マックス・リッツ氏はトロント大学で地理学の修士号を取得し、在学中、タールサンドにおける視覚表示と政治的生態をテーマに修士論文を執筆した。現在はブリティッシュコロンビア大学博士課程にて地理学を学んでいる。
クレイトン・トーマス=ミュラー氏は、活動家で著述家であり、先住民環境ネットワーク(IEN)タールサンド運動の担当リーダーでもある。タールサンドの大規模プロジェクトに抗する最も能弁かつ熱心で慈愛に満ちた反対派のひとりだ。
近年、カナダの与党である保守党は、タールサンドを「倫理的なオイル」としてブランディングし直すことで、市民の懸念を和らげようとしているようだ。だが、ファースト・ネイションズ(先住民族)の増大しつつある政治力を信じるトーマス=ミュラー氏の姿勢は、今後もタールサンドへの警戒が緩まないであろうことを示唆している。
トーマス=ミュラー氏との最近のインタビューで、私たちは気候正義や企業の環境保護主義、そして、条約で認められた自らの領土内でのタールサンド開発をめぐり、アルバータ州政府とカナダ政府を訴えた先住民族コミュニティ、ビーバー湖クリー族(彼らの主張によれば、ビーバー湖の人々の憲法で保障された権利に対する侵害は15,000件を超える)についてなど、多岐にわたる話題を語り合った。
以下に、その長く啓発的なインタビューの一部をご紹介する。
Q: クレイトンさん、まずは先住民環境ネットワーク(IEN)を含めて近況を教えてください。タールサンドをより広く知らしめ、その闘いを国際化させ、団結を強めていくという目標に関連して、過去数ヶ月でどのような進展がありましたか? 出会った人々、耳にしたストーリーなど、個人的に印象に残ったことはありましたか?
A: 過去2ヶ月は重要な展開に満ちていたと言えると思います。最近では、北米先住民族の代表団を率いて国連気候変動枠組条約の会議に出席するという社会的な意義の極めて大きいイニシアチブを成し遂げました。私たちの目的は、ヒラリー・クリントン米国務長官が意思決定権を持つ問題のなかで最も論議を呼んでいるもののひとつであるタールサンド問題の重要性を高めることでした。つまり、建設されればタールサンド抽出量を3割以上増加させることになるキーストーンXLパイプラインを承認すべきか否かというものです。
このパイプラインは、周辺の先住民族すべてに極めて大きな影響をもたらします。ですから先の会議でIENは、メディア戦略に加え、非暴力の直接行動という戦略をとりました。主要な大手メディアを対象にしながらも、むしろインターネットで幅広くコミュニティ支持の意見が流布されることを狙いました。タールサンド問題における私たちのメッセージはひとつ、「タールサンドは生命を奪う。パイプラインは汚染させる」というものでした。
とてもわくわくしましたよ。私たちの行動は、この国連の会議で最初に目立ったアクションだったのです。サミットの開始時点から、私たち全員が「タールサンドを閉鎖しろ」というスローガンのTシャツを着ていました。その姿がとても印象に残っています。同時に、関連団体の「環境正義トロント」が、「タールサンドは生命を奪う。パイプラインは汚染させる」というスローガンを掲げ、トライポッド・アクションでベイ・ストリートを閉鎖しました。
一方、米国の首都ワシントンでは、約20名の先住民族の代表が、計画中のキーストーンXLパイプラインに関して会談するために米国務省を訪問しました。 ですから、先住民族のタールサンド運動においては、過去2ヶ月間で草の根ネットワークの勢力の広がりを示すことができたと思っています。
Q: そのようですね。でも、あなたはご自身で、反タールサンド運動には先住民族の関与が不足していると書いていらっしゃいます。先住民族コミュニティのなかには、(雇用などを)化石燃料経済に依存しているところもあると。この点についてお話しいただけますか?
