載らなくなるなってしまうというのに、誰が禁じることなどできるだろう。

ペルーのプエルトマルドナドでは到着した観光客を魅力的な生態系アドベンチャーツアーが待ち受ける。それはシックなリゾート地から田舎風の川沿いの小屋での滞在など多様だ。観光客の多くは一番楽なツアーに参加する。乗り込み、熱帯雨林を見て、帰る、というものだ。スピードボートで川を下ること1時間で典型的な「ジャングル」に到着。つたが隣のヤシの木に絡み、色鮮やかな鳴き鳥が緑の壁から顔をのぞかせ、絶え間なく聞こえる虫の声は森を明るく活気に満ちたものにしている。小道を曲がるたび小さくとてつもなく愛らしいタマリンの群れが幹から幹へ跳ね回る。旅行客は感動に浸るが、気付いてはいない。訓練された観察者であれば、大型の霊長類が全くいないことに気付くかもしれない。クモザルもホエザルもおらず、ごくたまにオマキザルが点々といるのみだ。大型動物というものが全て生存のための狩猟者たちによって失われ姿を消したのである。同じく失われたのが、このような種を中心とした生態系の相互作用だ。人口増大はその周りの自然システムに前例のない負担をかける。この森はお気楽な観光客のニーズを満たすことはできるかもしれないが、実はかつての栄光の残像に過ぎない。

熱帯林が直面する脅威は広まっており、文書による裏づけもある。現在の森林破壊率は最も楽観的な自然保護主義者をも不安にさせるほどだ。それに関連して起こる劣化はわずかに残った機能をも妨げる。集約的農業は土壌の肥沃度を低下させ、乾燥化は雨林をサバンナに変える。それにより生産性は落ち、大気への二酸化炭素排出量も増える。このような脅威にもかかわらず、広大な熱帯林のいくつかは残存している。アマゾンやコンゴ流域を空から眺めると、ブロッコリの頭のような緑が果てしなく広がっている。相互関係が複雑に絡み合うこのような熱帯林には地球全体の生物多様性の50%が生息しており、水と土壌の栄養循環や酸素生産と炭素隔離など計り知れないほど貴重な自然サービスが行われている。空からこの森を見下ろすと瑞々しい常緑樹が何マイルにもわたって広がり、ほとんどが正常に見える。だが外見はあてにならない。無傷に思える森の中では、熱帯雨林を素晴らしく複雑にする中心的な相互作用が崩れてしまっているのだ。的を絞った狩猟は種間の動態を変え、活気ある熱帯雨林の広大な地域を生態的な「生きる屍」と化してしまう。

狩猟は普遍的に直接的・間接的影響のある森の搾取を伴う。狩猟者たちは生存のためにせよ営利目的にせよ非常に選択的に狩猟を行うため、それによる重圧は地元の動物相を大きく減少させたり、場合によっては消滅させたりしてしまう。果実食性の大型霊長類は見つけやすく肉も多いため標的にされやすい。密度が高く集団的な社会構造をしていて体も大きいため、人間にとっては重要な獲物なのだ。ペルーでは、小さな仲間たちを残して最初に消えていったのがクモザルだった。狩猟者の好みは文化的タブーなどを含む要因によって異なるが、最も好まれやすい要因はその体格の大きさである。体格による選択により、大型の狩猟脊椎動物は狩猟地域では劇的に減少し、あまり好まれないタマリンなどはそのまま残された。

的を絞った狩猟は種間の動態を変え、活気ある熱帯雨林の広大な地域を生態的な「生きる屍」と化してしまう。

野生動物数の構造を変えることに加え、狩猟は森林共同体全体により大きな影響をおよぼし得る。脊椎動物相は生物多様性と生態系プロセスの維持に大きく貢献している。最も顕著な例が果実食性種による種子の散布などだ。それらが失われれば生物多様性と、生態系の健全さと機能に依存する人々に破滅的な結果をもたらしてしまう。大型のサルなど果実食性をもつ脊椎動物は、果実を食べ、親植物 から離れたところで種を吐きだしたり、フンを残したりして苗の新規出現 (次の世代の木が現れること)において重要な役割を果たしている。動物による種子散布がなければ、種子のほとんどが真っ直ぐ地面に落ち、成功率が劇的に減少してしまう。このような種子は特定の宿主に寄生する捕食動物、病原体、寄生虫による繁殖障害に陥りやすい。これらの動作主は総合して「天敵」と呼ばれ、主に節足動物、菌類や他の小さな生物だ。これらの小さな天敵は、食の選択肢が豊富にある成木に近いところに密集し、健康な種子をほとんど食い尽くしてしまう。このような局部的な圧力を避けるため種子は親木の側を離れる必要があるのだが、それを可能にする主なメカニズムが脊椎動物相による種子散布なのである。

