種子貯蔵庫へ

インド象の好物であり、絶滅の危機に瀕しているピンクバナナが、世界の種子の「ノアの方舟」を造ろうという国際的なプロジェクトにおける最初の成功を画する、記念すべき植物種となった。

このバナナMusa itinerans(学名)は、その種子が採取され、乾燥され、キュー植物園(ロンドン郊外のキュー地区にある王立植物園)所有のミレニアム・シードバンク(種子銀行)に保存された24,200番目の種だ。これにより、17年間の努力を経て、ミレニアム・シードバンクは世界の10%の植物種を採集・保存したことになる。

1992年のリオ地球サミットを契機として2000年にオープンしたこのシードバンクは、人間による開発と気候変動の脅威にさらされた推定200,000種の種子植物を、確実に保存し未来に伝えることを目的としている。これまでに採取された16億個の種子は、サセックス州のキュー植物園分園の中、モダンな低層複合建築の地下で超低温貯蔵庫に保存されている。ピンクバナナの種子もそこに加えられる。

「今日私たちが達成を祝っているこの成功は素晴らしいものだ。これほどのスケールでの実現は、地球規模の生物多様性保全において、かつては想像もできなかった」とキュー植物園館長のスティーブン・ホッパー教授は述べた。「生物多様性の減少と気候変動に対する懸念が高まっている今、ミレニアム・シードバンク・パートナーシップは、希望への真のメッセージであり、不確かな世界において皆に確かな力を与えてくれる」

このシードバンクはすでに現実の「復活」ストーリーをいくつか生み出している。今年初め、オーストラリアで起きた山火事は、多くの死者を出した。それと同時に、メルボルンから東に60マイルの辺りに群生していた、知られているうちで唯一のシャイニー・ネマトレピス(ミカン科ネマトレピス属の植物。学名:Nematolepis wilsonii)の低木群が消失した。2007年にキュー植物園のシードバンクに保存されたこの植物の種子から、150本の若木が育てられ、元の生息地に程近い新しい場所に挿し木された。

ミレニアム・シードバンク・パートナーシップの代表ポール・スミス氏によると、このシードバンクは、予定の14か月前に、目標値10%を予算内で達成した。「欧米からオーストラリア、アフリカまで、世界中の植物学者や研究機関から、予想以上の反響があった」と彼は言う。

広がる懸念

スミス氏によると、絶滅危機種の数は、以前は60,000~100,000種と見積もられていたが、地球温暖化によって今世紀中に予期される2~4℃の気温上昇の影響を考慮に入れると、さらに多く200,000種となる。とりわけ高山や島の植物は、溶けていく氷河や海面上昇の脅威にさらされている。知られている種子植物の総数も、以前は240,000種と考えられていたが、プロジェクト開始後には、さらに多く300,000種と見積もられるようになった。

多くの植物種にとって目下の脅威は気候変動ではなく、新しい道路や鉄道、産業や住宅といった、人間による開発の拡大だ。緊急な保護が必要な種を優先するため、シードバンクはグーグルアースを使い、新しい開発地と生息地喪失の場所を示した地図を作成している。その地図には、ピンクバナナの生息地のジャングルにおける、年間1300万ヘクタールの森林損失と商業的な森林伐採も含まれている。

シードバンクではプロジェクトの次の段階として、2020年までに世界の植物種の25% ―― 約75,000種 ―― を採集するという、さらに野心的な目標を設定している。そして将来的には、何万種類とあるコケやシダといった非種子植物も保存したいと考えている。中国(10,000種)とアメリカ合衆国(14,000種)が今後の鍵となる地域であり、プロジェクトの今の勢いを持ってすれば、次なる目標の達成も十分可能であるとスミス氏は自信を持っている。

ヒラリー・ベン環境大臣は以下のように述べている。「この10%という目標値達成は素晴らしい成果だ。ミレニアム・シードバンク・パートナーシップは、120以上の研究機関が協力し合ってその手腕と知恵を結集し、この実現を果たした。このような真にグローバルな努力に関わったすべての人々の功績をたたえ、2020年の目標に向けたさらなる努力が実を結ぶことを願っている」

種子貯蔵庫へ

ロンドン西部にあるキューは、洪水の被害に遭う危険性があるため、ミレニアム・シードバンクはキュー植物園ではなく、サセックス州の分園、ウェイクハースト・プレイス植物園内に置かれている。ミレニアム・シードバンク・パートナーシップは極めて国際的なプロジェクトである。レバノン共和国の珍しい花の種子からボツワナ共和国の植物の根まで、あらゆるものを提供してもらうため、世界中の植物学者の協力を必要とする。シードバンクに標本が届くと、まずは種子を洗浄し数を数える。植物ハンターたちには、それぞれの植物種につき20,000種ずつ集めてきてもらうのが理想だが、同時に、種の生存を脅かすほどたくさんの種子を取らないよう気をつけてもらわなくてはならない。集められた種子は乾燥され、密閉容器に入れられ、一定の温度(-25℃にまで冷却可能)と湿度の中、保存される。種子は理論的には1,000年までもつとされるが、研究者たちは毎年いくつかの種子を選択し発芽させ、生き続けていることを確認している。

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この記事はガーディアン紙のウェブサイトにて掲載されたものです。(2009年10月15日(木)イギリス夏時間00:05)

翻訳:金関いな

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著者

アダム・ヴォーンはガーディアン紙ウェブサイトの環境部門の副編集長。以前はSmartPlante、Newconsumer.com,、Hippyshopper、そしてStuff.tvといったエコ消費者と技術についてのウェブサイトの編集をしていた。