A: タールサンドへの経済的な依存を軽減するために私たちの運動が何をしたか、ということですか? あまりしていません。アサバスカ部族議会の5つの先住民族コミュニティ、それに第6条約該当のコミュニティのいくつか(サスカチュワン州とアルバータ州の中央部にある条約対象地域)が歳入の86%をタールサンド契約から得ている、というのが悲しい現実なのです。
こうした依存は先住民族コミュニティに限ったことではなく、他の自治体でも同様です。これまでも分かってはいたことですが、これは私たちにとっては、最近始まったことではないのです。私たちは長い間、パワーゲームを逆転させ、権力のパラダイムを変えることを必要としてきたのです。
(オイルからの収入でグリーン経済を構築しようという怪しげな説など)タールサンドを潤滑油として新たなエネルギー経済に突入しようという人々に対しては、インディアンの問題を解決することなしでは不可能だと言いたいのです。IENの取り組みは、長期的なヴィジョンに根ざしています。カナダの法環境は急速に変化しています。領土に関して先住民族の権利を認める判例は増えています。先住民族関連法は、かなり急速に対象範囲を拡大しています。そのことが、カナダ経済で最もないがしろにされてきた人々にある程度の力を与えているのです。
こうした状況と同時に、基本的な数字も考慮しなければなりません。この国の先住民族の75%は30歳以下なのです。2015年までに、この国の労働者の4人に1人が先住民族ということになります。ですから、政治や法律や経済、そして精神的な意味でも、この国で最もないがしろにされてきた人々への大きなパワーシフトが起こるのです。
では経済に関して、直接的に私たちが何かをしたかというと、あまりしていません。しかし、先住民族の人々は、新たな経済パラダイムでとても大きな影響力をもつと私は思います。その土台を作るために、いま私たちは努力しているのです。
Q: タールサンドに関しての意識を高めるという点でカナダとアメリカではどう異なりますか? ネットワーク構築の可能性にそれぞれの国はどのような影響を与えてきましたか? 両国の先住民族と一般社会、NGOの間のネットワークや関係構築のチャンスをどうみていますか?
A. 健康問題、先住民族の権利と条約の侵害、伝統文化の破壊、その他、先住民族が掲げる数多くの懸念に関しては、両国ともに最良の味方ではありませんでした。先住民族が介入することへの反応にも違いがあることが分かっています。米国国務省と先住民族の信頼関係と、カナダにおけるカナダ政府と先住民族の信頼関係は異なるものです。
米国では、先住民族の主権は極めて重要視されています。環境政策、そして大規模プロジェクト阻止のために部族がとれる法的手段の数などで、カナダの先住民族とは大きな差があります。米国では連邦環境法下に先住民族の環境保護プログラムがあり、それを適用して各部族がそれぞれ環境科学者を有し、環境保護条例をもつことができます。独自の水質や大気の品質基準をもつ部族も多いのです。最も良い例はモンタナ州のノーザン・シャイアン族で、部族政府の環境保護省による水質基準があり、水質に関するデータでは米国一のデータとして認識されています。こうした規制政策は米国の一般の地方自治体にも匹敵するものです。
カナダの私たちには環境政策といったものは事実上存在しません。そのため、先住民族が主権を主張しようとするときには、微妙な立場に立たされることになります。先住民族の立場からすれば、州政府と領土権を交渉するということは、先住民族の主権、そしてインディアン法、35条や既存の判例法で規定された信託を侵蝕することになるのです。
Q: そうしたことから、キーストーンに関する法制化を動かす力に大きな差が出た、ということなのですね。
A: IENは、キーストーンXLに関する運動を通じて、パイプラインの押しつけに対する先住民族側の主張をまとめるために、モンタナ州からメキシコ湾にいたる地域の12部族を組織しました。その結果はどうなったでしょう? キーストーンXLに関する米国国務省と先住民族側の会談が実現したのです。
今のカナダで、そうした会談が実現するのでしょうか? カナダでは、先住民族はカナダ石油生産者協会、国家エネルギー委員会、エネルギー資源保護委員会と交渉することになります。いずれも、複数のステークホルダーをもつ異なる規制団体ばかりで、先住民族に対抗してカードを積み上げ、先住民族をカナダの国内の他のステークホルダーから孤立させているのです。 しかし、大きな違いはあるものの、タールサンド拡大、特に現実の物理的な開発に対する先住民族の介入に関しては、両国政府ともに非常に苛立っている、ということは(3番目の質問への答えとして)最後に付け加えておきましょう。
Q: PowerShiftでの講演で、あなたは気候正義について、あなたの世代の公民権問題だと述べています。公民権運動の闘いには、現在の闘いに通じるものがある、という意味で、米国その他の地域の公民権運動の人々には働きかけてきたのですか?