狩猟が原因でサルによる種子散布がなくなれば、その機能に依存している多くの木は繁殖できない。この点において、人間による狩猟の重圧は新しい木々の出現を止めてしまうため間接的に森林の再生に影響を与え、よって生物多様性を減らし、森林構造を作り変えてしまう。それによる最終結果はいわゆる「空洞化した森」の拡大である。空洞化した森はかつて森を定義していたはずの複雑さや生態系活動が失われている。政府も観光客と同様に既存の森を健全だと見なしがちだが、違いは明らかだ。プエルトマルドナド周辺の森は既に復帰限界点を越えてしまったかもしれない。物理的、生物学的構成を再形成する連鎖的な相互作用が既に起こっているからだ。生態系の健康はその自然システムに依存している人々に直接的に影響を与えるため、狩猟は森の生物多様性とその住民にとっての脅威となる。森林利用と保全に関する包括的戦略を立てることが地域社会の長期的健康にとって不可欠であろう。とはいえ、この問題ははっきり白黒つけられるものではないが。

途上国においては、自給自足生活をする狩猟生活者たちにとって野生動物が主な食事のカロリー源となる。熱帯林地方では野生生物のみからたんぱく質を摂取している人の環境収容能力は1平方キロメートルあたりわずか1人と計算されている。ところが熱帯のどの場所でも人口密度はこの2倍を越える。適切なたんぱく質が不足しているため、鉄欠乏性と貧血は一般的だ。家畜の肉は手に入らないか法外に高く、法的だろうがそうでなかろうが狩猟に頼らざるをえない。狩猟のため好まれる獲物は急速かつ劇的に消失したため、ごくわずかな、あるいは短期間の狩猟であっても生態的に影響が現れる。多くの大型脊椎動物は寿命が長く生殖能力が低いということもあり総数の減少に対し脆弱である。大型霊長類は特に生殖年齢に達するまで数年かかり、次に子供を生むまでの間隔も育児期間も長い。このように、人間の健康には必要に思える生存のための狩猟だが、どこでそれが行われようと持続可能であることは絶対にない。

保全への取り組みが失敗した場合、生活のために狩りに依存する人々が最も多くを失うことになるのだが、その当人たちは必要な変革を行うための術をほとんど持たない。

残念ながら、生存のための狩猟は問題の一面にすぎない。商業用ブッシュミート市場は野生生物のたんぱく質への文化的需要が増した状態にこたえるものである。特にアフリカではそうだ。都会の住民は子供時代に食べた象のステーキやゴリラのシチューなどを求める。そして長く行われてきた呪術関連の商品(人を救う強力な魔法の力を持つと信じられている動物や自然商品など)は富裕層や特権階級のニーズにこたえる。家畜肉が手に入るにもかかわらず、ブッシュミートやその他の動物製品を買える人々は特に休日や特別な機会に喜んで買い求める。商業市場により、遠隔地の無人の森さえ営利のための利用が推進されており、国際伐採業者は(快諾したかどうかは別として)道路建設や木材用トラックで密輸を行い必要な輸送インフラを整える。究極的には野生動物を狩る需要と機会があれば、熱帯林が苦しむということだ。

保全の必要性は明らかなものの、それに対する解決策は明らかではない。狩猟の悪影響を低減するために、公的な政府の保護と個人的なインセンティブを組み合わせ、最も脆弱な種を狩猟の脅威から守ることに焦点を絞って保全対策を行うべきである。政府指定の保全地域は狩猟の影響を厳しく制限するための最良の方策かもしれない。しかし多くの場合、保護区域は狭く支援は不十分で計画も不完全なため、ほとんど、あるいは全く真の保護はなされていない。ペルーのプエルトマルドナドにある小さな保全区域は厳しく保護されているが、それでも安全域を超えてしまうため多くの動物相が失われている。

これは保護された主要領域を持つ大規模な保全区域の必要性を示している。それは百万ヘクタール以上の巨大な保護地がいくつか集まったネットワークを通してのみ可能だろう。新たな保護地域を作る、あるいは既存のものに変更を加えることも可能だろう。その場合は流域全体を完全に取り囲んで狩猟者の川や道路からの進入を防ぐ「受動防御可能性」を高めるのがよい。

それでもブッシュミートへの需要が残っている限り、保護地域戦略によって完全に狩猟の慣行がなくなることはない。

もう1つの可能なアプローチは、大きな果食動物を狩ることの生態系レベルへの影響について意識を高めるため教育を実践することである。これらの種にターゲットを絞った狩猟は、将来確実に大型の実のなる木が減少する。また、その実そのものも地元の人々の食生活にとって重要であるかもしれない。局部的な場所でごくたまに、あるいは時々狩猟を行う程度であれば、近隣の狩りの行われていない場所から動物が流入してくることもあるため持続可能といえるかもしれない。とはいえこの程度に狩りを軽減する動きは今のところ見られない。より実り豊かな種への転換も、狩られる霊長類の負担を軽減するかもしれない。だがこれらの狩猟もそれ自体が広いレベルで否定的な影響をもたらすだろう。

狩猟の習慣は長期的には明らかに有害だが、例えこの事実を理解してもブッシュミート以外の選択肢を持たない地元住民を止めることはできないだろう。食料生産と流通は、米国および他の場所で相対的に過剰であるにもかかわらず、多くの熱帯では全体的に欠けている。従来の方法なら農業慣行さえ改善すれば全てはうまくいっていた。しかし、温帯の先進国でうまくいくことが熱帯地方でも同様とは限らない。熱帯の土壌は栄養素が比較的乏しく、改善された農業慣行や機械化をもってしても農業生産性は制限されるのだ。さらに大規模農業はほぼ必ず森林消失と生態系サービスの劣化を伴う。プエルトマルドナドは周辺の森林に相当の害を加えることなく急速に増加する人口を支えることはできないだろう。熱帯林の人々にとっておそらく最も重要なものは十分な食事タンパク質と鉄など関連する栄養素の流通であろう。熱帯地方で動物を育てることは、畜産の知識不足や病原体や寄生虫の数の多さを考えるとなかなか難しい。農業の改善と畜産は野生の獲物への依存を減らすことは間違いないが、この目標を達成するための道のりは不明瞭である。

ブッシュミートの危機に対処するための特効薬はない。より包括的な保全活動は現在、教育、土地利用計画、狩猟の制限といった生物多様性ベースのアプローチと、家畜の飼育の改良、獣医医療、農業の進歩といった食料ベースのアプローチを組み合わせている。地域化された努力は、地域レベルで変化を育て、より大きな保全グループは狩猟関連の影響を制限するための国際的な木材企業と連携することができる。最終的には保全への取り組みが失敗した場合、生活のために狩りに依存する人々が最も多くを失うことになるのだが、その当人たちは必要な変革を行うための術をほとんど持たない。プエルトマルドナドのエコロッジの地元ガイドたちは狩猟によって森林から魅力に満ちた動物相が奪われたことを認識してはいるものの、それについて何もすることができない。多面的なアプローチが保全において今ほど必要とされている時はない。複雑な狩猟問題には創造性、先見と協力が必要だ。唯一の永続的な解決策は地元の食料不安と森の生物学的統合性の両方に対応するものでなければならない。人間の創意工夫を持ってすればこのような問題に当惑されることなく、必ずや解決策は見つかるはすである。

プエルトマルドナドは特殊なケースではない。狩猟は地球の熱帯林全てで行われており、長期的な影響をおよぼしている。特に大型の種子散布動物を狙った狩猟は森林の動態と生態系プロセスを根本的に変え得る。そのような喪失は熱帯林共同体の構成と生物多様性に大々的な変化をもたらす。生態系の完全性が低下すれば、それが提供するサービスも低下する。狩りは多くの場合地元の人々にとって必要なものだが、それは持続不可能であり、最終的には彼らの幸福にとって有害な慣習である。保全のための解決策として生物多様性ベースのアプローチと食料ベースのアプローチの包括的な融合が必要だが、現在のところ十分にこの危機に対処しているものはない。効果的な保全活動がなければ、地元の人々が苦しむことになる。狩猟による環境への圧力が軽減されない限り、現在および近い将来に熱帯林の完全性と驚異を奪い続けるであろう。

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本稿はHuman DimensionsマガジンとUNU-IHDPのご厚意により掲載されました。

翻訳:石原明子

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著者

クーパー・ロジン氏は子供時代から科学に夢中だった。熱帯林の魅力に初めて触れたのは生態学と保全を学ぶためエクアドルへ1学期留学したときのことだ。さらに数年間新世界の熱帯で研究したり教えたりしながら生活したのち、デューク大学の環境管理学修士課程に入学し、現在は生態圏管理学の博士号に向けて研究に取り組んでいる。熱帯林での人間による生物多様性への影響と生態系の健全性を理解するため保全志向の研究を続けたいと考えている。