A: 答えはイエスでもありノーでもあります。私たちは米国の様々な社会運動の活動家たちに働きかけてきました。IENは、米国社会フォーラムの中心的な推進役であり、米国で今なお活動している数少ない環境正義ネットワークのひとつでもあります。しかし、環境正義運動は公民権運動や環境保護運動で十分取り扱ってこなかったことを取り上げるために生まれたのです。両者とも、先住民族コミュニティにおける環境問題が人権の問題であることを、考慮してこなかったのです。反戦運動全般、そして主流である環境保護運動を見ても、人種と階級は、常に意見の対立を生んできました。
環境正義運動は私たちの世代の公民権運動だと私が言ったのは、タールサンドのような問題を見れば、母なる地球のあらゆる地域、あらゆる社会に影響する巨大な問題ではあるものの、影響の大きさは様々で、均等ではないからです。最も影響を受けやすいのは、通常は新たな移民のコミュニティ、インディアン自治区、都市部の低所得コミュニティなどの民族コミュニティです。
気候政策の導入の過程を見てみても、私たちには責任があります。化石燃料が支配する現在の経済パラダイムにより、不当に被害を被っているコミュニティに対して国が負う生態系への負債に対処しなければなりません。排出規制の違反者が支払う罰金や、軍事予算・石油石炭産業助成の予算を再配分してゼロ・カーボン投資に向けるといった財政計画など、公共セクターの気候政策メカニズムで生まれた収益を適切に配分する移行モデルを開発し、民間セクターやカーボン市場に資金が流れないようにしなければならないのです。
Q: あなたは何度か環境保護運動について触れましたが、企業による環境保護主義についてはどうでしょう。前回私がインタビューしたペトル・チゼック氏(土地利用計画者で、批判的な地図制作者)は、ピュー・チャリタブル・トラストを通じてサンコールと資金的につながっているダックス・アンリミテッドに対して極めて批判的でした。タールサンドに関して様々な環境保護団体が様々な目的で運動していることには、どのような問題があるとお考えですか? あなたがこれまで説明されたことや、これから実現させたいことに、彼らの動きはどの程度影響するのでしょうか?
A: そうですね、ペトルは知っていますし、その分析は優れていますが、ペトルや主流となっている環境保護活動家による分析には、この国の先住民族の政治力をきちんと把握していないという問題があります。現実には、私たち先住民族がこの運動をリードしていくのです。なぜなら、これは自分たちの問題だからです。自分たちが直面する問題の解決策を理解しているからこそ、私たちは自分たちのために発言していくのです。多くの団体はそれを理解せずに、私たちを、クリーン・エネルギーや気候政策にまつわる議論といった、より大きなチェスのゲームの戦術的布石に過ぎないとみています。多くの大手環境保護団体の主張は、単純に時間がないことを理由として、先住民族にきちんと説明責任を果たすようなものにはなっていません。「間に合わなくなるから行動しなければ」というわけです。
しかし私たちのコミュニティにおいては、遥か昔に時間を使い果たしてしまった、というのがIENの主張です。タールサンドのような問題は、私たちのコミュニティにとってすでに生死に関わる問題なのです。フォート・チップでは、タールサンドが原因で過去10年間に100人以上が死亡しています。
ペトルの分析に話を戻すと、確かに主流となっている環境保護運動やそうした運動を支える団体、ひいては非営利産業全般には、透明性や説明責任に絡む勢力争いが存在します。そしてそう、企業の利権との結びつきも現実にあります。しかし先住民環境ネットワーク(IEN)は、この国でもっともないがしろにされ、危機の前線にいるコミュニティのために活動しており、私たちのコミュニティがそう望まない限り、どのような団体も無視することはありません。どのような人々も、私たちは味方あるいは戦術上の味方だと見ているのです。
ダックス・アンリミテッドは、環境保護に関する彼ら自身の主張をごり押しし、先住民族保護区を白人の環境保護団体の掌中に留めるために、カナダとアメリカの先住民族に対して彼らの主権を侵害するような訴訟を何度も繰り返し起こしてきました。こうしたことは、私たちにとっては今始まったことではありません。長年、同じようなパワーゲームに直面しているのですから。ですから私たちは、むしろ支配と弾圧というこれまでのパターンを推進する勢力に対抗すべく、私たちのコミュニティやその支援者による政治基盤を拡大することに集中しているのです。
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本インタビューの原文は raventrust.comに掲載されており、元の記事にはさらに2つの問答が掲載されている。RAVENは、カナダ先住民族を資金面で支援している慈善団体で、地球温暖化をはじめとする生態系の持続可能性にまつわる課題に取り組みながら、同時に産業開発と先住民族の伝統的生活様式の調和を合法的に推し進めている。
翻訳:ユニカルインターナショナル
タールサンドに関する先住民族の権利 by マックス・リッツ is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.